【書評】「財務省の「ワル」」岸 宣仁
2023/07/07公開 更新

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【私の評価】★★★☆☆(73点)
要約と感想レビュー
財務省の「ワル」とは?
中学、高校の1年先輩が国税庁長官に就任したので、財務省とはどんなところなのか興味があって読んでみました。財務省は、「我ら富士山、他は波の山」という言葉があるように、官僚組織の中でトップの組織であることに異論はないでしょう。
タイトルの「ワル」とは、財務省が悪いという意味ではなく、財務省の中ではむしろ「できる男」「やり手」といった 一種の尊称として使われてきたというのです。つまり、財務省のワルはにっこり笑って相手を斬ったり、強面(こわもて)ですごんで要求を飲ませるような剛腕の人間が評価されてきたというのです。
そうした風土が表面化したのが、2018年、福田淳一事務次官の新聞記者へのセクハラ報道や、佐川宣寿国税庁長官の公文書改ざんと職員の自殺ではないのか、というのが著者の見立てです。優秀で、結果を出せば何をやっても許される暗黙の了解が財務省にあったというのですが、これからは下品で、素行に問題のある人は弾かれていくのではないかと言われているというのです。
・主計局の主流をほぼ無傷で歩んだ福田も、結果的にワルの文化から抜け出すことができず、セクハラに及んでしまった(p23)
「主計にあらずんば人にあらず」なのか?
先輩は主税局長から国税庁長官となっていますが、国税庁長官は「次官級ポスト」であり、何か事件でもあれば、事務次官の目もあったということなのでしょうか。財務省では「主計にあらずんば人にあらず」と言われるように、事務次官は主計局次長・官房長・主計局長経由のパターンが多いのです。
ただ、主税局長経由で事務次官となった事例として、消費税導入に貢献した尾崎、小川、薄井、佐藤の四人がいるという。つまり、主税局長でも大きな仕事をすれば、事務次官の目はあるということなのです。最近は国税をインターネットで申請できたり、インボイス制度の導入など納税関係での変化が進んでいます。インボイス制度は、益税の解消を目指したものですので、私個人としては賛成です。先輩も良い仕事をしてきたといえるのではないでしょうか。
・消費税引き上げを柱とする社会保障と税の一体改革の推進は、勝栄二郎・香川・佐藤慎一ら三人の元次官による「最高傑作」との評価が省内で高い(p57)
「頭と、心と、腹」で決まる
こうして見ると、財務省のキャリアは毎年20人くらい入省していますから、20人×40年=800人くらいの日本の大企業とあまり変わらない組織だと感じました。つまり、だれもがトップの事務次官になりたいと思いながら仕事をしていると思いますが、だれが事務次官になるかはその時の人事権者が決めるので、本人には伺い知ることはできないのです。
一般的には、センス、バランス感覚、胆力、つまり「頭と、心(ハート)と、腹」で決まるということですが、その時の人事権者の好みにもよるのでしょう。もう少し財務省については調べてみたいと思います。岸さん、良い本をありがとうございました。
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この本で私が共感した名言
・山口光秀元東京証券取引所理事長が「山口ワル秀」、吉野良彦元日本開発銀行総裁が「ワル野ワル彦」などと影で呼ばれ仰ぎ見られてきた(p35)
・ダークホースの矢野康晴(1985)が主税局長から主計局長に横滑りし、太田の後の次官を確実にした・・パワハラ防止のために「360度人事評価」を導入したのが、官房長時代の矢野であった(p37)
・大物の証しである二年次官(p58)
・主計局には、伝統的に「要求を断ってくるのが我々の仕事」という固定観念があり、とりわけ政治との折衝で予算の計上を回避すると、「よくやった」と局内での評価が高まり、先々の出世に結びつく傾向が強かった(p115)
【私の評価】★★★☆☆(73点)
目次
第1章 ワルの源流
第2章 出世の三条件
第3章 浪人は次官への近道―挫折を知らない集団とは本当か?
第4章 灘・麻布出身者がトップになれない理由
第5章 コロナ禍で本質を問われる財政再建論
第6章 「黒田バズーカ」の光と影
第7章 財務省の理系迫害
第8章 辞め急ぐ財務官僚
著者経歴
岸 宣仁(きし のぶひと)・・・1949(昭和24)年、埼玉県生まれ。ジャーナリスト。東京外国語大学卒。読売新聞経済部で大蔵省や日銀などを担当。財務省のパワハラ上司を相撲の番付風に並べた「恐竜番付」を発表したことで知られる。『税の攻防―大蔵官僚 四半世紀の戦争』『財務官僚の出世と人事』『同期の人脈研究』など著書多数。
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