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「あなたが世界のためにできる たったひとつのこと 〈効果的な利他主義〉のすすめ」ピーター・シンガー

2023/04/19公開 更新
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「あなたが世界のためにできる たったひとつのこと 〈効果的な利他主義〉のすすめ」ピーター・シンガー


【私の評価】★★★★☆(87点)


要約と感想レビュー

なぜ寄付するのか

著者はプリンストン大学教授であり、倫理、功利主義の視点で、効果的な寄付はどうあるべきか提案しています。先日、「ハリー王子とメーガン夫人の慈善団体への寄付の9割が運営費に消えた」という記事を見ていたので、偶然の巡り合わせにビックリしつつ、欧米人にとっては、寄付するかどうかよりも、どこに寄付すればよいのか、というのが重要な問題なのです。


欧米には寄付文化があると言われていますが、アメリカだけで100万の慈善団体が存在し、年間2000億ドル(26兆円)の寄付が行われているという。アメリカでの寄付はGDP比2%くらいなので、日本に当てはめれば10兆円規模となります。日本のふるさと納税が1兆円、消費税1%で2兆円ですから、かなりの規模であることがわかります。


どうしてここまで寄付するのかといえば、世界を良くするために貢献していることが感じられるからだという。つまり、アイスを食べているときに、「貧しい母親が子供にワクチンを必要とするほどに、私にとってこのアイスが必要なのだろうか?」と自分の選択に納得できるのかどうかということです。


ちなみに著者は収入の三分の一を寄付に回し、いつかはそれを半分まで増やすことを目標にしているという。低い所得なら低い割合を寄付し、高所得者は高い割合を寄付すべきと主張しています。


・寄付をすることで・・「ほんの少しだけれど、自分が住みたい世界を作ることに貢献している」と感じられる(p51)


どこに寄付すべきか

欧米のように寄付する先が多いと、どこに寄付すべきかということが大きな問題となります。著者の提案は、同じリソース(お金、労力)で最大の成果を出せる慈善事業に寄付することです。この本で紹介しているのは、「ギブウェル」という費用対効果の大きい慈善団体を推奨する組織です。この「ギブウェル」が推奨した団体「ギブダイレクトリー」では、寄付のランダム比較試験を行っているという。


ランダム比較試験とは、女子が学校で勉強できるようにするプログラムでは1現金を送る、2学校に行くことを条件に現金を送る、3奨学金を与える、4回虫駆除を行う、5教育を受けると賃金が上がると両親に教えるをすべてやってみて効果を測定するのです。結果は、5番の「教育を受けると賃金が上がると両親に教える」が一番効果が高く、4番の「回虫駆除を行う」が2番めだったのです。意外な結果ですが、やってみなければわからないというのが、寄付の効果なのでしょう。


日本でも「米百俵」の逸話があるように何にお金をかけるのかは難しい問題です。貧しい人に牛をあげるか現金をあげるかを比較し、説明できなければならないのです。


・10万ドルで1000人の失明を予防できる・・では同じ金額で飢えている人を何人救うことができるのかを知る必要があります(p164)


寄付しよう

なぜ欧米に寄付文化があるのか、この本だけでは、よくわかりませんでした。私の仮説は、欧米ではキリスト教などで収入の一定割合を教会に寄付するということが行われてきましたので、寄付という行為が当たり前のことになっているのではないか、という考え方です。


また、成果についてエビデンスと数字で考えようとする姿勢にも感銘を受けました。同じ寄付をするのであれば、最大の成果を出すところに寄付するべきなのです。ただ、失明に至る病気を減らす事業にお金を寄付するのか、美術館建設に寄付するのか問われても比較できないように答えのないものもあります。だからこそ、正しい寄付先を考えることが大切なのでしょう。


私はユニセフのマンスリーサポートプログラムに寄付していますが、もう少し寄付を増やしたいと思います。シンガーさん、良い本をありがとうございました。


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この本で私が共感した名言

・フロリダの子供基金という小さな組織は、収入の84%を寄付集めに使い、10%近くを管理費としているので、慈善活動にかける資金はたった6.1%(p188)


・貧困を撲滅しようとしても、エビデンスがなければ中世の医師がヒルで病気を治そうとするのと変わらない(p27)


・寄付を頼まれると・・「このお金をあなたにあげることもできるけれど、ほかのことに寄付すればこれだけの多くの命を救うことができる。さあ、どうすればいいと思うかね?」(p58)


▼引用は、この本からです
「あなたが世界のためにできる たったひとつのこと 〈効果的な利他主義〉のすすめ」ピーター・シンガー
ピーター・シンガー, NHK出版


【私の評価】★★★★☆(87点)


目次

Part1 効果的な利他主義のすすめ
 第1章 効果的な利他主義とは?
 第2章 ムーブメントが起きている
Part2 〈いちばんたくさんのいいこと〉をする
 第3章 質素に暮らす
 第4章 お金を稼いで世界を変える
 第5章 そのほかの倫理的なキャリア
 第6章 身体の一部を提供する
Part3 彼らを動かしているもの
 第7章 愛がすべて?
 第8章 理性の力
 第9章 利他主義と幸福
Part4 チャリティを選ぶ
 第10章 国内、それとも海外?
 第11章 いちばん大きなインパクトを与える
 第12章 比較が難しいもの
 第13章 動物を救い、自然を守る
 第14章 いちばん効果のあるチャリティ
 第15章 人類の滅亡を防ぐ



著者経歴

ピーター・シンガー( Peter Singer)・・・1946年生まれ、オーストラリア出身の哲学者、倫理学者。モナシュ大学教授を経て、現在、プリンストン大学教授。専門は応用倫理学。功利主義の立場から、倫理の問題を探求している。著書『動物の解放』は、動物の権利やベジタリアニズムの思想的根拠として広く活用されている。ザ・ニューヨーカー誌によって「最も影響力のある現代の哲学者」と呼ばれ、タイム誌によって「世界の最も影響力のある100人」の一人に選ばれている。


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