「ビジネスと人生に効く 教養としてのチャップリン」大野 裕之
2023/06/12公開 更新本のソムリエ [PR]
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【私の評価】★★★★☆(85点)
要約と感想レビュー
日本チャップリン協会会長
日本チャップリン協会会長って何だろう?と手にした一冊です。
著者は23歳から2年間、チャップリンが英国映画協会に保管されていた未公開NGフィルムをすべて見て、カタログを作成したという。未公開NGフィルムをすべて見てわかったのは、チャップリンが何百回と撮影を繰り返していることです。20分ほどの短編喜劇の撮影のために40日、800テイクも撮影していたこともあるという。それも最初のシナリオからどんどん変わっていくのです。
パリのカフェのストーリーで撮影しているうちに、俳優が変わり、アメリカの田舎のカフェに設定が変わっていったりする。ギャグもどんどん追加されるのですが、最後に残るギャグは一部だけなのです。つまり、追加、カットを繰り返す中で、差別的な笑い、安易なギャグを排除していくことで作品が作られていたのです。
・チャップリンは、自分の演技に納得がいくまで同じシーンを何十回でも撮り直した完璧主義者(p63)
ヨーロッパの通貨統合を提唱
チャップリンには、知的な人間であった逸話が多く残っています。チャップリンは、アメリカのバブル時代に「絶対に株は暴落する」と判断して、持ち株をすべて売却し、金貨に換えたという。その2ヶ月後、ニューヨーク株式市場が暴落し、世界恐慌が始まるのです。1917年にはチャップリンを模倣する俳優たちを相手取って訴訟を起こし、世界で最初にキャラクターの肖像権、知的財産権を認めさせました。
また、ヨーロッパの通貨統合を提唱し、人種差別のギャクを使わず、同性愛を映画に取り込んだり、戦争や独裁者に反対しました。現代社会でも全く違和感のない政治信条を持ち、自由と民主主義を愛していたのです。
・チャップリンは、株価を見るのではなく、失業者数が増えていることに注目し、貧富の差が拡大していることを憂い、こんな経済は持たない、株の暴落は時間の問題だ、と分析しました(p163)
一人殺せば悪党で、100万人殺せば英雄だ
チャップリンは映画「独裁者」の制作のために、ヒトラーを徹底的に研究し、ヒトラーは優れた役者であり、狂人であると家族に言っていたという。しかし、自分も喜劇役者であり、実は立場が違えば、反対になっていたかも知れないと、半分は恐怖、半分は惹きつけられる思いであったという。
チャップリンは「殺人狂時代」で殺人犯に「一人殺せば悪党で、100万人殺せば英雄だ」と言わせています。また、「独裁者」では結びの演説で、独裁者たちは自分たちを自由にし、民衆を奴隷にすると言わせています。今のロシア、中国を見ていると、今こそ、チャップリンの映画を見直すときなのかもしれません。大野さん、良い本をありがとうございました。
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この本で私が共感した名言
・父が死んだ後、12歳のチャップリンが喪章をつけて酒場で花を売った・・「父が死んだのです」と言うと酔客たちは同情して花を買ってくれました(p85)
・父が酒に溺れて死んだだめ、・・今もチャップリン映画とそのキャラクターはお酒の会社のCMには使用できません(p30)
・劇団員時代のチャップリンは内向的な性格で、団員からは変人扱いされていました(p50)
・他の団員が飲み遊んでいる間も、一人でもの静かにショーペンハウアーの哲学書など難しい本を読みふけり、くたびれたシャツをずっと着続けて貯金(p50)
・秘書は日本人だった・・高野虎一(こうのとらいち)・・1926年頃チャップリン家で働いていた17人の使用人は全員日本人だったほどです(p209)
【私の評価】★★★★☆(85点)
目次
第1章 チャップリンの作り方!
第2章 謎解きチャップリン映画
第3章 チャップリンから学ぶビジネス
第4章 チャップリンが予知していた未来
第5章 チャップリンvsヒトラー 武器としての笑い
著者経歴
大野 裕之(おおの ひろゆき)・・・1974年大阪生まれ。脚本家・演出家・映画プロデューサー・日本 チャップリン協会会長。大阪府立茨木高校卒。京都大学総合人間学部卒、同大学院人間・環境学研究科博士課程所定単位取 得。国内外のチャップリン関連企画やブルーレイ等を監修するな ど日本でのチャップリンの権利の代理店も務める。映画『太秦ライムライト』(第18回ファンタジア国際 映画祭最優秀作品賞)、『葬式の名人』『ミュジコフィリア』他でプロ デューサー・脚本を担当。2006年ポルデノーネ無声映画祭特別 メダル、14年京都市文化芸術産業観光表彰「きらめき賞」受賞。
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