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「トマト缶の黒い真実」ジャン=バティスト・マレ

2024/01/18公開 更新
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「トマト缶の黒い真実」ジャン=バティスト・マレ


【私の評価】★★★★☆(83点)


要約と感想レビュー

中国産濃縮トマトとイタリア産トマト缶

話は2004年、イタリアのトマト加工メーカーが中国の食品グループ中基(カルキス)に買収されたことにはじまります。カルキスに買収された「ル・カバノン」は地元トマト農家との取引をすべて打ち切り、中国から輸入された濃縮トマトを使って製品を作りはじめたのです。


中国では1990年代に入って、新疆ウイグル自治区でのトマト生産・濃縮トマトの輸出がはじましました。これは、原料のコスト削減を目指すイタリアの食品メーカーの技術と資本協力によって行われたのです。2001年に中国が世界貿易機関(WTO)に加盟すると、イタリアの中国産濃縮トマト輸入は加速されました。実はEUには一時輸入制度があり、中国産濃縮トマトを、水と塩を加えて再加工すれば「イタリア産」商品として輸出できるからです。


中基(カルキス)は濃縮トマトを輸出するだけでしたが、自分で再加工したほうが儲けが大きいとイタリアのトマト加工メーカーを買収したのです。中国産トマトの品質が悪いとは書いていませんが、食品メーカーは安ければどこの国からでも、新疆ウイグル自治区からでも輸入できるのです。そして消費者は、生産地を知ることはないのです。


・グローバル経済において、遠い国から激安価格で輸入されるドラム缶入り濃縮トマトとは、どうがんばっても張り合えない(p28)


アフリカの低品質トマト缶

そして最近では、低品質のトマト缶が流通しているアフリカ市場に直接中国人が参入している状況がレポートされています。アフリカではトマト缶市場の価格競争が激しく、腐ったトマト缶が税関で押収されるなど、低品質のトマト缶のブラックマーケットもあるというのです。


どれだけアフリカのトマト缶市場の価格競争が厳しいかといえば、現在、アフリカで売られているトマトペースト缶には、原材料表記に「トマト、塩」しか書かれていないにもかかわらず、濃縮トマトが50%以上含まれているものはほとんどありません。残りの50%はデンプン、大豆食物繊維やニンジンパウダーが添加されており、そうした低品質のトマト缶を中国の缶詰メーカーから仕入れることができるのです。


実際、国際食品見本市で中国缶詰メーカーの営業マンは「トマトが45%しか入っていないので安いですよ」とか「税関審査が厳しいのでデンプンが5%しか含まれていません」と言いながら、トマト缶を売り込んでいるのです。さすがに品質に厳しい先進国ではないと思いますが、安い製品には必ず理由があるということを知らなくてはならないのでしょう。


・原材料表記には「トマト、塩」しか書かれていない・・うちの缶詰はリーズナブルですよ。濃縮トマトが45%しか入っていませんからね。アフリカの市場ではごく平均的な割合です(p244)


安いのには理由がある

安いトマト缶が流通するアフリカでは、トマト農民が暮らしていけなくなってヨーロッパに不法移民となっているという事例が紹介されています。これは、グローバル化と機械化によるコスト削減の悪影響の一つなのでしょう。トマト缶に使われている加工用トマトは、遺伝子操作により、水分をほとんど含まない、細長い楕円形で、機械で収穫しやすい品種です。加工用トマトは、機械により収穫され、加工工場で洗浄、濃縮、パッケージされ、人件費を含むコストは極限まで低くなっているのです。


そのため機械化できないイタリアでは、不法移民を1キロ当たり1セント強(2円くらい)でトマトを収穫させているという。中国の新疆ウイグル自治区でもウイグル人が1キロ当たり1セントでトマトの収穫をさせられているというので、1キロ当たり1セント強が生かさず殺さずの労働賃金なのです。

 
一時輸入制度によって再加工された中国製濃縮トマトの一部は、輸出されずEU内にも流通しているという説明もありました。そこにはイタリアのマフィアが関連していると、著者はほのめかしています。なぜイタリアが中国の一帯一路構想に乗ったのかわかったような気がしました。中国のマフィアである中国共産党とイタリアのマフィアが協力していたという構図です。マレさん、良い本をありがとうございました。


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この本で私が共感した名言

・イタリアの港で輸入品の審査を厳しくしたら、利用者は減ってしまうでしょう・・管理体制を厳しくした港は競争力を失います(p100)


・イタリアのアグリビジネスのあらゆる分野にマフィアがからんでいる。モッツァレラチーズ、豚肉加工製品など、イタリアの名産品はひとつ残らずマフィアの影響を受けている(p105)


・アフリカ中に出回っており、その名は「ジーノ」・・・実はインドのブランドだ。ワタンマルというインドの大手流通グループが、プライベートブランドとして販売している(p208)


▼引用は、この本からです
「トマト缶の黒い真実」ジャン=バティスト・マレ
ジャン=バティスト・マレ 、太田出版


【私の評価】★★★★☆(83点)


目次

第1章 中国最大のトマト加工会社
第2章 「メイド・イン・チャイナ」のトマトペースト
第3章 伝説化されたアメリカの加工トマト産業
第4章 濃縮トマト輸出トップの会社
第5章 イタリアの巨大トマト加工メーカーのジレンマ
第6章 中国産トマトも「メイド・イン・イタリー」に
第7章 ファシズム政権の政策の象徴、トマト缶
第8章 トマト加工工場の奇妙な光景
第9章 中国の加工トマト産業の暴走――始まりと発展、強制労働
第10章 ハインツの経営合理化とその影響
第11章 加工トマト業界トップ企業、驚異の生産力
第12章 消費者に見えない「原産国」
第13章 天津のトマト缶工場の秘密
第14章 トマト31パーセントに添加物69パーセントのトマト缶
第15章 農薬入りのトマトか、添加物入りのトマト缶か
第16章 アフリカを席巻した中国産トマト
第17章 「アグロマフィア」の象徴、南イタリア産トマト缶
第18章 イタリアの労働者の違法な搾取
第19章 酸化トマト「ブラックインク」をよみがえらせる最新研究



著者経歴

ジャン=バティスト・マレ(Jean-Baptiste Malet)・・・多くの有名誌に寄稿するジャーナリスト。2014年に刊行された第2作 En Amazonie, Infiltre dans le meilleur des monde はアマゾンの配送センターに潜入取材して内部事情を告発した問題作で、フランスでベストセラーとなった。第3作にあたる本書は2017年に刊行されると同時に大きな話題になり、「身近な食材のトマトを通じて読者をグローバル経済の恐怖に陥れる」など各メディアに絶賛された。


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