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「語られた歴史 島津久光」安川 周作

2022/10/21公開 更新
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「語られた歴史 島津久光」安川 周作


【私の評価】★★★★☆(83点)


要約と感想レビュー

 明治維新とは何だったのか、薩摩藩の島津久光に焦点を当てて、素顔の久光を考える一冊になっています。当時は江戸幕府の体制を支持する勢力(佐幕派)と、長州、薩摩、水戸のように反幕府、朝廷を支持する勢力(尊王倒幕)の主導権争いが起きていました。


 1862年、島津久光が幕府の人事改革を求めて1000名の兵士を連れて京都、江戸へ向けて出発します。目的は幕府の政権内に松平春岳と一橋慶喜をすえて、一致団結して外国に立ち向かう体制をつくることでした。しかし薩摩藩の中にはこの機会に佐幕派を一掃しようと考える志士が多くいました。このため久光は出発前にこのような志士との交流を禁じたという。久光は攘夷が簡単にできるとは考えていなかったのです。


・万一事変到来の節は、第一に順聖院様御深志を貫き、国家(薩摩藩)を持って天朝を護り奉り、忠勤を抽(ぬき)んずべき心得に候」(藩主忠義)(p34)


 島津久光というと生麦事件を引き起こし、当時、孝明天皇が攘夷を命じていたことから久光が意図的に外国人を殺害したと考える人もいます。しかし、この本では久光は簡単に攘夷ができるとは思っておらず、生麦事件は馬に乗ったままで久光の行列とすれちがおうとした外国人が原因であったとしています。ただ、藩士も攘夷一色であり、久光は藩内が混乱しないように、あえて攘夷を否定しなかったのだろうと推測しています。


 久光は生麦事件を起こした後、京都で天皇からじきじきに攘夷実行について剣を拝領しています。英国と一戦交えざるをえない状況に追い込まれたともいえるでしょう。久光は藩のトップでありながら、藩内の空気を読みながら、部下を説得しつつ、時代の潮流に流されていく様は、日本人らしいといえば、日本人らしいと感じました。


・久光は外国人を「一両人殺して何にもならぬ」・・こともわかっていました。しかし、世のなかが攘夷一色で藩士たちも同様だったことから、混乱をさせまいと黙っていた(p103)


 明治維新で長州、薩摩が主導権を持ったのは、やはり経済力と軍事力だと感じました。「ハンマーを持っていると、すべてが釘に見える」というように、軍事力を持っていると使いたくなるのです。明治維新では久光の意に反して、廃藩置県、四民平等、廃刀令など急速に西欧化が進みました。久光はこうした物や精神的な西洋化に反対であったようです。


 知識と情報量の差が大きかった時代であり、薩摩藩の中だけでも方針について温度差があり、日本の組織の変われない部分を見てしまった気分になりました。そうした保守的な日本ではありますが、明治維新を達成したことも事実であり、明治維新をもう少し調べてみます。安川さん、良い本をありがとうございました。


この本で私が共感した名言

・久光は、寺田屋にいる暴徒に自分が直接言い聞かせるからつれて来いと命じましたが、彼らのことをよく知っている中山は、おとなしく指示にしたがう連中ではないから、いうことを聞かねば「臨機の処分をせよ」と命じました(p63)


・琉球通宝をつくることの許可を得た薩摩は・・少しだけ琉球通宝をつくり、あとはそっくり同じ形の天保通宝に切り替えて藩の収入を増やしました(p82)


・久光が危惧していたのは、急速な西洋化によって、日本の伝統や文化が失われることでした(p174)


▼引用は、この本からです
「語られた歴史 島津久光」安川 周作
安川 周作、南方新社


【私の評価】★★★★☆(83点)


目次

第1章 生い立ち
第2章 兵卒上京
第3章 寺田屋事件
第4章 大原勅使に随行して江戸へ
第5章 生麦事件と薩英戦争
第6章 薩英戦争の処理
第7章 文久三年の上京
第8章 明治時代の久光



著者経歴

 安川周作(やすかわ しゅうさく)・・・1953年生まれ、兵庫県神戸市出身。京都大学法学部卒業後日本興業銀行(現みずほ銀行)に入行、2003年より千葉黎明高校(千葉県八街市)に出向し4年間校長を務める。その後株式会社アンビシャス専務を経て、2010年株式会社島津興業に勤務、2021年まで役員として島津家別邸仙巌園を統括。この間2016年~2021年には放送大学非常勤講師となり、鹿児島学習センターの面接授業「島津斉彬の集成館事業」を共同担当、斉彬の人材育成やマネジメントについての講義を行う。


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