【書評】「石橋を叩けば渡れない。」西堀栄三郎
2003/09/18公開 更新
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【私の評価】★★★★☆(85点)
要約と感想レビュー
チャレンジの哲学
1957年、第1次南極越冬隊の隊長として、周囲が「不可能だ」と口を揃えた南極越冬を成功させた西堀栄三郎氏。京都帝国大学で理学博士号を取得し、東芝での真空管研究でデミング賞を受賞、晩年にはチョモランマ登山の総隊長まで務めた稀有な経歴の持ち主です。
本書のタイトルが示す通り、著者の哲学の核心は「考えすぎて踏み出せないよりも、勇気を持って一歩を踏み出す」ことにあります。「とにかく、強い願いを持ちつづけていれば、降ってわいたようにチャンスがやってくる」という著者の言葉は、単なる根性論ではないのでしょう。
願いを持ち続けることが行動のきっかけとなり、行動の積み重ねがチャンスを引き寄せるという、経験に裏打ちされた法則なのです。
とにかく、強い願いを持ちつづけていれば、降ってわいたようにチャンスがやってくるものです。そのとき、取越し苦労などしないで、躊躇なく勇敢に実行を決心することです。
願いが現実になった私の経験
この著者の言葉を読んで、私自身の経験を思い出しました。会社に入ったばかりの頃、上司から「次はどこに行ってみたいか」と聞かれ、とっさに「ニューヨーク事務所に行きたいです」と答えました。「現場からニューヨークはないよ」と一蹴されましたが、海外への関心を持ち続けて英語の勉強だけは細々と続けていました。
それから2〜3年後、本社へ転勤してからしばらくして、突然「ニューヨーク事務所に半年行ってみないか」という話が届きました。上司は以前の発言を覚えており、英語が少しできることも選抜の理由になったようでした。
そのときは自分がニューヨークに行けることになったのが不思議でしたが、今、振り返ってみると、「ニューヨークに行きたい」という願いがあったからこそ、上司へのさりげないPRになり、英語学習を続ける原動力になっていたのです。
「最初」を恐れない
著者が繰り返し強調するのが、「最初」を引き受けることの大切さです。南極越冬は当時、誰もやったことのない「最初」でした。だからこそ周囲は不可能と言った。しかし著者にとって「前例がない」ことは止まる理由にはならず、むしろ挑む理由になりました。
「決心すれば方法はでてくる」という著者の言葉も印象的です。「何とかしてやるぞ」と思えば、方法は後からついてくるというのです。方法を確認してから動こうとすれば、石橋を叩きすぎて渡れなくなる。決心という順序が先にあってこそ、道が開けるという逆説は、著者の人生そのものが証明しています。
物事には、最初というものが必ずいっぺんはあります。その最初をやらなかったら、二度目はないのです。最初のないものというのはない、だから、それを私たちはやろうと考えているのです。
人を育てるということ
本書は個人のチャレンジ論にとどまらず、人材育成にも踏み込んでいます。「教育は暗示」という言葉は一見奇妙に思えますが、著者の意図はおそらく「リーダーの言葉と姿勢が、メンバーの可能性に対する信念を形成する」ということでしょう。
また著者は、「個性は変えられないが、能力は変えられる」と言います。生まれ持った特性を否定するのではなく、その上に能力を積み上げていけるという考え方は、部下育成において相手の個性を活かすことを重視する視点として重要でしょう。
統率するということは教育ということと同意語である。教育ということは、さらに暗示ということと同意語である。
石橋を渡った人
ヤンキース時代の松井秀喜選手が座右の銘として紹介していたとされる言葉があります。「心が変われば行動が変わる。行動が変われば習慣が変わる。習慣が変われば人格が変わる。人格が変われば運命が変わる」という星稜高校野球部・山下智茂監督の言葉です。
きわめて単純で当たり前のことのように聞こえます。しかしこの「当たり前」を実践し続けることが、人生の分かれ目になる。しかし、このしごく簡単、当たり前のことがきっと人生を左右するのでしょう。
南極越冬、チョモランマ登山総隊長、原子力研究所理事を歴任した西堀栄三郎という人物の生涯そのものが、キップのいいチャレンジ精神が伝わってくる一冊でした。
西堀栄三郎さん、良い本をありがとうございました。
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この本で私が共感した名言
・新しいことをやるということは、すべてが、探検的精神です。
・若いころの夢はいつか実現する
・いつかチャンスがあったら南極へ行ってみたいなあ、という気持ちを持ったわけです。こうした志というか、願いというか、夢というか、そういうものをもっていると、いつか現実の道が開けてきます。
・人間は経験をつむために生まれて来たんや
・創意工夫ふるためには - まず第一に「こんなことができないのか」と思わなければだめです。・・・第二に、絶対にあきらめたらいかん。何とかなる、何とかしてやるぞ、と思うことです。
【私の評価】★★★★☆(85点)
目次
石橋を叩けば渡れない
若いころの夢はいつか実現する
人間は経験を積むために生まれてきたんや
「ああ そらよかったなあ」
子供がおもちゃで遊ぶようなもの
はじめから役に立つ研究なんてあるだろうか
五分の虫にも一寸の魂(抄)
「我輩氏」
自主主義のすすめ
幅役
種をまく、育てる
人が人を使う
著者経歴
西堀栄三郎(にしぼり えいざぶろう)・・・1903年(明治36年)京都市に生まれる。
昭和3年 京都帝国大学理学部卒業
昭和11年 京都帝国大学理学部助教授・理学博士
昭和11年 東京電気(現東芝)に入社、真空管の研究に従事
昭和18年 技術院賞受賞
昭和29年 デミング賞受賞
昭和32年 第l次南極越冬隊長として南極で越冬
昭和33年 日本原子力研究所理事
昭和40年 日本原子力船開発事業団理事
昭和47年 日本生産性本部理事
昭和48年 ヤルン・カン遠征隊長
昭和53年 ゴルカ・ダク・シン・バフー勲二等受賞
昭和55年 チョモランマ登山総隊長
昭和57年 日本工業技術振興協会会長
1989年(平成元年)没。日本の登山
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