【書評】「「カルト」はすぐ隣に: オウムに引き寄せられた若者たち」江川 紹子
2025/06/30公開 更新

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【私の評価】★★★★☆(84点)
要約と感想レビュー
オウム真理教は殺人教団
新興宗教オウム真理教とは何だったのか、テレビでおなじみの江川さんに解説してもらいましょう。オウム真理教は殺人組織のように、自分たちに都合の悪い人々を次々に殺しています。
最初の殺人は1988年、修行中に死亡させた信者の遺体を教団内で焼却処分。1989年には、死体焼却に関わった信者が脱会するというので殺しています。
1989年には坂本弁護士一家を殺害。1994年には、病気の信者を助け出そうとした信者を殺害、焼却しています。1994年には裁判官を殺そうと松本サリン事件を起こします。
1994年には著者の江川さんの自宅に毒ガスホスゲンを噴霧して殺人未遂。1994年にはスパイと思われる会社員に神経剤VXをかけて殺害しています。1995年には資産家女性の居場所を聞きだそうと兄を拉致し、薬物で死亡させています。
そして、1995年3月に地下鉄サリン事件を引き起こすのです。殺人手段はロシアKGB並みです。
サリンなどの化学兵器の開発を開始・・・当初は創価学会の池田名誉会長をサリンで襲う計画でした・・ほかに、ソマン、イペリット、ホスゲン、青酸、VXなどの毒ガスの製造方法を次々に開発していきます(p33)
麻原彰晃の生い立ち
麻原彰晃こと松本智津夫は、どんな人物だったのでしょうか。麻原は、左目がほとんど見えず、小学校から盲学校に通います。当時から金に対する執着が強く、「金持ちにならにゃあ」が口癖だったという。
社会人になると麻原は漢方薬局を始めます。自分で調合した「薬」を、「リューマチ、神経痛、腰痛が30分で消える」と3万円から6万円で販売しました。当然、薬事法違反の疑いで逮捕されます。
その後、経営塾と宗教団体を運営していた人物に弟子入りし、宗教のノウハウを学んだのち、ヨガ道場「オウムの会」を立ち上げるのです。ヨガ教室を開きながら、健康飲料の販売などを行っていたという。
教祖が入った風呂の残り湯を200ccを2万円で売ったり、教祖の血をまぜた飲み物を飲む儀式の参加費として100万円を請求していたという。これは儲かります。
また、オウム真理教の信者の食事は一日一回なのに、教祖一家は焼き肉や寿司など好きなものを自由に食べていたという。食欲は普通にあるのです。
さらに、麻原は、高い世界に導く儀式と称して若い女性と性交しています。気に入った女性信者を「側室」にし、少なくとも三人の女性との間で合計六人の子どもが生まれています。性欲も人一倍あるのです。
このように麻原は、自分の金銭食、性欲のためにオウム真理教を立ち上げたと推測されます。
信者も順調に集まっていたので、麻原は国家転覆計画を立てています。宗教家は信者が増えると、国家そのものを支配したくなるのでしょうか。
(麻原は)「日本ジャンバラ化計画」・・・「ハルマゲドン(大破局)が迫っている。時間がない」と言って信者を追い立て、化学兵器や自動小銃を密造させます。教団が独自の国づくりをし、ゆくゆくは武力で日本を支配して、その王にまでなることを夢見たのです(p19)
洗脳の技術
オウム真理教では、ヨガの修行法を書いたテキストに、麻原の指導が録音された音声がセットになった教材を販売していたという。会員ビジネスとしては王道です。
修行では、効果を信者に実体験させるために、覚醒剤やLSDなどを飲み物に混ぜ、儀式と称して信者に服用させていたという。暴力団のような手口です。
出家すると、全財産を寄付したうえ、睡眠時間を減らされ、一日一食という単調な食事を強制され、外からの情報は遮断され、考える暇なく修行という名の指示に追いまくられる日々だという。
そして麻原は信者に対して、自分の心を空っぽにするように、と説き、自分の頭で考えるのではなく、教祖である自身や教団の指示に従うように求めていたというのですから、確信犯なのです。
こうした手法で多くの人が洗脳されてしまったのですから、だれでも洗脳されるかもしれないという意識を持つことが大事なのでしょう。
カルトは入ってくる情報を制限します。「マスコミ情報は魂が汚れる」などと教え込んで、色々な情報に触れさせないようにします(p197)
集客の技術
麻原は「大学理数化学の人材をぬきとる」「医師を集める」「美人を集める」「経済的センスを持っている人間」「法律専門家」といった信者獲得の方針を指示していたという。
具体的には、教団は有名大学にヨガやカレーなどのサークルを作って勧誘したり、学園祭の時に麻原の講演会を開催していたという。また、オカルト雑誌で麻原がヒマラヤでの修行によって、超能力を獲得したと書かれており、それを信じた人もいたというのです。
集客の手法としては、よく勉強しているという印象です。悪は手段を選ばないので強いのです。冨安さん、良い本をありがとうございました。
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この本で私が共感した名言
・アンケート調査・・大学のサークル活動、ヨガや瞑想の教室を装って、近づいてくる場合があります(p215)
・オウムが起こしている様々なトラブルや事件については、一部の週刊誌を除いて、なかなか報じませんでした。その理由の一つは、オウムのクレームや訴訟、激しい抗議などを恐れたからです(p189)
・オウムのほかに、教祖の因縁や霊の祟りを騙って、印鑑や壺を始め色々な商品を高く売りつける霊感商法や、教祖が女性信者に性的奉仕をさせたり、あるいは病気の人に適切な治療を受けさせず死んでしまったりする宗教団体(p200)
▼引用は、この本からです
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江川 紹子(著)、岩波書店
【私の評価】★★★★☆(84点)
目次
1章 悩みの隣にオウムがあった
2章 オウムを生んだ社会
3章 ある元信者の手記
4章 オウムに引き寄せられた若者たち
5章 引き寄せられる前に
著者経歴
江川紹子(えがわ しょうこ)・・・1958年,東京都生まれ.早稲田大学政治経済学部卒業.神奈川新聞社の社会部記者を経て,フリージャーナリストに.新宗教,災害,冤罪のほか,若者の悩みや生き方の問題に取り組む.95年一連のオウム真理教報道で菊池寛賞を受賞.
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