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【書評】「麹町中学校の型破り校長 非常識な教え」 工藤 勇一

2026/08/18公開 更新
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「麹町中学校の型破り校長 非常識な教え」 工藤 勇一


【私の評価】★★★☆☆(78点)


要約と感想レビュー


定期テストや宿題・担任制を廃止

麹町中学校の立て直しの本を読んだので、起点となった工藤 勇一元校長の本を読んでみました。


立て直しの本では元校長がトップダウンで、宿題や定期テスト、担任制を廃止と書いてありましたが、この本では対話を重ね、合意してきたものだと書いています。どちらが正しいのでしょうか。


担任制廃止のところを読んでみると、廃止の理由は二つです。未熟な主担任が問題を解決できない場合でも、担任制だと他の先生が手を出しにくいこと。また、「うちの担任、最悪だよ」と感じる生徒がたくさんいることだという。


立て直しの本では、若い先生が問題を抱えたとき突然担任を変更させられたと書いており、ベテランの先生に問題解決を任せたと考えられます。工藤 勇一元校長は、担任のレベルの差があることの解決策として担任制廃止を選んだのです。担任の育成よりも、問題解決を重視しているということです。


その一方で、多くの先生は必要以上に子どもに介入しすぎで、できるだけ生徒に任せる。そして大事なときだけ支援する。だから担任がいないことによる問題はないとも書いており、本質は主担任の生徒への介入を減らすための手段のようにも見えました。


立て直しの本では、先生の生徒への介入が減ったことを放置と表現しており、これは見方によって変わるのでしょう。


興味深いのは、担任制を廃止したために、しばしば生徒が工藤 勇一元校長のところへ進路相談に来るというエピソードです。工藤 勇一元校長はこれを問題とせず、子どもたちには「いつでも校長室においでと伝えてある」と自負しています。主担任がいないために校長に進路相談する状況は、まずいのではないでしょうか。


担任制があるとどうしても「うちの担任、最悪だよ」と不幸に感じる生徒がたくさんいる(p193)

欧米の個性を伸ばす教育

工藤 勇一元校長は、演劇を作り上げるワークショップ「ヤング・アメリカンズ」を紹介しており、子どもの自由意思を尊重して、否定をしない環境を重要視していることがわかります。「ヤング・アメリカンズ」では、絶対に子どもたちを叱らず、自発的な参加を促すものなのです。


全校集会では、工藤 勇一元校長自ら、「みんなの意見を聞いて目的を達成できないこと」と「意見を聞かずに目的を達成すること」どっちが大事かな?と問いかけ、波風を立てないことより、成果を達成するべきという講演をしています。


そのうえで、個人主義のヨーロッパでは、「人はみんな違う」のが前提で、対話による合意形成つまり民主主義が生まれたと説明し、そのうえで耐え忍ぶよりも、自分で考えて自分で責任をとるほうがが大事としています。


麹町中学校の目標は「自律した子ども」を育てること。言い換えれば「人のせいにしない子ども」です。そのうえで、「人間はみな違うし、対立が起きるのは当たり前である」「失敗OK]「人と違ってOK」の文化を徹底しているとしています。


この本を読んで工藤 勇一元校長は、アメリカ的な自己決定と自己責任およびヨーロッパ的な多様性と対話による解決を目指しているのだと理解しました。


小学校に入って、一律に座りなさいと言われるあたりから、その子の独自性が徐々に奪われていきます(p171)

放置なのか自主性を育てているのか

工藤 勇一元校長時代の麹町中学校では、一方的な押し付けは、生徒の主体性を鍛える機会を奪うということで、授業中に教室から飛び出してしまった子どもに教員が「何してるの!教室に戻りなさい」と叱ってはいけないことになっていました。


そのように叱ると、周囲の子どもたちに「あの子は迷惑な子なんだ」と刷り込まれてしまうからです。日本社会では周囲と仲良くできない子や、調和を乱す子、コミュニケーションがうまく取れない子をことさら異端扱いしようとする「出る杭を打つ社会」で、これを変えていこうというわけです。


先生の介入が少なくなったことで、主体的に動く生徒がいたのは事実のようです。例えば、文化祭は生徒たちが「文化祭をやりたい」と言い出したことから、自主的に開催されていったという。


また、勉強は苦手ですがどんな授業でもガンガン手をあげて、突拍子もない質問をする個性的な子どもを一人紹介しています。授業中に教室を飛び出したり、みんなが自分のことをバカにするといって周囲を攻撃することもあったものの、叱らない対応をしているうちに、周囲の子どもたちがその子を受け入れるようになったと書いています。


成功事例の紹介はこのくらいで、もう少し成功事例を紹介してもらうと、信憑性が増すのにと感じました。


違和感を持ったのは、「問題が起こるたびにそれを乗り越え、劇的に変わる子どもの様子をたくさん見てきました」と書きつつ、主担任の問題では放置せずに担任を変えるなど「待つ」ことをしていない点です。生徒を育てる視点があれば、先生を育てる視点も同じはずだからです。


子どもの自立を育むために、周囲の大人が一番意識しなければいけないことは、何でしょうか。それは、ひたすら「待つ」ことです(p165)

