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「校長は興銀マン―4年間の出向で学校が変わった!」安川 周作

2022/12/22公開 更新
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「校長は興銀マン―4年間の出向で学校が変わった!」安川 周作


【私の評価】★★★☆☆(78点)


要約と感想レビュー

 千葉県の私立「千葉黎明(れいめい)高等学校」に校長として4年間出向した元日本興業銀行マンの高校教育現場での奮闘記です。千葉黎明高等学校は普通科と生産ビジネス科(旧農業科)を持ち、偏差値は千葉県で最低ランクであったという。


 千葉黎明高等学校に校長として着任して驚いたのは、興銀では数冊の引継書が準備されていた引継ぎが、ほぼなかったこと。仕事の継続性の観点から、前任者がいい加減な人だったのでしょう。また、教員は新しいことに手を出したがらず、ある時、校長の提案に反対していた教員に対案をたずねると「対案はありません。それは管理職の考えることでしょう」と言い放ったという。反対のための反対だったのですね。朝の10分間読書を提案したときも、「最低でも1、2年の準備期間が必要です」と言われ、結局、校長自身が朝の10分間読書の他校のやり方を教えてもらい、1ヶ月後に生徒の朝の10分間読書をスタートさせたという。


 さらに、著者が読書家であることもあると思いますが、著者は本を読まない教員がいることに驚いています。教員に「良い本」を配って感想を求めようとしたら教員が反発するということで自由形式での提出になってしまったというエピソードもさもありなん。夏休みの宿題として全生徒に読書感想文を書かせているのに、自分たちが同じことを要求されると反発するのが、現場の実態だったのです。


・学校に来て驚いたことのひとつは、本を読まない教員がいることだ(p46)


 面白いのは著者が千葉黎明高等学校で行った改革の中身でしょう。


 まず生産ビジネス科の地域交流、資格取得、「作ったものは、食べるか、売る」という伝統を外部にPRしたこと。
 朝の10分間読書をはじめたこと。
 外部のセミナーや書籍を紹介したり、法政大学キャリアデザイン学部と特進クラスとの交流会を定例化させ、大学進学率を高めたこと。
 就職指導で志望理由を丸暗記させていたのを、校長自らマニュアルを作り、表情と態度、身だしなみに気をつけ、良い印象を与えることに注力したこと。


 一つひとつは小さな変化ですが、それらが積み重なって何かが変わっていったのでしょう。


・勉強する教員はさらに勉強し、そうでない者はほとんど勉強しない(p29)


 日本興業銀行というとお硬いイメージでしたが、著者から見ると、高等学校という世界はそれは遥かに超えた勉強しない、変化しない硬直化した組織であったのです。この本が書かれた2006年の偏差値は普通科・特進コースが51まで上昇していましたが、現在の偏差値は普通科・特進コースが60程度と大きく改善しています。著者が千葉黎明高等学校の変革のきっかけを作ったのは間違いありません。


 著者が最後に警告しているのは、学習指導要領が、文部科学省告示として決定されていることです。国会の審議を経ずに、文部科学省と一部の専門家が国の教育方針を決めているのです。硬直化の原因の一つに文部科学省のスタンスもあるのでしょう。自虐的な歴史教科書問題もありました。「出会い系バー」通いしていた次官が政治運動をしているようなところもあり、文部科学省をもう少し調べてみたいと思いました。安川さん、良い本をありがとうございました。


この本で私が共感した名言

・生徒は評価するが、自分たちは評価されたくないという不思議な感覚が、学校の中では大手を振ってまかり通っている(p27)


・ビジネスの世界では・・・勉強しない者は落語するしかない。一方、教員の世界では勉強し続けなくても何とかやっていけるという(p26)


・ある部長が支店長候補者を前にして「支店長着任後二ヶ月間は気付いたことを口に出さず、ただメモする。次第に理由がわかってくるから、理解できたものは消し、残ったものについてのみ改善策を講じる」と説明していた(p14)


▼引用は、この本からです
「校長は興銀マン―4年間の出向で学校が変わった!」安川 周作
安川 周作 、学事出版


【私の評価】★★★☆☆(78点)


目次

第1章 出向
第2章 千葉黎明高校
第3章 文化の違い
第4章 生産ビジネス科
第5章 読書
第6章 進路指導
第7章 法政大学との高大連携
第8章 モンスター新入社員を生んだ学習指導要領
付章 校長室だより



著者経歴

 安川 周作(やすかわ しゅうさく)・・・株式会社アンビシャス常務取締役。1953年生まれ。兵庫県神戸市出身。京都大学法学部卒業後、日本興業銀行に入行。一貫して国内業務にたずさわり、個人・事業法人・公共法人向けの各営業を担当。神戸支店副支店長のときに第一勧業銀行、富士銀行との3行統合が発表され、統合準備のため持株会社であるみずほホールディングスに出向する。2002年の新銀行発足に際しては、みずほ銀行個人企画部に所属。翌2003年、学校法人千葉黎明学園に出向し、2007年3月までの4年間、千葉黎明高等学校校長ならびにNHK学園高等学校千葉協力校校長を務める。日本キャリアデザイン学会会員


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