「物価とは何か」渡辺 努
2023/12/02公開 更新本のソムリエ [PR]
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【私の評価】★★★☆☆(73点)
要約と感想レビュー
日銀のバブル潰し
元日本銀行マンは、物価をどう見ているのかと興味があって読んでみました。驚くのは、1980年代後半のバブル時代にインフレ率は3%程度であったことを不思議に思っていたと回想しているところです。そして、インフレになっていればもっと早くバブルが大きくなることを防げたと言っているのです。
本来、日銀はインフレ率を安定させることが目標であり、株式バブルについてもあそこまで急速にバブルを潰すのではなく、ソフトランディングさせるべきだったのです。バブルが潰されたことで、いかに多くのビジネスマンが苦しんだのか。経済的事情で自殺した人が増えたのか、その深刻さをまったく理解していないかのようなお気楽なコメントに驚くのです。
また、総務省の物価指数の精度が悪く、著者の東大物価指数で見ると1992年には物価はマイナスに転じているのに、総務省の物価指数は1995年にマイナスとなっていることを指摘し、3年間も金融を引き締めすぎたことを指摘しています。この3年間でいかに日本国民が苦しんだのか、理解しているのでしょうか。
・総務省指数の前年比が持続的にマイナスになるのは1995年初です。・・一方、東大指数の前年比は、1992年にはマイナスに突入しています・・当時、東大指数が存在しデフレ突入を早期に検知できていれば、金融緩和の開始はもっと早まったことでしょう(p49)
財務省のインフレ潰し
著者は米国のクリストファー・シムズが1990年代前半から提唱していた「物価水準の財政理論」(Fiscal Theory of the Price Level、縮めてFTPL)の考え方を基本としていることがわかります。この理論は、貨幣の魅力の源泉は税収であり、貨幣は政府の税収により保証されているという考え方です。
したがって、インフレになるのは将来の税収見込みが減ったときです。具体的には減税すると政府が決めたり、戦争をしたり、橋や道路の建設に大きなおカネをつぎ込むことを新たに決めたりしたとき、貨幣の裏付けに使える税収が減り、貨幣の魅力が薄れ、需要も減り、インフレになるということです。
興味深いのは、日本はデフレを克服するために金融緩和を行っていますが、財務省が行ったのは、減税ではなく消費税増税という正反対の選択であり、デフレが続くのは当たり前ということなのです。金融の闇は深いと思いました。渡辺さん、良い本をありがとうございました。
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この本で私が共感した名言
・米国の研究・・年齢が高くなるにつれて購買価格が下がって・・米国のリタイア世代は特売の情報収集に余念がなく、だから安い買い物ができている・・日本のデータ・・50歳を超すと購買価格が上がっているのです(p70)
・景気は気から・・物価についても、上がるにせよ、下がるにせよ、人々の予想次第です(p79)
・米国は1980年のはじめには15%に達する高いインフレに苦しんでいました。当時、FEDの議長を務めたポール・ボルガーは、金利を11%から20%まで引き上げるなど、思い切った引き締めを行い、1983年にはインフレ率を3%にまで引き下げることに成功します・・・10%を超える高失業率という大きな犠牲の下で実現したものです(p195)
・価格が硬直的であるからこそ、貨幣量の増加で失業率が改善するのです(p215)
【私の評価】★★★☆☆(73点)
目次
第1章 物価から何がわかるのか
第2章 何が物価を動かすのか
第3章 物価は制御できるのか――進化する理論、変化する政策
第4章 なぜデフレから抜け出せないのか――動かぬ物価の謎
第5章 物価理論はどうなっていくのか――インフレもデフレもない社会を目指して
著者経歴
渡辺 努(わたなべ つとむ)・・・1959年生まれ。東京大学経済学部卒業。日本銀行勤務、一橋大学経済研究所教授等を経て、現在、東京大学大学院経済学研究科教授。株式会社ナウキャスト創業者・技術顧問。ハーバード大学Ph.D. 専攻は、マクロ経済学、国際金融、企業金融。
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