「目に見えぬ侵略 中国のオーストラリア支配計画Silent Invasion」クライブ・ハミルトン
2020/06/25公開 更新本のソムリエ [PR]
Tweet
【私の評価】★★★☆☆(79点)
要約と感想レビュー
原書は2018年にオーストラリアで発刊されていますが、最初の出版社は契約を結んでいたにもかかわらず出版中止。その出版社は中国共産党からの報復や、オーストラリア国内にいて中国共産党のために行動している人々を恐れたのだという。オーストラリアでも中国共産党の脅迫を、恐れる人が増えているのです。
人口2500万人のオーストラリアには、すでに100万人の中国系がおり、中国系の資金がオーストラリアの不動産、港湾、電力系統などを買収しています。2016年には外国籍の不動産購買者の80%が中国人であったという。オーストラリアにおける中国共産党の影響力は政治家、マスコミ、経済界などで相当大きくなっているのです。
例えば、オーストラリアのGDPのうち、財とサービスの輸出は19%で、輸出先の三分の一は中国なのです。GDPに占める中国の割合はそれほど高くないにもかかわらず、ビジネス系のコメンテーターの中には中国がくしゃみをすればオーストラリアは肺炎にかかるので、オーストラリアは中国の機嫌をそこねないようにすべきだというオーストラリア人もいるという。
・共産党に協力しないと、オーストラリアや中国国内でのビジネス取引は、中国政府に目をつけられて、取引先にボイコットされる(p23)
中国共産党はその目的を達成するために経済的利益を与え、言うことをきかなければ経済損失を与えたり、協力者による批判・脅迫を行います。私たちは中国共産党のやり口を知っていますが、著者がそれを知ったのは北京オリンピックの聖火リレーだったという。日本の長野と同じように中国人学生がチベット独立を主張する人たちを取り囲み暴力で排除したのです。何千という中国人学生が組織的に活動しているのを目にして著者は危機感を持ったのでしょう。
また、2002年、オークランド国際空港は法輪功の信者たちが支払った看板広告を取り除けという中国共産党の圧力に屈しています。オークランド大学もウイグルのリーダー、ラビア・カーディルの訪問を中止し、世論の反対が激しくなると、一転、中止の決断を覆したのです。
2015年には、オーストラリア国立大学の中国人学生の一人が、キャンパス内の混雑した薬局に入り、法輪功の発行する「大紀元」紙を配布しても良いという許可を出したのは誰だ?と問い詰めたという。この学生は陶品儒という中国学生協会の会長でした。中国系の学生団体は中国共産党の末端機関として機能しているのです。
・2008年の北京五輪に際し連邦議事堂の外で聖火リレーが行われたが、チベット独立派の支持者たちは中国大使館によってオーストラリア中から動員された何千もの怒れる中国人学生によって囲まれ、暴力を振るわれた(p262)
2015年、ダーウィン港の99年間租借権が、中国企業に売却されました。2014年には国営の招商局集団が、ウィリアムタウンの空軍基地に近く、世界最大の石炭積出港であるニューキャッスル港を17億5000万ドルで買収しました。中国国営企業の国家電網公司は、オーストラリアの電力系統線の大部分を保有しています。エナジーオーストラリアは香港に拠点を置き、北京と関係の深い中電集団によって完全に保有されている。アリンタ・エナジーは香港の宝石商、周大福が40億ドルで売却されているのです。
このように中国共産党の強さは、世界の中国人を法律と脅迫によってコントロールできることです。さらに中国が経済力と軍事力を持ったことで、中国共産党はその本性を隠す必要性がなくなってきているのです。このまま第2のチベット、ウイグル、モンゴルが生まれるのでしょうか。この正念場でどのような対応をするのか。日本政府とオーストラリアの中国共産党への対応を比較してみると、面白いのかもしれません。ハミルトンさん、良い本をありがとうございました。
この本で私が共感した名言
・オーストラリアの諜報機関はファーウェイが中国軍のサイバースパイ機関である人民解放軍総参謀部第三部と関係を持っている「信頼に足る証拠」があると警告してきた(p211)
・黄向墨は2014年4月5日、「豪中関係研究所」設立目的で180万ドルをシドニー工科大学に寄付している・・労働党の元外相でニューサウスウェルズ州知事を務めたこともあるボブ・カーを所長に任命した・・・親中的立場を表明・推進しているおかげで、カーは「北京・ボブ」とあだ名されている(p131)
・2016年には「オーストラリア平和と正義保護実行委員会」という名前の団体が、60カ所の地区リーダーたちを集めて「(シドニーにおける)勢力を結集し、中国国家の核心的利益を守るための会合」を呼びかけているが、この「革新的利益」とは要するに、北京による南シナ海の領有権のことだ(p55)
・本書を書いたことによって、私はオーストラリアにおける中国共産党の影響力について警告を発した人間に対して投げ掛けられる「人種差別主義者」や「外国人恐怖症」というレッテル貼りをされ、非難されることになるだろう(p21)
・中央統戦部の工作の手段には、中国語メディアを動員し「人種差別的」「反中的」な立場をとる政府を猛烈に批判することが含まれる。北京語のソーシャルメディアでは、与党である自由党を「反中で反中国人、反中国系移民、そして反中国人留学生」だと説明し、「われわれ中国人はこの極右的な与党自由党を打倒すべきだ」という著者不明の1700文字の怪文書が広く出回った(p81)
▼引用は、この本からです
クライブ・ハミルトン、飛鳥新社
【私の評価】★★★☆☆(79点)
目次
第一章 オーストラリアを紅く染める
第二章 中国は世界における自国の立場をどう見ているのか
第三章 僑務と華僑
第四章 黒いカネ
第五章 「北京ボブ」
第六章 貿易、投資、統制
第七章 誘惑と強要
第八章 新旧のスパイ
第九章 「悪意あるインサイダー」と科学機関
第十章 オーストラリアの大学で「魂に工作する」
第十一章 文化戦争
第十二章 中国の友人:親中派
第十三章 自由の価格
著者経歴
クライブ・ハミルトン(Clive Hamilton)・・・オーストラリアの作家・批評家。著作に『目に見えぬ侵略:中国のオーストラリア支配計画』(Silent Invasion: China's Influence in Australia)『成長への固執』(Growth Fetish)、『反論への抑圧』(Silencing Dissent:サラ・マディソンとの共著)、そして『我々は何を求めているのか:オーストラリアにおけるデモの歴史』(What Do We Want: The Story of Protest in Australia)などがある。14年間にわたって自身の創設したオーストラリア研究所の所長を務め、キャンベラのチャールズ・スタート大学で公共倫理学部の教授を務めている。
この記事が参考になったと思った方は、
クリックをお願いいたします。
↓ ↓ ↓
人気ブログランキングへ
メルマガ[1分間書評!『一日一冊:人生の智恵』] 3万人が読んでいる定番書評メルマガです。 >>バックナンバー |
|
この記事が気に入ったらいいね!
コメントする