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「間違いだらけの電力問題」山本隆三

2024/10/08公開 更新
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「間違いだらけの電力問題」山本隆三


【私の評価】★★★★☆(80点)


要約と感想レビュー

石油危機からエネルギーの多角化

著者は住友商事で地球環境部長として京都議定書の排出権取引に関わり、電力業界に興味を持ちました。著者が気づいたのは、「電力問題の本質は日本のエネルギー問題である」ということです。


著者が驚いたのは、日本の有識者や社長レベルでも電力について無知な人が多く、誤解も多いというのです。そのため、書籍前半は電力業界の基本的な説明が続きます。


日本では石油危機以降、エネルギー安全保障の観点から、エネルギーの多角化を図ってきました。電力業界も燃料の多角化を進め、燃料調達では長期契約を基本とし、安価で安定したエネルギー供給を目指したのです。


具体的には原子力発電を導入し、石炭、ガス、石油、水力、地熱、風力など全体のバランスを見ながら、コストが高くても一定比率を維持するなどして、エネルギー源を分散させていったのです。


ほとんど全てのエネルギーを輸入する日本・・・ハワイ州の電気料金は日本よりも高いのです(p4)

不安定で高コストの再エネを大量導入

ところが、東日本大震災後の原子力発電所の炉心溶融という大事故から、日本は原子力をすべて停止。さらに、高い価格で再エネを大量導入し、電力の全面自由化を進めました。実は電力自由化や、高い価格で再エネを買い上げる方式は、欧米でで実施されていたことを真似たのです。同じことをやってみたかったのでしょう。


しかし、当時から再エネを高い金額で買い取る制度を導入した欧州では、電気料金が上昇し、系統が不安定になるなど、問題が顕在化していました。2023年のドイツの家庭用電気料金は、1kWh当たり45ユーロ(75円)まで上昇しているのです。


風力や太陽光は発電量がお天気しだいで変動するため、不安定な発電をバックアップする火力発電所ようの費用が別に必要です。モデルケースで事業用太陽光の発電コスト11.2円は、バックアップ・送電コストを加えると18.9円になるという。


これまで再エネ固定価格買取制度により、電気料金から支払った累計の金額は2023年9月末で27兆円です。太陽光、風力発電設備の製造は、中国、欧州、米国製が多く、日本は太陽光発電パネルや風車を海外から買って、海外の企業を儲けさせているのです。


年間を通した利用率は・・日本では太陽光発電で15%程度。陸上風力発電設備で20%台、洋上風力で30%台だ(p42)

電力自由化の結果は欧米と同じ

日本は電力卸市場を創設し、電力全面自由化を進めました。電気は電力卸市場で仕入れることができ、誰でも電気を販売することができるようになったのです。もちろん、誰でも発電所を作ることもできるのです。電力卸市場の本質は、余った電気を買える市場です。したがって、電気が余っている時は安く、電気が足りなくなると高騰します。自由化すれば、最適な発電設備が形成されるというのが、推進した人たちの理論でした。


ところが、電力市場を導入したカルフォルニア州では、発電設備は増えず、電力卸価格は上昇しました。一部発電事業者が、卸価格上昇を目的に意図的に発電所を止めていたらしいのです。また、電力自由化したテキサス州では寒波で電力供給が難しくなり、電力卸価格は100倍になり、1日電気代が10万円という家庭もあったのです。


日本でも2020年の寒波で電力卸価格が高騰し、電気料金に転嫁できなかった新電力会社が破綻しています。電力卸市場の本質を理解していない新電力は、卸市場で電気を仕入れて、固定価格で販売していたのです。大手電力会社も、規制料金における燃料価格調整の上限の1.5倍を超えて燃料価格が上昇し、数千億円の赤字を出した会社もあったのです。全面自由化したのに規制料金が残り、逆ザヤでも売らざるをえないという法律の不備を、大手電力会社は黙って耐えていたのです。


また、自由化により将来の電気料金が不透明になり、発電設備の新設が減ってしまいました。電力会社の安定供給義務がなくなり、電力会社はそれまで維持していた利用率の低い老朽化した石油火力を廃止していきました。赤字発電所を維持する義務はなく、発電所が少ないほうが、電力卸価格が上昇しやすいからです。


自由化により将来の電気料金が不透明になったため、発電設備の新設がないどころか、既存設備の中でも利用率の低い老朽化した石油火力の休廃止が相次ぐことになった(p201)

脱炭素で電気料金は確実に上昇

京都議定書でCO2の排出権を売っていた著者は、2050年脱炭素を達成しようとすれば、電気料金は確実に上昇し、エネルギーの安定供給は不安定になるとしています。したがって、2050年のカーボンニュートラルは必達目標と考えず、日本の経済と市民生活に影響を与えない範囲内で脱炭素を進めるのが、現実的な取り組みだと提言しています。


具体的には、電源の多様化の視点で石炭も利用して発電コストの抑制を考えるということです。つまり、日本のように送電線網が大きくなく、燃料パイプラインの整備されていない国が、欧州や一部の米国の州が進めた脱炭素・電力自由化と同様のことは行えないのです。


エネルギー・電力価格は経済の基礎であり、その価格競争力を失えば、日本の経済成長もなく、自滅の道を進むだけなのです。実は著者が最も言いたかったことは、日本の政治家や学識者や経産省担当者が電力について無知な人が多く、誤解も多かった結果が今の状況ということなのかもしれません。山本さん、良い本をありがとうございました。


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この本で私が共感した名言

・米国も旧ソ連も事故のあった設備を廃止したものの、同じ発電所内の設備を含めて全ての原発の運転を続けた(p72)


・日本の電力、ガス会社は、LNGの長期契約の一部をスポット契約に切り替えていたが、購入量の7、8割を依然長期契約に基づき契約しており、欧州エネルギー危機による天然ガス価格上昇の影響を欧州ほどには受けなかった(p83)


・関西電力管内では、11月の新電力から関西電力への契約変更が、新電力への契約変更の約2倍になった。7基の原発が再稼働した関西電力の電気料金に競争力があるということだろう(p138)


▼引用は、この本からです
「間違いだらけの電力問題」山本隆三
山本隆三、ウェッジ


【私の評価】★★★★☆(80点)


目次

第1章 エジソンの時代から変わらない発電方式
第2章 世界と日本の発電事情
第3章 増える電力需要、上がり続ける電気料金
第4章 少子化にも影響を与える電気料金
第5章 停電危機はなぜ起きる
第6章 脱炭素時代のエネルギーと電気



著者経歴

山本隆三(やまもと りゅうぞう)・・・常葉大学名誉教授。NPO法人国際環境経済研究所所長。京都大学卒。住友商事地球環境部長、プール学院大学(現桃山学院教育大学)教授、常葉大学経営学部教授を経て現職。経済産業省産業構造審議会臨時委員などを歴任。


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