「中国と台湾―対立と共存の両岸関係」岡田 充
2006/08/29公開 更新本のソムリエ [PR]
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【私の評価】★★★☆☆(70点)
要約と感想レビュー
台湾は中国抜きに生存できない
中国寄りといわれる共同通信の記者は、どういった本を書いているのか興味があって読んでみました。記者なので、中国、台湾の現状について羅列して、それほど中国寄りに誘導しようという意図はそれほど見えませんでした。2003年頃の米中対立について、米中台三者がそれを利用していると著者の仮説として説明しており、「著者の仮説」とするところが、本書では、まだ記者らしさが残っているように感じます。
ただ、根拠なく断定調に主張するのが著者の特徴のように感じました。例えば、台湾は中国抜きに生存できないとか、中国の台湾への武力威嚇は軍や強硬派のガス抜きであるなどと書いているのです。何を根拠に、そのように書いているのか、私にはわかりませんでした。
・中国が台湾独立阻止を名目に、武力威嚇を繰り返すのも、揺らぐ共産党指導を維持するため、軍など強硬派のガス抜きの意味がある(p7)
台湾人と中国人のDNAの系統が違う
こうした根拠なしで主張する傾向は、理系の私から見ると、著者は何かを隠して意図的に書いているのではないかという疑問を生じさせます。著者は「新聞記者と学者・研究者の仕事とはよく似ている」とし、情報分析をし、それに基づいて短期・中期・長期の見通しを描くと書いていますが、私が記者に期待するのは、汚れなき眼で事実を伝えてほしいだけなのです。
例えば、台湾独立派を説明する中で、著者は台湾人と中国人のDNAの系統が違うことを主張する人たちを、ファッショであると批判しています。ファッショとはファシズム的な意味で使っているようですが、そもそも中国が台湾を統治したことはないので、DNAが合うはずがないのです。それを言葉汚く切って捨てているところは、逆に著者にファッショ的な考えがあるのではないかと感じました。
・台湾人のDNAから中国人(漢民族)との差異に着目して、独立論を展開する急進派もいる。こうなると血統からユダヤ人を差別し、虐殺したナチス・ドイツのやり方をつい思い出してしまう(p182)
「親台」は日本の安全保障と経済が危険
この本の最後に著者は、日本の「嫌中」の意識から「親台」や「一つの中国」を認めている日本国の政策変更するようなことがあれば、日本の安全保障と経済が危険になると警告しています。中国関係者との関係を持ちすぎたのか、中国人の主張のように感じました。
田岡さん、良い本をありがとうございました。
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この本で私が共感した名言
・共産党の指導が保証する中国の統一性(版図)の維持・・台湾やチベット、新疆の独立勢力に対する武力威嚇はそれを裏付けする(p93)
・日本語世代・・「日本統治時代の道徳教育こそが、台湾人と中国人を精神的に分離させた」と説明する(p169)
・東京に送った記事の見出し「中国の武力威嚇」が「中国の牽制」に変えられたことがある(p233)
【私の評価】★★★☆☆(70点)
目次
1章 「台湾海峡の緊張」という虚構
2章 深まる経済相互依存のジレンマ
3章 中国共産党の変貌
4章 李登輝による「虚構崩し」
5章 陳水扁政権はどこへ行くか
6章 独立か、統一か多元化する政治潮流
7章 米中協調関係の「虚」と「実」
8章 軋む「七二年体制」
著者経歴
岡田充(おかだ たかし)・・・1948年、北海道生まれ。慶応義塾大学法学部卒業後、共同通信社に入社。香港支局長、モスクワ支局長、台北支局長を歴任し、現在、外信部編集委員・論説委員。専門は東アジアの安全保障と外交。
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