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「JAL再建の真実」町田 徹

2019/02/25公開 更新
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JAL再建の真実 (講談社現代新書)


【私の評価】★★★☆☆(78点)


要約と感想レビュー

 私は出張ではJALをできるだけ使わないようにしています。なぜならJALは2010年に破綻した会社だからです。JALは100%減資、債権放棄が行われ、赤字路線からの撤退と人員削減、年金債権カットによりANAを脅かす存在として復活しました。ANAとしては消滅するはずのライバルが、税金や法的整理を使って強くなって復活するという最悪のパターンです。


 JALでの不適切な会計処理がいくつか紹介されています。例えば、退職金や年金の積み立てが2731億円不足していたこと、また「所有権移転外ファイナンス・リース」によって71億円の簿外負債を隠していたのです。また、航空機メーカーから、部品を買ったときに受け取るキックバックを「営業外収益」の「機材関連報奨額」という名の利益として計上していました。普通に、リベート分を差し引いた正味の購入費を資産として計上すればよいのに、当期の利益を見かけだけ大きくしたかったのでしょう。


・JALの破綻で・・100%減資が断行されて、古くからの株主は、保有していたJAL株が何の価値もない紙切れになる・・巨額の資金を融資していた金融機関は、融資をチャラにする金融再建カット・・全日本空輸(ANA)をはじめとした内外のライバル各社も、大変な被害者である。一民間企業似すぎないJALへの政府のテコ入れ策が、世界の航空市場の競争環境を歪めて、ライバルたちに不利な戦いを強いる状況が生まれたからである(p7)


 再建型手続きとしては、会社更生法、民事再生法などがありますが、裁判所の監督の下で手続が進められるとはいえ、議論があるようです。特にJALの場合は、航空機をリースしているものが多かったため燃料代、機内食のケータリング費、人材派遣料、航空機などのリース債権はカットされませんでした。


 また、販売済みの航空券と、マイレージプログラムも保護されました。税金によってJALの運航が破綻後も継続することができるよう、最大限の配慮を受けたのです。東日本大震災後、東京電力の50%増資による国有化よりは法的整理という意味でマシではありますが、議論のあるところなのでしょう。


・リース債権まで保全する必要があったのか・・・機体の多くをリースで調達しているため、債権カットの対象にすると機材を差し押さえられる、あるいは引き揚げられると危惧したためだが・・『運航の継続』に気を使うあまり、判断を誤ったのではないか」との見方が多い・・法的整理を選択するならば遵守されるべき『債権者平等の原則』を無視・・(p167)


 債権放棄とリストラで身軽になったJALの経営に稲盛さんが参加して、JALの経営はさらに安定したようです。経営によってこれほども変わるのもか、ということを証明したように感じました。ちなみに航空会社別の「ユニットコスト」(一座席を一キロメートル飛ばすのに必要な費用)は、JALの場合、破綻前の2009年3月期に13.8円だったが、2012年3月期には11.5円まで削減しています。2011年3月期のANAやルフトハンザは13円台。米デルタ、香港のキャセイ、シンガポールの6~8円程度と比べてまだまだ差は大きいようです。


 また、ANAとしては真面目に経営しているのがアホらしくもあり、ANAも一度破綻して債権放棄してもらいたいくらいの気分かもしれません。だから私はANAカードを持っているし、できるだけANAに乗るつもりです。町田さん、良い本をありがとうございました。


この本で私が共感した名言

・過去最大の倒産劇・・・体面に拘る社風を最後まで捨て切れなかったJALはこの日、帝国ホテルで単独の記者会見を開こうとして、支援機構に無駄遣いをするなと一蹴されたと聞く。そして、記者会見は、支援機構とJALの共同記者会見の体裁に落ち着いたというのだ(p157)


・七組合のひとつだった日本航空労働組合は、ホームページで要求のベースとなったアンケートの内容を開示していた。そこには、「経営失敗・無策のツケを社員に押し付けるな」「『実質赤字』の原因は、安全・サービスの低下、商品競争力の低下、役員人事のドタバタ」といった経営陣への不信の声で溢れ、・・JALはほんの数日前に、4300人の人員削減を柱にした500億円の経費削減策を公表し、銀行団に支援融資を要請したばかりだ。組合の要求の高さに・・これでは再建は覚束ない」と主力銀行関係者からは不審の声が上がる・・(p84)


・空港整備勘定は、数ある特別会計のひとつ。予算規模は2009年度が5280億円と巨大だ・・・各地の空港整備(2009年度の場合で3299億円)に充てられていた・・「赤字垂れ流し」と批判された地方空港の建設原資は、この特別会計から捻出されていた・・「空港使用料」(同2084億円)と「航空機燃料税」(同781億円)・・空港使用料と航空機燃料税は、JALとANAの負担がそれぞれ900億円前後。一般会計経由のものも含めれば、両者の負担はそれぞれ1000億円を超えていた(p125)


・支援機構はなぜ、このプレパッケージ型の法的整理に拘ったのだろうか。そもそも、自民党時代に有識者会議の下で進められたJAL再建策は、完全ではないが、可能な限り自主再建を目指そうというものだった・・・支援機構は、JALのような規模の大きい企業のデューデリジェンスや再建プランを行う体制・人材を揃えていなかった・・これまでに例のないプレパッケージ型の法的整理に挑戦するというのは、正気の沙汰ではなかった・・・最初から法的整理を検討していたか疑問視する向きもある・・法的整理を、私的整理を進めるための駆け引きに使おうとしたという説である。ところが、なんの根回しもない不用意な打診をしたことによって、情報が「燎原の火」のように駆け巡ってしまい、結局引っ込みがつかなくなり、法的整理を行わざるを得なくなった(p163)


JAL再建の真実 (講談社現代新書)
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町田 徹
講談社
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【私の評価】★★★☆☆(78点)


目次

第1章 隠れ破綻
第2章 "最後の社長"西松遥の闘い
第3章 最後の引き金を引いた前原国土交通大臣
第4章 プレパッケージ型破綻と稲盛和夫



著者経歴

 町田徹(まちだ てつ)・・・1960年大阪府生まれ。経済ジャーナリスト。神戸商科大学(現兵庫県立大学)商経学部卒業、日本経済新聞社入社。ワシントン特派員などを歴任。ペンシルバニア大学ウォートンスクールに社費留学。雑誌編集者を経て、2004年独立。月刊現代2006年2月号掲載「日興コーディアル証券『封印されたスキャンダル』」で、「編集者が選ぶ雑誌ジャーナリズム賞・大賞」を受賞


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