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「テキサスに学ぶ驚異の電力システム 日本に容量市場・ベースロード市場は必要か?」

2020/08/01公開 更新
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「テキサスに学ぶ驚異の電力システム 日本に容量市場・ベースロード市場は必要か?」


【私の評価】★★☆☆☆(68点)


要約と感想レビュー

 ヨーロッパで始まった電力自由化は、アメリカでもエリア別に試行錯誤が行われ、日本でもネットワークの法的分離、電力自由化が行われました。どこの会社からでも電気を買うことができる、誰でも発電所を作り、電気を売ることができるようになったのです。


 電力ネットワーク会社の法的分離は、電車で言えば、JRから線路を分離し、だれでも電車を走らせることができるようなもの。この本ではすべての電気が、卸電力市場で調整されているテキサス州の電力システムを紹介しています。


 発電所を作るには、単に建設工事だけでも2,3年という時間がかかります。瞬間、瞬間きっちりと需給を合わせる必要のある電力の安定供給が、市場メカニズムだけで調整できるのでしょうか。テキサスでの実例を観察してていれば、その結論がわかるはずなのです。


 ちなみに2021年2月の北米の大寒波でテキサス州の系統・市場運営機関ERCOTは計画停電を実施しました。風力が大量導入され、ガス価格が下落し、相対的に価格が高くなった石炭火力が廃止された中で、寒波で風力やガス火力が凍結で停止してしまったのです。


 日本でも同時期に寒波とLNG在庫不足と発電設備トラブルが重なり、電力不足から通常10円/kWh程度の電力市場価格が200円/kWh以上に暴騰しました。タイトルの驚異の電力システムは安定供給に課題があることがわかりました。著者の今後の改善案を期待しておきましょう。


 著者が実務者ではないためか、翻訳的な説明が多い印象でしたので★2とします。


 山家さん、良い本をありがとうございました。


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この本で私が共感した名言

・リアルタイム市場は、名称こそ日本と同一であるが、実需給5分前の卸市場取引のことであり、混雑処理や予備力確保を同時に実現している・・・テキサスでは、予備力の確保は前日および(テキサスの)リアルタイムの卸取引市場で同時に扱われる。容量市場は存在しない。予備力を含めて短期卸市場で確保できるとの考え方をとる(p3)


・家庭用太陽光発電の10年間のFIT期限切れにより、2019年より余剰電力は市場での販売となる。最高でkWh当たり48円で販売できた電力の販売価格は売り手と買い手との交渉で決まり、FIT価格から大きく低下することが予想される。卸市場価格は約10円である・・・最悪の場合、所有者は発電設備を撤去する、発電を止めてしまう可能性も否定できず、再エネ普及に黄信号が灯ることになる(p40)


・ERCOT電力市場・・・市場参加者は全てリアルタイム市場に参加しなければならない・・・LMP(Locational Marginal Pricing)は、需給調整を電力需給のまとまり(ノード)ごとに行う・・・LMPではノードごとの混雑コストを織り込んだ価格が、時々刻々(5分単位)決まる(p55)


・日欧は、市場運用(マーケットオペレーション)は卸取引所、系統運用(システムオペレーション)は送電会社(TSO)と役割が決まっており、それに対応して取引も分かれている。一方、米国はどちらの機能もISO・RTOが具備している。エネルギーとアンシラリーをあえて分ける必要性が小さくなる。供給設備(リソース)は様々な機能を持っており、実供給へ向けた流れの中で、それぞれの時点で各機能をベストに配分することが合理的である。その意味で、米国の方がより優れているとも言える(p57)


・小売事業者が容量市場に出すお金と、発電事業者が受け取るお金はほぼ同じだから、この会社はプラスマイナスゼロとなる・・・しかし、小売事業者が卸電力取引所から電力を購入している場合、容量市場からお金を取られるだけになる・・・つまり、「発電所を持っている、もしくは発電所と契約を持っている事業者には影響はないが、そうではない事業者にはビジネス上大きな痛手となる」可能性がある(p74)


・自由化前の発電資産は、総括原価によってコストの回収が保証されていたが、自由化後の販売価格は、市場で決まることから、この保証がなくなる。メリットオーダーでは、限界設備の燃料費はカバーできるが、固定費まで回収できる保証はない。米国では自由化に踏み切る際、いくつかの州でストランデッドコストへの配慮が見られた。同コストの回収と自由化推進がセットでもあった(p83)


・シェール革命の影響もあったと思われるが、卸市場価格が急低下し発電設備の採算性が悪化し、新規投資誘因は大きく減じた・・・2012年から2017年の6年間、投資回収可能収益を大きく下回る状況が続き、2018年3月には老朽化設備とはいえ400万kWもの石炭火力発電所が廃止され、予備率は一気に一桁台に急落した(p111)


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▼引用は、この本からです
「テキサスに学ぶ驚異の電力システム 日本に容量市場・ベースロード市場は必要か?」


【私の評価】★★☆☆☆(68点)



目次

はじめに -自由化の先頭を切るテキサス州の魅力-
第1章 テキサスの電力情勢 -独立と自由化が生む低価格-
1.1 テキサス州の概要
1.2 テキサスの電力システムの特徴
1.3 資料で見るテキサスの電力情勢
第2章 テキサス州の再生可能エネルギー -風力断トツ1位と再エネ価値の適正評価 を生む秘訣-
2.1 全米No.1を誇る風力発電
2.2 分散型資源として伸びる太陽光発電
2.3 テキサス州都オースティン市が創造したソーラー価値
2.4 太陽光発電の価値は市場価格の2倍:2019年問題の考え方
第3章 ERCOTのエネルギーオンリーシステム
3.1 ERCOTの概要:テキサス電力システムの要となる市場・系統運営機関
3.2 ERCOT電力市場・システムの特徴:SCED、LMP
第4章 電力供給の基礎と市場取引プロセス -自由化後のシステム-
4.1 電気の特性と2大命題であるReliabilityとEconomy
4.2 地域独占時代の運用
4.3 自由化後の運用
4.4 まとめと日本の課題
第5章 ERCOTの市場プロセスと信頼度維持対策
5.1 ERCOTの市場取引のプロセス
5.2 信頼度維持手段1:予備力Reserveの確保
5.3 信頼度維持手段2:混雑対策(管理)
第6章 2018年夏に価格スパイク期待が外れた理由
6.1 Energy Only Marketの検証は持ち越し
6.2 Energy Only Marketで新規投資は回収できるのか -払拭されない容量不足への 懸念-
6.3 2018年夏、なぜ価格スパイクは発生しなかったのか
6.4 本章の最後に
終わりに -日本に容量市場・ベースロード市場は必要か-


著者経歴

山家公雄(やまか・きみお)・・・1956年生まれ。東京大学経済学部卒業後、日本開発銀行(現日本政策投資銀行)入行。2009年からエネルギー戦略研究所株式会社 取締役研究所長。


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