「空港は誰が動かしているのか」轟木 一博
2024/02/05公開 更新本のソムリエ [PR]
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【私の評価】★★★★☆(86点)
要約と感想レビュー
関西国際空港への補助金は年90億円
1月2日に羽田空港で起きたJAL機と海上保安庁航空機の衝突事故を見て、空港の運営はどうなっているのか調べてみました。本書は関西国際空港と伊丹空港の滑走路等と空港ビルの運営権を民間企業に与えるコンセッションの経緯を、運輸省から出向して推進していた著者が説明したものです。もちろんコンセッション後も航空機の管制は、国の所掌のままです。
当時、関西国際空港は資産が約6000億円、負債が約1.3兆円で債務超過状態でした。営業キャッシュフローが600億円くらいで、毎年政府補助金が90億円支給されていたので実質赤字経営で、経営破綻していたのです。
こうなった原因は、関西国際空港は国が3分の2を出資し、他は周辺の自治体や民間企業・個人などが出資する第三セクターであったことを著者は指摘してます。つまり、社長や役員が民間から来ているものの、「負債は国が責任を持って処理しろ」と主張するなど、質の高い経営者が不在だったのです。
誰も空港を経営していない・・・国には、個々の空港の路線誘致や利用促進などの営業活動する機能はない。料金設定なども全国一律(p43)
経営者不在の日本の空港運営
さらに第三セクターには天下りの役人もいるため、お役所の悪い慣習が蔓延していたという。例えば、予算は一律査定されるので、とりあえず必要そうなものまで要求しておくし、過去の実績で査定されるので予算はとにかく使いきろうとするのです。
また、お役所組織は縦割りで、自分の業務だけ考えて、全体最適になるか、会社全体の収益性を把握していないという。例えば、設備投資は技術部門に任せきりで、コストを把握していないし、その運用上の工夫で発着枠が拡大し、いくら利益増となるかといった全体最適の発想が足りないというのです。
公共性が高い空港ならではですが、テナントが採算が取れず撤退しようとすると、「その施設は公共性が高いので、空港の責任で維持し、契約にあった違約金は免除して施設を引き取りたい」といった議論が普通に出てくるのだという。公共性があるから、採算は二の次ということなのです。
このように運営と採算に責任を持つ人がおらず、公共性の名のもとに、赤字を垂れ流してきたのが関西国際空港だったのです。稲盛和夫さんが破綻したJALでやったことは、路線別に採算を出し、責任者を任命して、責任と権限を明確にしたことから、こうした課題が見えていたのでしょう。
採算性を厳格に確認する文化が十分ではない(p74)
関西エアポートは100%民間会社
最終的に関西国際空港と伊丹空港は統合され、2016年から44年間、オリックス、ヴァンシ・エアポートコンソーシアムの民間運営に移行しました。第三セクターである関西国際空港には税制特例や金利の低減などの負担軽減措置がありましたが、100%民間会社となった「関西エアポート」は補助金なしで運営していくのです。これまでの借金は、「関西エアポート」から受け取る運営権で返済されます。
「官僚は人間のクズである」と言った人がいましたが、いかに官僚的な組織がダメなのかわかったような気がしました。普通の人まで、官僚組織に染まるとダメになってしまうのです。コンセッションを成立させるために著者は尽力していましたが、反対派の人たちは、コンセッションが注目を浴びているときは静かにしていて、具体的な話になると何かと論点を見つけて「例外」「方針変更」「柔軟運用」といった提案を出しきたという。これもお役所のテクニックなのでしょう。
44年は長すぎるのか・・海外の投資家を中心に、40年以下の事業ならばやらないという意見が圧倒的だった(p184)
引き継ぎの習熟期間はなし
第三セクターには官僚の出向者がいるのですが、100%民間企業になると国家公務員は出向できません。コンセッションの契約では、安全確保に支障が出る業務を担当する人は、習熟のための経過措置として引き継ぎ期間を設定していたにもかかわらず、事業継承時点で官僚はすべて引き上げてしまったという。その理由は、「隠れ天下り批判が生じる恐れがある」というものでした。
天下りできない企業に対しては冷たく、自己の保身だけ考え、安全も契約も大切にしない官僚組織は本当に人間のクズだと感じました。空港の運営については、面白そうなので、もう少し調べてみます。轟木さん、良い本をありがとうございました。
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この本で私が共感した名言
・エアラインは、基本的にビジネスクラスなど、高い運賃を支払うビジネス客で儲ける構造になっている(p35)
・国が整備する空港の着陸料などは全国一律・・民間事業であれば・・・料金を下げれが需要喚起できるかを検討・・国の特別会計の大きな財布の中に入っている空港の運営はそのような動きにつながらない(p54)
・エアラインから見て、努力してもしなくても結果が同じになるような支援(例えば赤字額満額の補填)が得られてしまうと、営業努力するインセンティブは失われる(p61)
【私の評価】★★★★☆(86点)
目次
序章 空港は誰が動かしているのか
第1章 空港が成り立つ仕組み
第2章 どうして空港はダメになるのか―作る人、使う人、周りの人
第3章 風に吹かれる民間風経営
第4章 止まった成長エンジンを起動する―関空・伊丹経営統合
第5章 自分でできる改革は自分でやる―空港の課題解決
第6章 空港を"飛ばせる"のは誰か―関空・伊丹コンセッションで見る日本の課題
著者経歴
轟木 一博(とどろき かずひろ)・・・株式会社経営共創基盤マネジャー。1975年生まれ。1998年東京大学法学部卒、同年運輸省(現国土交通省)入省。米サンダーバード大学国際経営学修士(MBA)。在日米軍との調整を通した羽田空港発着容量の拡大や、ソマリア沖海賊対処のための自衛隊派遣法制定などに携わったほか、2010年から航空局及び新関空会社で、経営統合スキームの立案・調整、会社設立・事業移管、経営計画策定・実施、コンセッション契約立案・事業者選定・引き継ぎまで、関空伊丹経営統合及びコンセッションの全プロセスを総括。2016年4月より現職。
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