「実力も運のうち 能力主義は正義か?」マイケル・サンデル
2021/10/06公開 更新本のソムリエ [PR]
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【私の評価】★★★☆☆(79点)
要約と感想レビュー
イアメリカ社会の貧富の分断
「これからの「正義」の話をしよう」のハーバード大学マイケル・サンデル教授の一冊です。サンデル教授は、アメリカ社会が少数の大富豪と多くの貧しい人びとに分断していると指摘しています。1970年代後半には大企業のCEOは労働者の30倍の収入でしたが、2014年には300倍の収入を得るようになったのです。
そして貧しい家庭のアメリカ人は、大学に行くことができず、同じように貧しいままでいる可能性が高いのです。学歴社会のアメリカで学歴がなければ、収入は良い仕事に就くことは不可能です。こうした状況に対して白人労働者が不満を増大させ、グローバルな競争を推進する政治にNOを突きつけた結果、トランプ大統領が誕生したのだと分析しています。
アイビーリーグの学生の3分の2あまりが、所得規模で上位20%の家庭の出身(p22)
半分程度はくじ引きが公平か
アメリカでは人種・民族的マイノリティを優遇するアファーマティブ・アクションを実施してきました。しかし、低所得層への配慮はほとんどなされていませんでした。貧しい親のもとに生まれたアメリカ人は、大人になっても貧しいままであることが多いのです。
現状の大学入試テストによる選別は、才能と努力によって作られた能力を測定しようとうものですが、統計からは、能力は収入に比例するので、公平ではないとしています。そもそも18歳の若者の才能をテストで測定できているのかといえば、それは実際には難しい。
ではどうするのか。
サンデル教授の提案は、大学出願者を学力、性格などで半分程度に選抜し、その後くじ引きで決めるというものです。くじ引きで決めるから、合格者の家庭の収入は、出願者の収入分布と同じような分散となし、多様性が維持できるということです。
どれほど目の肥えた入試担当者であろうと、どの18歳の若者が将来、学問あるいはほかの分野で真に傑出した業績を挙げるかをきわめて正確に評価するのは不可能だ(p267)
学歴主義は問題
さらにサンデル教授は、アメリカ社会の超学歴主義は問題であり、将来の収入が四年生大学の学位で左右されないようにする方法を考えるべきだと主張しています。アメリカ人は「懸命に働く気があれば、ほとんどの人は成功できる」と信じていますが、実際には学歴がないと出世できないのです。
極端な意見だとは思いましたが、こうした提案と議論ができることが、多様性と容易に変化していくアメリカの強さなのかと感じました。最終的には、ヨーロッパのように教育費無料に行き着くのかもしれません。サンデルさん、良い本をありがとうございました。
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この本で私が共感した名言
・家庭が高収入であるほど、SATの得点も高いのだ(p238)
・ハーバード大学の入学方針をめぐる最近の訴訟で提出された文章からは、10%近くの学生が寄付者とのコネのおかげで入学していることがわかっている(p247)
・トランプは大学の学位を持たない白人有権者の3分の2の票を獲得した(p43)
・ラテンアメリカ系住民の死亡率は白人より22%高かったし、コロナウイルス感染症による黒人のアメリカ人の死亡率は、白人のアメリカ人よりも40%高かった(p12)
【私の評価】★★★☆☆(79点)
目次
序論―入学すること
第1章 勝者と敗者
第2章 「偉大なのは善良だから」―能力の道徳の簡単な歴史
第3章 出世のレトリック
第4章 学歴偏重主義―何より受け入れがたい偏見
第5章 成功の倫理学
第6章 選別装置
第7章 労働を承認する
結論―能力と共通善
著者経歴
マイケル・サンデル(Michael J. Sandel)・・・1953年生まれ。ハーバード大学教授。専門は政治哲学。ブランダイス大学を卒業後、オックスフォード大学にて博士号取得。2002年から2005年にかけて大統領生命倫理評議会委員。1980年代のリベラル=コミュニタリアン論争で脚光を浴びて以来、コミュニタリアニズム(共同体主義)の代表的論者として知られる。ハーバード大学の学部科目"Justice(正義)"は延べ14,000人を超す履修者数を記録。建学以来初めて講義を一般公開することを決定。
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