「日本が売られる」堤 未果
2019/01/30公開 更新本のソムリエ [PR]
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【私の評価】★★★☆☆(75点)
要約と感想レビュー
種子法廃止と種苗法改定
ベストセラーということで手にした一冊です。水道事業の民営化、外国人の土地買い占め、種子法廃止・・など農業、漁業含めて大切な点について問題提起しています。というより、問題提起されていることを抽出して煽っているという感じでしょうか。
例えば、種子法が廃止され、種苗法改定で農家の自家採種が制限され、企業から種を毎年購入せざるを得ないという内容については、方向性は正しいのですが、正確には登録品種のタネだけです。すべての種を購入しなくてはならないわけではありません。
種子法が廃止・・・安い公共種子が作られなくなると、農家は開発費を上乗せした民間企業の高価な種子(現在、公共種子の約10倍の値段)を買うしかなくなり、その分、これから日本人の主食である、コメの値段も上がっていくだろう(p39)
自由化と民営化
確かに自由化、民営化には問題が多くあると思います。また、それ以上に公営にも問題があるのです。そのプラスとマイナスを分かったうえで、制度設計していく必要があるのでしょう。
そして、いくら良い制度設計でも、それを行う事業者で結果が変わるのも事実なのです。原子力事業も金儲けに走れは東電となり、安全に走れば東北電力となる。神様は見ているのです。
橋下市長は水道民営化のメリットを繰り返し強調し、2014年4月に水道事業の運営権(30年)を、市が全額出資する民間企業に2300億円で売る方針を発表する・・その提案があった年、大阪の水道事業は103億円の利益を上げていた(p28)
健康保険で医療目的の外国人
読んでいて常に違和感を持ちました。それは根拠が定量的でない、薄い。対案がないか、例示のみ。プラスとマイナスの分析がないのです。つまり、着目点は良いのですが、あまりに内容が薄いのです。
例えば、医療が売られるとして、医療目的を隠して来日し、国民健康保険に加入して高額の治療を受けにくる外国人が増えていると書いています。これは事実でしょう。外国人は日本に3カ月住めば医療保険に入れます。そして、病気を3割負担で治せるのです。病気になったら、日本で働こうと考える人が増えるに決まっています。
もう少し深堀りしていただくとうれしいとおもいます。今後に期待します。堤さん、良い本をありがとうございました。
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この本で私が共感した名言
・食をコントロールする者が人民を支配し、エネルギーをコントロールする者が国家を支配し、金融をコントロールする者が世界を支配する・・ヘンリー・キッシンジャー(p41)
・イラクでは、この手法でグローバル種子企業が次々に在来種の種子を品種登録し、農民は主食の種子まで企業から高い値段で買うしかなくなり、食の主権を失ったのだ(p50)
・日本政府はアメリカ産輸入大豆のグリホサート残留基準を、しっかり5倍引き上げた・・・アルゼンチンでは、微量のグリホサートを使った実験で奇形の発生が確認され、グリホサートに汚染した地下水によって、周辺住民にがんが平均の41倍発生、白血病や肝臓病、アレルギーなどの健康被害が報告されている(p68)
・国が農家を守るレベルが、EUと日本では桁違い・・例えばフランスの農家は収入の9割、ドイツは7割を政府の補助金が占めている・・彼らは93年の農業交渉で関税を引き下げる際も、安い輸入品との競争で国内農家の所得が減らないよう、政府が補助金を支払って守ることにした(p89)
・中国政府は自国企業に海外の農地買収を奨励・・・ブラジルでは、株主がブラジル国外にいる外国企業による土地への投資が、環境を破壊し、家族経営農家を廃業させ、株式会社の大規模農場とそれ以外の国民の経済格差を拡大させる(p103)
・北海道ではすでに東京ドーム400個分の土地が中国資本の買い占められ、沖縄でも国が借り上げている米軍用地の10分の1がすでに中国資本による所有だという(p104)
・漁船のトン制限を取り去ることで、今後は外国の大型漁船がやってくる。EUが外国船のアクセスを自由化したことで、ノルウェー、フランス、ベルギー、オランダから大型漁船が次々に押し寄せ、地元漁師の大半が潰されてしまったイギリスの失敗例は有名だ(p122)
・2006年に国内のパチンコ店を全廃させた韓国政府が依存症対策につける予算は、年間22億円だ(p176)
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【私の評価】★★★☆☆(75点)
目次
まえがき いつの間にかどんどん売られる日本!
第1章 日本人の資産が売られる
第2章 日本人の未来が売られる
第3章 売られたものは取り返せ
あとがき 売らせない日本
著者経歴
堤 未果(つつみ みか)・・・国際ジャーナリスト。東京生まれ。ニューヨーク州立大学国際関係論学科卒。ニューヨーク市立大学大学院国際関係論学科修士号。国連、米国野村證券などを経て、米国の政治、経済、医療、教育、農政、公共政策、エネルギーなどをテーマに、現場取材と公文書による調査報道で活躍中。講演・各種メディアに出演。
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