公立中学校としてはどうなのか

著者は既存の教育の枠組みにこだわりすぎると、子どもの興味・関心を潰すとし、学校のカリキュラムという固定観念にとらわれず、あえて捨てることを提案しています。


また、一斉授業は非効率とし、一斉授業だけで育った子どもたちの多くは、人を批判するようになり、教員に頼って受け身になると断言しています。ただ、受け身になる子どもの比率や根拠は示されていません。


日本の教育現場では「カリキュラム」と「学習方法」が画一的な形で提供され、そこにはまらない子どもたちの可能性を潰してしまうと断定しています。デメリットだけでなく、メリットも示しつつ総合評価し、事例で補強すると説得力が増すのではないかと感じました。


このような説明の中で、定期テストのための「一夜漬け」では意味がないとし、麹町中学校では宿題と中間テスト・期末テストを廃止。成績に反映されるテストは、単元テストだけで、点数に納得できなかったら、自己申告で再チャレンジができる制度にしたとの説明になります。


中学校では、評価が「絶対評価」になっており、再チャレンジできるとすれば、だれもが高い点数を取れる可能性のある制度のように見えます。


定期テスト「一夜漬け」では意味がない・・・麹町中学校には宿題だけではなく、期末テストもありません。すべて廃止しました(p27)

著者の思考と論理性

著者の思考を推測しうるエピソードとして、著者が中学1年生のときに野球部に入って数週間で辞めた経験を書いています。球拾いと、意味のない声出し。こんなくだらないことを我慢してまで野球部にいる合理的な理由が見つからないと辞めてしまったのです。


また、東京に赴任してから、東京の学校では体罰は常態化しており、使う言葉は汚く、子どもたちは、心の中で反発していながらも、強い先生に媚を売り、弱い先生をからかっていると説明し、「東京の教育は腐ってる」と思ったと書いています。対話と多様な価値観の重要性を主張しながら、自分の職場のことになるとそうでもないようにも見えるのです。


また、この本の中で、公共交通機関で席を譲らない人が増えたきっかけは教育現場に「心の教育」が入ってきたからだと主張している点にも疑問があります。つまり、「良い心」にこだわると「よい心」がなかったら、それは「偽善」になってしまうので、席を譲らない人が増えたと主張しているのです。この主張を私は理解できませんでした。


全体を読んでみて、麹町中学校の工藤 勇一元校長の改革は、勉強のできる子どもは自由に勉強できるし、勉強のできない子は勉強しないで自由に生活しながらも単元テストをうまく乗り越えれば、よい内申点が取れる仕組みと理解しました。確かに、生徒にとってはそれほど悪い仕組みでもなさそうです。


仮に麹町中学校の改革が継続されれば、より欧米の学校に近づいていくのでしょう。欧米の学校のように校内暴力対策として監視カメラが必要となったり、いじめや喫煙などでトイレが危険地帯になったり、圧の強い同級生になじめない生徒用の代替え学校も必要になるのかもしれません。


とはいえ、麹町中学校の改革が、どのような決定プロセスで責任と権限で行われたのか。その結果をデータで検証したものは報告されているのかなど、説明不足の点が多すぎて、正確に評価できない一冊でした。もう少し調査を勧めます。


工藤さん、良い本をありがとうございました。


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この本で私が共感した名言


・日本の教育では「忍耐」「礼節」「協力」が重視される傾向があります(p68)


・ゲームに没頭する子への声のかけ方・・・一方的に親がルールを決めて子どもに強制するのは避けたほうがいい・・主体性を身につける機会がどんどん奪われていきますし、親に対する反発心が生まれるリスクがあるからです(p98)


・子どもはそもそも主体的な生き物です。一方的な押し付けは、主体性を鍛える機会を奪い続けます・・その子たちの多くは、次第に与えてもらう「質」に不満を言うようになり・・「誰かのせい」「組織のせい」にする(p4)


・読み書きができない学習障害をディスレクシアと言います・・・実業家のリチャード・ブランソン(ヴァージングループ創業者)、世界屈指の映画監督スティーブン・スピルバーグ、ハリウッドの大スター、トム・クルーズ(p113)


▼引用は、この本からです
「麹町中学校の型破り校長 非常識な教え」 工藤 勇一
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工藤 勇一 (著)、SBクリエイティブ


【私の評価】★★★☆☆(78点)


目次


第1章 勉強の「正解」を疑う学びの本質とは?
第2章 「心の教育」を疑うしつけの本質とは?
第3章 「協調性・みんな仲良く」を疑う多様性の本質とは?
第4章 「子どものために」を疑う自律のために親ができること


著者経歴


工藤勇一 (くどう ゆういち)・・・東京都千代田区立麹町中学校校長。1960年山形県鶴岡市生まれ。東京理科大学理学部応用数学科卒。山形県公立中学校教員、東京都公立中学校教員、東京都教育委員会、目黒区教育委員会、新宿区教育委員会教育指導課長等を経て、2014年から千代田区立麹町中学校長。教育再生実行会議委員、経済産業省「未来の教室」とEd Tech研究会委員等、公職を歴任。


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