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「君たちはどう生きるか」吉野源三郎

2023/08/28公開 更新
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「君たちはどう生きるか」吉野源三郎


【私の評価】★★★★☆(80点)


要約と感想レビュー

物事の本質を見抜き判断・解釈すること

宮崎駿監督の「君たちはどう生きるか」を観てきたので、読んでみました。戦前の1937年に書かれた本です。関東大震災が1923年、満州事変が1931年、五・一五事件が1932年、二・二六事件が1936年、日中戦争が1937年にはじまり、台湾では国語運動、改姓名、志願兵制度など台湾人の日本人化運動がはじまっています。


この本の中では、15歳のコペル君と叔父さんが、対話をしながら社会で生きていくことについて考えていくものとなっています。


最初にコペル君は、銀座のデパートの屋上から周囲を見回しながら、朝夕に移動する人間は、水の分子みたいなものだね、と叔父さんに語りかけます。叔父さんは、高い視点から人間社会を観察しているコペル君を褒めます。つまり叔父さんは、人間の一人ひとりは個人の損得や感情といった狭い視点で動く人が多いのだけれど、広い視点で物事の本質を見抜き判断・解釈することの大切さを説いているのです。


・損得にかかわることになると、自分を離れて正しく判断してゆくということは、非常にむずかしいこと(p32)


「人類の進歩に貢献」したかどうか

面白いのは、コペル君の友人のお姉さんが、ロシア・オーストリアの連合軍を打ち破ったナポレオンを称賛するエピソードでしょう。当時の人々の勇ましさというか、国家のために命をかけて行動していくことが、称賛される時代であったことがわかります。また、学校の先輩が、小説を読んだり、芝居や映画を見たりする人が増えて、このままでは、質実剛健の気風がやがて滅びてしまうと主張していることにびっくり。質実剛健とは健全なる知性と肉体の両立だと思うのですが、当時は、小説や映画は軟弱という評価だったわけです。


ナポレオンについて叔父さんは、ナポレオンの生涯を解説しつつ、封建制度を打倒して民衆による自由な社会を目指すフランスを自立させたナポレオンの功績を評価しています。その一方、その後、皇帝となったナポレオンが行ったイギリスとの経済封鎖、ロシア遠征の失敗については評価していません。叔父さんは、「人類の進歩に貢献」したかどうかで評価されるべきとしています。つまり著者としては、表面的な勇気や立派なこととは違うもの、人間社会の進歩を大切にしていることがわかります。
 

・ナポレオン・・人間が、ある場合には、どんなこわいことも、苦しいことも、勇ましく乗り越えてゆけるもんだ・・こうゆう精神に貫かれて死んでゆく方が・・ずっと立派なこと(p165)


過去のことは、変えられない

先輩たちがコペル君と仲間たちを生意気として、制裁を加えるとの噂が流れます。コペル君と仲間たちは、殴られるなら一緒に殴られようと約束するのです。ところが実際に先輩たちが仲間を殴っているとき、コペル君は怖くて遠くで見ているだけでした。
 

コペル君は落ち込んでしまいます。自分は卑怯者になってしまったのです。コペル君から相談された叔父さんは「過去のことは、変えられない。いま君のすべきことをするんだ」と仲間たちに手紙で謝ることを助言します。誤りは直せばよい。転んだら立ち上がる。私達は、自分で決定する力をもっているとコペル君に教えるのです。


・いま君のすべきことをするんだ。過去のことは、もう何としても動かすことはできない(p250)


80年前日本人は戦う勇気を見せた

この本が書かれた時代と現代を比較して、勇気や正義といった精神的なところを重視しているところが印象的でした。ただ、そうした傾向は、現代社会にも共通しているところもあるように感じるのです。この本が書かれた時代から80年が経ち、2011年の東日本大震災、2022年のウクライナへのロシア侵攻、中国の南シナ海の領有権宣言と時代が繰り返すとすれば、次に何か来るのだろうかと考えました。80年前日本人は戦う勇気を見せましたが、80年後の私たちは、歴史に何を見せるのでしょうか。


なお、宮崎駿監督の「君たちはどう生きるか」との共通点は見い出せませんでした。あの映画を作ることが、宮崎駿監督の生き方なのでしょう。吉野さん、良い本をありがとうございました。


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この本で私が共感した名言

・水の味がどんなものかということになると、もう、君自身が水をのんでみないかぎり、どうしたって君にわからせることができない(p58)


・人類が何万年の努力を以って積みあげたものは、どれでも、君の勉強次第で自由に取れるのだ(p146)


・人間としての値打ち・・貧しいことに引け目を感じるようなうちは、まだまだ人間としてダメなんだ(p140)


▼引用は、この本からです
「君たちはどう生きるか」吉野源三郎
吉野源三郎、マガジンハウス


【私の評価】★★★★☆(80点)


目次

1 へんな経験
2 勇ましき友
3 ニュートンの林檎と粉ミルク
4 貧しき友
5 ナポレオンと四人の少年
6 雪の日の出来事
7 石段の思い出
8 凱旋
9 水仙の芽とガンダーラの仏像
10 春の朝



著者経歴

吉野源三郎(よしの げんざぶろう)・・・編集者・児童文学者・評論家・翻訳家・反戦運動家・ジャーナリスト。1899(明治32)年~1981(昭和56)年。雑誌『世界』初代編集長。岩波少年文庫の創設にも尽力。


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