「尖閣諸島問題―領土ナショナリズムの魔力」岡田 充
2018/12/16公開 更新本のソムリエ [PR]
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【私の評価】★★☆☆☆(68点)
要約と感想レビュー
中国側の意見を代弁
中国寄りの記事の多い共同通信の人ということで、どんな論法を使うのかなと手にした一冊です。この人のロジックは、中国との対立は日本の対応が悪いと断言するもので統一されています。例えば、尖閣諸島の国有化について、仮に中国人が島を購入しても日本の主権には直接影響しないのだから、日本の見通しが甘かったと非難しています。
また中国が、外交問題を経済的な制裁をかけたり、民間のデモを動員するなどして、威嚇によって妥協を迫っていることについては、武力行使をしているわけでもないし、してもいないとしています。そして、日本の「愛国主義者」たちは、その意図を曲解しているとしています。ロシアのウクライナ侵攻で、そんなロジックは通用しないはずですが、中国側の意見を代弁しているのでしょう。
日本から見れば尖閣諸島の国有化は、中国人が購入しようとしていたのを防ぐために国有化したものですが、中国側から見れば、中国人が購入できていればそれでよし、仮に日本が国有化したら現状を変更したと中国側で反発し、それを共同通信などのマスコミが非難する。中国側のシナリオは、事前に作られているように思えます。本書もそのシナリオを踏襲したものなのでしょう。
・国有化なら問題を沈静化できるとの甘い見通しのもとに、タイミングを計算せずに踏み切った対中外交の稚拙さが改めて浮き彫りになった(p36)
裏を読む
また、南シナ海について著者は、中国側の発言をよく読めば、尖閣を明示的に「核心的利益」と呼んだわけではないし、「革新的利益」を「武力行使」を意味する概念と単純化してはならないとしています。だから日本が尖閣の実行支配を「強化」するようなことは慎まねばならないし、騒ぎ立てたりすれば中国側の術数にはまるだけであると主張しています。これも、中国側の意図なのでしょう。
したがって、著者が中国寄りの世論操作をしているという仮説に立てば、その裏を読むことができます。つまり、著者の主張していることの反対のことをするとよいのです。著者が「慎まねばならない」と書いているならば、日本は実効支配を強化したほうが中国としては困るというわけです。中国にとって望むことが書いてあるはずですから、逆をすればいいのです。
中国は革新的利益など原則に忠実ですので、こうした宣伝工作についても画一的なところがあります。原則と反することは中国共産党の指導に反することになるため、ある意味ワンパターンで分かりやすいのです。
・繰り返すが、領土問題で立場が強いのは実効支配している側である。「強化」という作為に出た印象を与えれば、係争の相手側から反発を買い問題を再燃させるだけである。実行支配の「強化」は慎まねばならない(p40)
元共同通信の評判を裏切らない一冊
日本の安倍首相を中心に中国包囲網を作ろうとしてきましたが、著者は「米国では、有力な元政府当局者から、米国の優位性の喪失を所与の事実として受け止め、中国と外交、経済を含めた総合的な協調関係を模索しようとする議論が提起されている」と全く根拠のない説を主張しています。よほど日米同盟強化によって構築されつつある中国包囲網に危機感を持っているのです。
元共同通信の評判を裏切らない一冊でした。著者が中国の代弁者とすれば、中国としてはロシア、アメリカ、日本、インドで中国包囲網ができるのが嫌なようです。もう少し共同通信の報道を研究してみたいと思います。岡田さん、良い本をありがとうございました。
この本で私が共感した名言
・海洋監視船が一度に6隻も了解に入り、「1000隻もの漁船が向かっている」と伝えられると・・それだけで「中国が武力で奪おうとしている」と、身構えるのはナイーブ過ぎる(p41)
・確かに台湾、中国が領有を主張し始めるのは、沖縄返還が日程に上り、石油・天然ガスなどの海底資源の存在が脚光を浴びるようになった1960年代後半のことだ。だが日本側が領有権を意識し始めたのも、彼らが領有権を主張するようになったからである(p85)
・グローバル化に伴う近隣諸国との相互依存関係の深化という規律を無視し、ナショナリズムのみを追求するなら中国に勝ちはない。中国はいまその綱引きのジレンマの中にある。対外強硬路線の背景もそこにある。強い中国ではなく、弱い中国の象徴と考えるべきである(p133)
▼引用は下記の書籍からです。
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【私の評価】★★☆☆☆(68点)
目次
第1章 最悪の日中関係
第2章 過去をふりかえる
第3章 国際関係のなかの尖閣諸島問題
第4章 領土と国家の相対化
資料 日中台が各々領有権を主張する根拠
著者経歴
岡田 充(おかだ たかし)・・・1972年共同通信社に入社。香港支局、モスクワ支局、台北各支局長、編集委員、論説委員を経て2008年から共同通信客員論説委員、桜美林大非常勤講師。
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