【書評】「これが潜水艦だ―海上自衛隊の最強兵器の本質と現実 」中村 秀樹
2011/09/19公開 更新

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【私の評価】★★★★☆(81点)
要約と感想レビュー
潜水艦の攻撃を避けるのは難しい
韓国の哨戒船が、北朝鮮の魚雷または機雷で沈没したことがありました。この本を読むと潜水艦の強さ、弱さがわかり、「そうだよね」と納得できます。
水上艦が、潜水艦の攻撃を避けるのは、非常に難しいのです。そもそも、潜水艦が本気でやれば、対潜部隊は探知できないから訓練にならないという。訓練時には訓練規定に従って潜水艦に見つかりやすいように行動するハンディを与えています。
もちろん敵国を特定するのは、さらに難しいのです。
私の経験上、護衛艦のソーナー追尾ほど振り切るのが容易なものはない。・・・一番簡単なのは、(高圧)空気の放出である。・・・空気(泡)の陰に隠れて、高速で離隔しつつ深度変換(深さを変える)を併用して、変温層の向こうへ逃げ込めば、あっという間に失探である(p108)
海上自衛隊の人事がだめ
潜水艦の運用や武器としても特徴も技術屋として面白いのですが、海上自衛隊の組織の話がおもしろい。人事がだめ。前例主義。陸海空の組織の壁などが書かれています。
例えば、指揮官タイプの人間を長く幕僚をやらせるかと思えば、優柔不断で責任回避しがちな人間が指揮官を歴任するというのです。部隊の士気が下がることこのうえないという。
また、護衛艦の航海長は、若い幹部の場合が多いので、艦全体を仕切ろうとしても、古い科長が言うことを聞かず、護衛艦の訓練が内容のない形式的なものになったりするという。主導権争いですな。
また、無能なくせに部下に任せない艦長もいて、「馬鹿な指揮官、敵より怖い」と言われているという。自衛隊も役所の一部ですから、まるで、自分の会社と同じだな~と感じました。
芸は身を滅ぼす・・・英語の達者な人物は、望む配置につく余裕がなく、渉外や調整業務を転々とすることが多い。そして無芸、無能な同期においしい配置(艦長など指揮官配置)を奪われる結果となっていた(p231)
自衛隊には実戦経験が必要
著者の心配は、艦艇の高価で数少ないミサイルを撃ちつくした後、どうするのだろうということです。護衛艦の火砲は、豆鉄砲だし、装備数も少ないのです。
自衛隊が本当に一皮むけるためには、実戦経験が必要なのでしょう。実戦がないのは良いことなのでしょうが、最悪の場合にどうなるのか。天才的な実力幹部が求められているのかもしれません。大きな組織の難しさを感じました。
中村さん、良い本をありがとうございました。
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この本で私が共感した名言
・潜水艦の天敵は潜水艦なのだ。潜水艦同士なら、音の静かなほうが勝ちだ。原子力潜水艦と電池潜水艦は、電池の方が静かである。旧式と新型なら、新型の方が静かである。(p57)
・「究極の対潜水艦対策は高速航行」というのが私の信念だ・・・具体的には、高速フェリーをチャーターするのだ。(p226)
・軍艦の主機としてガスタービンが主流になった・・・ガスタービンは従来のディーゼル、蒸気タービン機関より静粛になったため、水上艦がソーナー発信していないと、音で探知するのは困難になった(p81)
・航空部隊というのは横着で、訓練の記録はいい加減なものを送ってくる。訓練の現場では1尉あたりの青二才機長が、2佐の館長相手に横柄に通話をしてくることもある(p104)
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【私の評価】★★★★☆(81点)
目次
序章 海軍と潜水艦の仕事とは
第1章 海上自衛隊潜水艦の実態
第2章 艦内生活
第3章 対潜戦術を考える
第4章 これが海上自衛隊だ
著者経歴
中村秀樹(なかむら ひでき)・・・昭和25年生まれ、福岡県出身。昭和49年、防衛大学校卒(18期)。潜水艦長のほか海幕技術部、護衛艦隊(幕僚)、情報本部分析部、幹部学校(教官)、防衛研究所戦史部等に勤務。平成17年退職
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