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「成り上がり 金融王・安田善次郎」江上 剛

2018/05/02公開 更新
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成り上がり 金融王・安田善次郎 (PHP文芸文庫)


【私の評価】★★★★☆(82点)


要約と感想レビュー

収入の八割で暮らし残りは貯蓄

今、車を運転中は、オーディオCDで安田財閥を作った安田善次郎の「富の活動 CD」を聞いています。CDでは安田善次郎の考え方の説明になっていますが、この本では小説形式で安田善次郎の生涯をたどります。


江戸時代後期、富山に生まれた善次郎は、武士が幅をきかせる世の中で、武士と対等に話す商人を見て、自分も金持ちになろうと決意します。人間は出自や身分に関係なく、能力が高い、志が高いものが正しく評価され、報わられねばならないと考えていたのです。努力もしないで、親が偉かっただけで、高い地位と俸禄が約束されている武士が許せなかったのでしょう。


金を稼ぐなら大都市の江戸に出たい。安田は親の反対もありましたが、20歳で江戸へ出て商売をはじめました。お金を貯めるために収入の八割で暮らし、残りは貯蓄しました。酒と煙草を止め、勤勉を守り、他力を頼まず自立し、嘘をつかない・人に迷惑をかけないことを旨としていたという。「成功した暁には、禁煙貯蓄、禁酒貯蓄を世間に広めてやる」と考えていたくらいなのです。


・金の力は偉大だと思う。そして金を持っている商人が一番偉い。これが世の中の真理だ。武士なんか、空威張りしているだけだ。それが証拠に金を持っている町人に頭を下げ、へらへらしているではないか(p33)


人には分限というものがあり、それを超えてはならない

最初はおもちゃ売りから商売をはじめます。次はかつお節屋で丁稚奉公。25歳で独立し、乾物と両替を商う安田商店を開業します。この"両替"がまじめで実直な善次郎にぴったり合っていました。つまり時代が、両替や銀行を求めていたのです。明治政府が発行した太政官札を正貨に切り替えるために、善次郎は額面割れの太政官札を大量に購入したのです。政府の正金金札等価通用布告で、善次郎は巨額の利益を手にすることになるのです。


安田善次郎は「分限」というものを大切にしていたことがわかります。つまり、人にはそれぞれ分限というものがあり、それを超えてはならないのです。例えば、生活も収入の90%で暮らすのが分限です。残りの10%は、貯蓄して非常時の備えにするのです。貧しいときも、富むときも、この分限を守る姿勢を変えなかったという。宵越しの金を持たないという風潮の江戸において、宵越しの金を持つ安田善次郎の信用は高まり、多くの人々の中から、成り上がることができたのです。


また、こつこつと一歩ずつ進むことをよしとしていたことがわかります。例えば、人に対し「もしお前が100里(約400キロ)の道を10日で歩こうとしたらどうする?」と質問しています。その答えは、「最初は、7里か8里にとどめ、慣れてくれば10里、11里と増やしていく。そうすれば怪我も失敗もない」といったという。


・倹約して貯蓄しろということだ。たった一文でも、毎日貯めていれば、銭なんてすぐに貯まるのだ。一文なんてと馬鹿にして、無駄使いをしたり、貯蓄をしない人は、余裕もできない。最後には食うにも困ることになるだろう(p52)


真面目にこつこつと努力

商売人としては、お客様を平等に接していたことがわかります。貧しい物乞いの人であろうと、子供であろうと、誰にもお客様として分け隔てなく接していた姿勢が光ります。そして、お客様がどんどん増えていったのです。貯蓄・倹約で元手を作ること。どんなことがあっても自分を支えてくれる友人を持つこと。堅実・確実と判断すれば、反対があっても投資すること。大きな失敗したことは一度もない、という善次郎の成功への考え方が伝わってくる一冊でした。


安田善次郎の成功感とは、お金持ちになることばかりではなく、お金持ちではなくても、温かい家庭を作り、友人に恵まれることも大切な成功だとしていたという。商売においては秘密やごまかしなどもってのほかで、すべて明らかにして赤字であれば、それを直していくことに発展の基礎があるというのです。どんなときにも真面目にこつこつと努力してきたのが、安田善次郎だとわかりました。江上さん、良い本をありがとうございました。


この本で私が共感した名言

・なぜ金持ちになりたいかと問われれば、施しではないが、世のため、人のためになることをしたいからだ・・俺は金持ちになって、世の中から一人でも貧乏人を少なくしたいね(p234)


・それともう一つは、善いと信じたら実行することだ。目的を達成するために躊躇してはならない。躊躇すれば、道が閉ざされることがあるからな(p20)


・学問もなく、あまり才能に恵まれていないのに大成功を収める人がいる・・才能がないために、これしか道はないと思い定めたら、自分の信じる道を、ただひたすら歩み続けるからだ(p179)


・忠兵衛は、千両の分限者になるためには、良き友人を持つことだと思っていた。喜八郎、太郎兵衛、捨次郎は心を許し、同じ夢を見ることができる友人たちだった(p256)


・私は、お貸し出しをしたお客様に真面目であることをお願いしている。真面目に仕事をしていただければ、いくらでもお貸し出しする。(p412)


成り上がり 金融王・安田善次郎 (PHP文芸文庫)
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【私の評価】★★★★☆(82点)


目次

第一章 龍神と雷神
第二章 寺子屋商人
第三章 最初の出奔
第四章 親不孝
第五章 再び江戸へ
第六章 試練
第七章 はじめての奉公
第八章 太陽に学べ
第九章 行商人暮らし
第十章 転職と天職
第十一章 両替商修業
第十二章 母の死
第十三章 投機
第十四章 失敗と独立
第十五章 安田屋開店
第十六章新妻房
第十七章商機
第十八章飛躍
第十九章 千里の道も一歩から



著者経歴

江上剛(えがみ ごう)・・・1954年、兵庫県生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業。77年、第一勧業銀行(現みずほ銀行)入行。人事、広報等を経て、築地支店長時代の2002年に『非情銀行』で作家デビュー。03年に同行を退職し、執筆生活に入る


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