「やさぐれトラックドライバーの一本道迷路 現場知らずのルールに振り回され今日も荷物を運びます」橋本 愛喜
2024/05/07公開 更新本のソムリエ [PR]
Tweet
【私の評価】★★★★☆(85点)
要約と感想レビュー
国内物流の90%はトラック輸送
2024年4月からトラックドライバーの年間時間外労働時間の上限が960時間となりました。私たちは宅急便の配送大丈夫?と心配になりますが、実は日本の物流の中で宅配の割合はたった7%。90%は「企業間輸送(BtoB輸送)」なのです。
著者は実家の仕事を継ぐこととなり、BtoB輸送のトラックドライバーとして仕事をすることになりました。その経験談をライターとして、貧乏暇なしのトラックドライバーの実態を訴えているのです。
トラックドライバーは歩合給なので、年間時間外労働時間の上限は給与の上限が設定されたということになります。ただでもトラックドライバーが不足しているという状況でどうなるのでしょうか。
人手不足をクリアするためには、「労働環境の改善」「運賃の値上げ(給料の保証)」。この2つしかない(p154)
ジャストインタイムを要求される
最初に著者が労働環境の改善として、指摘しているのは、負担を輸送側にばかりしわ寄せする荷主側の問題です。まず、トラックドライバーは、「4時間走ったら30分休まなければならない」という制約があるのに、工場側はジャストインタイムで配送時間を指定します。時間調整のために待機するのですが、4時間走ってちょうどいいところに止める場所がないとどうなるのでしょうか。
結局、路駐しか選択肢がなくなり、「停まっても違反(路駐)、停まらなくても違反」になるというわけです。そして、時間どおりに到着したとしても、何時間も待たされることがあるという。さらに、夏場で年熱中症で死者が出ていても、排ガス対策でドライバーにアイドリングストップを指示する荷主さえいるのです。
私の工場の近くには、毎度平気で4時間待たせる得意先があった(p6)
段ボールが傷ついたら返品
また、著者は車上渡しの契約なのに、ドライバーが、検品や仕分け、棚入れから陳列までを当たり前のように無償で行うことが常態化していると言っています。本当なのでしょうか?もちろん「置き渡し」の契約であれば、トラックドライバーが荷主の指示で荷物を手でひとつひとつ積み下ろししなくてはならないわけです。
また、びっくりしたのは段ボールにちょっと傷がついたり、凹んだりした場合、返品するコンビニやスーパーが存在するということです。返品された商品は、会社によってはドライバーが自己負担させられる場合があるというのですから驚きです。通販のコメント欄に包装の汚れや破損をクレームする神経質な人がいますが、日本では上場企業でさえそんなレベルなのでしょうか。
ほんの少し段ボールに傷がついたり、荷物を縛り固定するために使ったラッシュベルトの跡がついたりしただけで、商品を返品させられるケースがある・・スーパーやコンビニ(p60)
ドライバーには歯がない人が多い
長距離ドライバーの仕事は、1週間、2週間と家に帰れず車内で過ごす過酷な仕事です。また、歩合給なので「通院」が難しく、トラックドライバーには歯がない人が多いという。さらに、トラックの事故だと、どう見ても過失割合がほとんどないにもかかわらず、実名報道され社会的に抹殺されるリスクもあるという事実に同情してしまいました。
高速道路をのろのろ走るトラックも、実は速度抑制装置(リミッター)で時速90キロしか出ないというのも初めて知りました。トラック業界の闇は深いのです。橋本さん、良い本をありがとうございました。
無料メルマガ「1分間書評!『一日一冊:人生の智恵』」(独自配信) 3万人が読んでいる定番書評メルマガ(独自配信)です。「空メール購読」ボタンから空メールを送信してください。「空メール」がうまくいかない人は、「こちら」から登録してください。 |
この本で私が共感した名言
・トラックドライバーは、前方に不測の事態が起きた時、「前への衝突」と、「後ろからの荷崩れ」のとちらかを一瞬のうちに天秤にかける(p29)
・ドライバーは「深夜割引の適用」を指示されたりしていることも多く、なかにはたとえ夕方頃に出口付近に到着していても、0時まで高速を降りられない人もいる(p72)
・トラックドライバーがペットボトルに用を足す最大の原因は、利用できるトイレが極端に少ないこと(p84)
【私の評価】★★★★☆(85点)
目次
第1章 トラックドライバーの仕事と日常
第2章 根付く"理不尽"
第3章 ドライバーの社会的地位
第4章 コロナ禍のドライバー
第5章 2024年問題
第6章 それでもドライバーをやめない理由
著者経歴
橋本 愛喜(はしもと あいき)・・・ライター。大阪府出身。父親が経営する工場でトラックドライバーとして日本各地を走る。日本語教師などを経て渡米。現在は日本の社会問題、ブルーカラーの労働問題を主軸として幅広いメディアで取材/執筆を行う。
この記事が参考になったと思った方は、クリックをお願いいたします。
↓ ↓ ↓
この記事が気に入ったらいいね!
コメントする