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「水道の民営化・広域化を考える」尾林 芳匡, 渡辺 卓也

2020/08/02公開 更新
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【私の評価】★★☆☆☆(67点)


要約と感想レビュー

水道の民営化・広域化に反対する議員などが、その意見をまとめた一冊になっています。ポイントとしては、民間に委託しても民間が利益を上げるだけで、結果的に手抜きになったり、経営破綻するのではないかという主張となっています。


委託された民間企業が過剰な利益を上げていると指摘している例としては、浜松市の上下水道部門の運営権を獲得したフランス企業ヴェオリア社の日本法人が、設備改築工事を入札しない随意工事契約でヴェオリア社の子会社に発注していることを指摘しています。


また、大阪市の水道局のコンセッション(施設の運営を民間事業者に任せる方式)では職員数は約1600人から1000人以下にリストラされ、賃金、退職金は職務及び業績を反映させる制度を導入し、雇用形態は派遣社員、短期雇用、契約社員などへの転換も行うとしており、民間企業の仕組みとしては普通のものです。


そもそもコンセッション導入のメリットは、お役所の調達よりも効率的な購買が期待できること、多様なサービスが可能になること、従業員の採用、給与等が、お役所時代よりも柔軟に決められることなのです。


また、減価償却相当額を更新費用として積立るとは、20年、30年先の費用の前払いで住民が負担するという考えに抵抗があるとしています。地方債を起債して、将来にわたって利用する世代が負担することが適切といていますが、いずれにしろ住民が負担するので、どちらでもよいのではないでしょうか。


問題となった事例として、1仙台松森PFI天井崩落事故や、PFIによって建設されたプールで手抜き工事により天井が崩落した事例や、2タラソ福岡の撤退、3北九州・ひびきコンテナターミナル経営破綻、4名古屋港イタリア村の経営破たん、5高知県・高知市病院契約解除、6滋賀・近江八幡市立総合医療センター契約解除、7滋賀・野洲私立小・幼の維持管理契約解除など失敗例を羅列していますが、成功例はないのでしょうか。


このように「水道の民営化・広域化ありき」で議論されていると批判しながら、この本は「反対ありき」の内容となっているように感じました。良い本をありがとうございました。


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この本で私が共感した名言

・40年で更新ができないことが問題」と言いながら・・・100年以上使用している明治時代の水道管もあり、法定耐用年数に満たない中で事故をおこす水道管もあります(p15)


・奈良市においても6期に亘る拡張工事において一日約25万トンの取水権を確保しました。しかし、現在の給水量は一日約11万8000トン・・・その上、83億円程度の事業収入の中で、その3分の1にもあたる27億円もの金額がダム建設の負担金として2014年まで続き、老朽化した施設の更新もままならない状況がもたらされました(p36)


・宮城県の水道事業と課題・・・上水道事業では、収益は現在の150億円から20年後には140億円に、年間10億円減少すると予測。今後20年間で必要となる更新需要1410億円を確保するのが難しいと説明しています・・・工業用水道は、年間純利益が7000万円しかないのに、20年間の更新需要は190億円・・・高料金に苦しめられる原因は・・・過去の過大な施設整備にある(p52)


▼引用は、この本からです


【私の評価】★★☆☆☆(67点)


目次

プロローグ 水をめぐるウソ・ホント
I 水をめぐる広域化と民営化の現場

イントロダクション 各地で具体化する広域化・民営化の動き
1 香川県 県主導の水道広域化の矛盾
2 宮城県 水道事業へのコンセッション導入の問題点
3 浜松市 下水道処理場のコンセッション化問題
4 京都府 簡易水道と上水道の統合
5 奈良県 奈良市中山間地域の上下水道のコンセッション計画
6 埼玉県 秩父郡小鹿野町民の水源・浄水場を守る運動
7 大阪市 市民が止めた水道民営化
8 滋賀県 大津市のガス事業コンセッション

II 水をめぐる広域化・民営化の論点
1 上水道インフラの更新における広域性と効率性
2 水道の民営化・広域化を考える



著者経歴

尾林芳匡 (おばやし よしまさ)・・・八王子合同法律事務所弁護士。1961年生まれ、1990年より弁護士。自治体の民営化、アウトソーシング関連著作多数。


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