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「世界に分断と対立を撒き散らす経済の罠」ジョセフ・E・スティグリッツ

2019/12/13公開 更新
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「世界に分断と対立を撒き散らす経済の罠」ジョセフ・E・スティグリッツ


【私の評価】★★★☆☆(73点)


要約と感想レビュー

ノーベル経済学賞を受賞

スティグリッツ教授は、2001年情報の非対称性に関する研究でノーベル経済学賞を受賞した人です。この本はリーマンショックの2007年から2014年のエッセー集となっています。


大学で経済学を教えた後、1993年からクリントン政権で大統領経済諮問委員、1995年に委員長に就任。1997年に世界銀行上級副総裁。2000年に大学教授に戻っています。


豊かなのに貧困層が存在する現在のアメリカの不平等について、暴動や社会不安につながるのではないかと警鐘を鳴らしています。


アメリカの若年層の失業率は、およそ20%・・望みどおりフルタイムの仕事にありつけない人々は、6人に1人。食糧切符を支給されている人は、7人に1人(p131)

アメリカの不平等

グローバル化による仕事の海外移転で給与レベルが抑え込まれる一方で、経営者は巨額の報酬を得ている。学歴で年収が決まるため学生ローンを組んで大学に通う人が多く、その20%はローン返済に困っている。高度医療が発達している一方で、保険が高額なために富裕層しか医療を受けることができない。


多量の農産物を生産している一方で、今日食べるものがなく食糧切符に頼っている人が7人に1人。アメリカ人の上位1%は、国民所得のおよそ4分の1以上を収入として得て、総資産の40%を支配しているというのです。


アメリカではこうした矛盾が拡大しているというのです。


数百万人の貧困層を抱える富裕国・・・・どの先進諸国よりも、子供の将来が親の収入と学歴に左右される国・・最富裕層の税率がほかの層よりも低い国・・アメリカ社会の特徴と言うべき巨大格差(p146)

貧乏人にお金を配分する

スティグリッツ教授の提唱するのは、お金持ちに金を配るのではなく、貧乏人にお金を配分することです。お金持ちや企業を優遇するのではなく底辺の人々の底上げをするこで経済が活発化するのではないか、ということです。日本のアプローチに近いと感じました。


例えば、投資家のウォーレン・バフェットの例では、バフェットの保有資産の価値が上がっても、売却によって利益が実現しないかぎり、税金を課せられないことを紹介し、バフェットが支払う税率は秘書より低いとしています。また、合衆国の連邦税はたったの13%で、公称よりはるかに安いとしています。


したがって、著者の提案は、第一に労働や貯蓄ではなく、公害や投機に課税することです。第二に、土地や石油や天然資源など、課税しても消えないものに課税すること。そして第三の原則は社会に犠牲を強いるような活動は抑制することです。


エッセイ集なので同じようなテーマが続き、辟易してしまいました。スティグリッツさん、よい本をありがとうございました。


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この本で私が共感した名言

・不平等は総需要と経済そのものを弱体化させる・・頂上の人々は底辺の人々より金をつかわないため、需要全体を弱めることとなる(p28)


・経営陣と一般従業員との所得格差・・アメリカ大企業の場合、格差はまだ500対1には達していないものの、世界大恐慌の前の水準はすでに上回っている。(企業幹部の報酬を抑制してきた日本は、希有な例外と言っていい)(p165)


・2012年末、学生債務者の約17%は、支払いが90日以上遅れていた・・四年制大学の学費と寮費と食費は、平均で年間2万2000ドル弱(p213)


・アメリカは世界有数の病院、研究大学、先進医療センターを擁している・・男性の平均寿命は、スイスやオーストラリアや日本より約四年短い(p232)


・クリントン政権の財務長官時代、サマーズは銀行業界の規制緩和を支持しており、グラス=スティーガル法の撤廃は、アメリカの金融危機に重大な役割を果たした・・将来的にデリバティブが規制されないよう保証する法案の成立であり、この意思決定は金融市場崩壊の一因となった(ウォーレン・バフェットはデリバティブを、"金融の大量破壊兵器"であると正しく認識していた(p306)


・洪水のごとくあふれる流動性は、住宅ローン市場での資金調達を容易にし、普通ならローンを借りられない人々にも融資が許可された(p73)


・格付会社は・・F格付のサブプライム住宅ローンを、年金基金が安心して保有できるA格付の証券に転化させた(p82)


・農業補助金に注ぎ込まれる莫大な資金は・・必要とする以上の農産物が生産される・・過剰供給は世界の農産物価格を押し下げ、開発途上国の農民に被害を与える。他方、数百万人のアメリカ人は飢餓に近い窮乏生活を送っている。彼らは食糧切符で食いつないでおり、スタンプ受給者の大多数は一日の生活費が4ドルあまりである(p312)


「世界に分断と対立を撒き散らす経済の罠」ジョセフ・E・スティグリッツ
ジョセフ・E・スティグリッツ、徳間書店


【私の評価】★★★☆☆(73点)


目次

Prelude 亀裂の予兆
第1部 アメリカの"偽りの資本主義"
第2部 成長の黄金期をふり返る(個人的回想)
第3部 巨大格差社会の深い闇
第4部 アメリカを最悪の不平等国にしたもの
第5部 信頼の失われた社会
第6部 繁栄を共有するための経済政策
第7部 世界は変えられる
第8部 成長のための構造変革
余波 すべての人に成功の基盤を



著者経歴

ジョセフ・E・スティグリッツ(Joseph Eugene Stiglitz)・・・2001年「情報の経済学」を築き上げた貢献によりノーベル経済学賞受賞。1943年米国インディアナ州生まれ。エール大学はじめオックスフォード、プリンストン、スタンフォード大学で教鞭をとる。1993年クリントン政権の大統領経済諮問委員会に参加、1995年より委員長に就任し、アメリカの経済政策の運営にたずさわった。1997年に辞任後、世界銀行の上級副総裁兼チーフエコノミストを2000年1月まで務める。行動する経済学者として、世界を巡りながら経済の現状を取材し、市場万能の考え方を強く批判している。


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