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「気候カジノ 経済学から見た地球温暖化問題の最適解」ウィリアム・ノードハウス

2021/08/24公開 更新
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「気候カジノ 経済学から見た地球温暖化問題の最適解」ウィリアム・ノードハウス


【私の評価】★★★☆☆(70点)


要約と感想レビュー

 著者は、地球温暖化の影響と経済成長の関係を分析し、炭素税を提唱したことで、2018年ノーベル経済学賞受賞しています。第三者である経済学者が、地球温暖化の議論・主張をどのように見ているのか興味があり読んでみました。


 地球温暖化が正しいのか正しくないのか、という点については、多くの科学者が正しいと結論付けているので、間違いないだろう、という論考でした。経済学者としては、そう考えるしかないのだと思います。そして地球温暖化に100%確信を持つまで待ったら、間に合わなくなる。今から保険を掛けようというロジックです。


・先送りのリスクを理解するには、気候カジノのたとえ話に戻るとよい・・・懐疑派の提案というのは、要するに、ほとんどのボールは有益な黒のポケットに入るはずなので、いかなる対策も50年先まで待つべきというものだ・・・賢明な政策とは、気候カジノのルーレットを回さずに済むよう、保険料を払うことだ(p374)


 面白いところは、経済学者という環境問題の門外漢だけあって、検討するにあたって情報収集するわけですが、現状調査については幅広く常識的に行っているところです。


○過去に二酸化炭素濃度とは関係なく、氷河期と間氷期が繰り返されてきたこと。2万年前の氷期最終期は気温が4~5℃低く、海面は120メートル程度低かったこと。最終温暖期には、海面は現在より3メートルほど高かったこと。


○局地的気温上昇が3℃以内であることを意味する「小規模な温暖化」の場合、多くの地域では生産性が向上すると考えられていること。


○二酸化炭素がどの程度増えれば、どの程度地球が温暖化するのかは正確にはわかっていないこと。


 このように、地球温暖化傾向は自然の気候変動の一部かもしれないし、二酸化炭素濃度の上昇も影響しているかもしれない、という程度なのです。


・第一に我々は、二酸化炭素濃度が倍増するに従って気温が何℃上がるのかを正確につかんでいない(p37)


 卒論がシミュレーションだった私としてはシミュレーションはデータに合わせるようにモデルを考えるので、いくらでも調整できるんだけどな・・、と思いながら読了しました。経済学者としては地球温暖化と二酸化炭素の大気中濃度に相関があるという前提に立つしかなく、炭素税を導入すれば、経済的に最適なところに落ち着くと提案するくらいしかできないのでしょう。


 また、これだけ科学者が地球温暖化!と警告するのだから、保険として二酸化炭素の排出量を減らしてみよう、と考えるのももっともなことなのかもしれません。ノードハウスさん、良い本をありがとうございました。


この本で私が共感した名言

・過去の気温の変化・・・氷期と間氷期とを行ったり来たりしながら、気温は激しい変動を繰り返している・・・この7000年間は、過去10万年以上にわたる歴史の中で最も気候が安定した時期である(p66)


・民主党支持者のうち、「大半の科学者は、地球が主に人間活動によって温暖化していると認めている」と考える人は59%にのぼる。その一方で、ティーパーティ派の共和党支持者では、科学者たちが地球温暖化を認めていると考える人はたった19%だ(p384)


・EU域内排出量取引制度・・・第二フェーズでは、炭素価格は20ユーロ/トン前後でスタートしたが、2012年までにおよそ8ユーロ/トンまで下落した(p296)


▼引用は、この本からです
「気候カジノ 経済学から見た地球温暖化問題の最適解」ウィリアム・ノードハウス


【私の評価】★★★☆☆(70点)


目次

第Ⅰ部 気候変動の起源 
 第1章 気候カジノへの入り口  
 第2章 二つの湖のエピソード  
 第3章 気候変動の経済的起源  
 第4章 将来の気候変動  
 第5章 気候カジノの臨界点   

第Ⅱ部 気候変動による人間システムなどへの影響  
 第6章 気候変動から影響まで 
 第7章 農業の行く末  
 第8章 健康への影響  
 第9章 海洋の危機  
 第10章 ハリケーンの強大化  
 第11章 野生生物と種の消失  
 第12章 気候変動がもたらす損害の合計   

第Ⅲ部 気候変動の抑制─アプローチとコスト  
 第13章 気候変動への対応─適応策と気候工学  
 第14章 排出削減による気候変動の抑制─緩和策  
 第15章 気候変動抑制のコスト 
 第16章 割引と時間の価値  

第Ⅳ部 気候変動の抑制─政策と制度  
 第17章 気候政策の変遷  
 第18章 気候政策と費用便益分析  
 第19章 炭素価格の重要な役割  
 第20章 国家レベルでの気候変動政策  
 第21章 国家政策から国際協調政策へ  
 第22章 最善策に次ぐアプローチ  
 第23章 低炭素経済に向けた先進技術   

第Ⅴ部 気候変動の政治学  
 第24章 気候科学とそれに対する批判  
 第25章 気候変動をめぐる世論  
 第26章 気候変動政策にとっての障害



著者経歴

 ウィリアム・ノードハウス・・・イェール大学経済学部教授。30年以上にわたり、地球温暖化の分野で幅広い研究と執筆活動をおこなっている。カーター大統領のもとで大統領経済諮問委員会メンバーを務めたほか、イェール大学学長、アメリカ経済学会会長などを歴任。2012年ボストン連邦準備銀行議長に就任。全米科学アカデミーにおける気候変動や環境会計などの委員会メンバー。計量経済学会、アメリカ芸術科学アカデミーのフェロー。


カーボンニュートラル関連書籍

「図解入門ビジネス 最新水素エネルギーの仕組みと動向がよ~くわかる本」今村雅人
「カーボンニュートラル もうひとつの"新しい日常"への挑戦」巽 直樹
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