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「中国の歴史認識はどう作られたのか」ワン・ジョン

2023/02/16公開 更新
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「中国の歴史認識はどう作られたのか」ワン・ジョン


【私の評価】★★★☆☆(78点)


要約と感想レビュー

国民の不満を反日教育で日本に向ける

中国出身の米国大学の准教授である著者が、中国の実態についてどのように教えているのか見てみましょう。中国では外国勢力から侵略を受けた19世紀前半から第二次世界大戦終結までの約100年を「国恥の一世紀」としているという。中国人は、自分たちは世界の中心の聖なる土地に暮らす選ばれた民だと信じていたのですから、ショックを受けたのです。


ただ、第二次世界大戦後は、国民党と共産党の内戦や毛沢東の文化大革命などの混乱によって「国恥の一世紀」を考える余裕はなかったというのが実情でした。そもそも毛沢東と中国共産党は、日本が蒋介石の国民党と戦っている間に力を蓄えることができたこともあり、日本軍に感謝の念さえ抱いていたのです。


しかし、中国では1989年の天安門事件後、江沢民によって愛国主義教育キャンペーンが開始されました。天安門事件による中国共産党への国民の不満を、中国を侵略した西洋列強や日本に向けようと考えたのです。


天安門事件後、間もなく開始された愛国主義教育キャンペーン・・・西洋列強や日本の侵略によって中国が被った屈辱的な体験について教育すること(p143)

南京大虐殺記念館や抗日戦争映画を捏造

驚くべきことは、米国の大学教授である著者でさえ、南京大虐殺で「殺害競争」「最低でも2万人の女性が強姦されたと、日本の少なくとも二紙の新聞が報じた」と書いていることです。「百人切り競争」東京日日新聞が報じていますが、非戦闘員を殺すのは犯罪ですが、戦闘員を殺すのは犯罪ではありません。そもそも日本軍が組織的に女性を強姦するという報道があったことを私は読んだことがありません。


中国やロシアや韓国では非戦闘員を殺したり、女性をレイプすることが当然なので不自然に思わないのかもしれませんが、日本人であれば規律の厳しい軍隊において意識的に非戦闘員を殺傷したり、女性をレイプしようとすることが許されるとはとても考えられないことで、信憑性が薄いと直感的にわかるのです。しかし現実には、中国では10億人を超える国民に対して国家として愛国主義教育キャンペーンや年間行事や南京大虐殺などの記念館やマスコミ、抗日戦争映画などのプロパガンダによって過去の恨みが教え込まれているのです。


日本の兵士たちは南京の中国人市民を暴行し、殺害し、市街を略奪した・・・「殺害競争」を行い、また最低でも2万人の女性が強姦されたと、日本の少なくとも二紙の新聞が報じた(p52)

強くなって弱い者を殴ろう

興味深かったのは、「立ち遅れれば殴られる」という中国の政治的スローガンです。弱い者は強い者に殴られる。だから強くなって弱い者を殴ろうというのが中国の考え方なのです。確かに明治維新後の日本は、富国強兵で強くなって西欧列強と同じことをしようと努力してきました。「立ち遅れれば殴られる」という思いから殴る側に立つことにしたわけです。


しかし、今の日本人であれば、強いものが弱いものを殴るのを見て、よくないことだと思えば、自分が強くなったら弱いものを殴るのをやめようと思うのではないでしょうか。中国も一度殴る側になって、痛い目に合わないと変わらないのかもしれません。ワンさん、良い本をありがとうございました。


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この本で私が共感した名言

・唐代から清代に至る歴代王朝の支配者たちは、領土を拡張して世界に冠たる大陸帝国を築くために、無数の軍事行動を起こしてきた(p36)


・中国の映画人たちは抗日戦争、アヘン戦争、朝鮮戦争などの歴史に関する数々の映画を製作してきた・・しばしば政府の資金援助によって製作(p161)


・中国の人たちは独裁主義的な政治文化の中に暮らしているだけに、あらゆるものの裏にはその国の政府の意図があると自然に考えてしまう(p227)


・中国政府の核心的な「神話」と支配の正当性は、「国民の体面」を保つことができるかどうかに著しく左右される。そのため、ある事件が外国の威嚇的行為や侮辱的行為と見られる場合、政府が強気の対応をせざるを得ない(p279)


▼引用は、この本からです
「中国の歴史認識はどう作られたのか」ワン・ジョン
ワン・ジョン、東洋経済新報社


【私の評価】★★★☆☆(78点)


目次

序章 「戦車男」から愛国主義者へ 
第1章 選び取られた栄光、選び取られたトラウマ
第2章 歴史的記憶、アイデンティティ、政治
第3章 「中華帝国」から国民国家へ――国恥と国家建設
第4章 勝者から敗者へ――愛国主義教育キャンペーン 
第5章 「革命の前衛組織」から愛国主義の政党へ――中国共産党の再構築
第6章 震災からオリンピックへ――新たなトラウマ、新たな栄光 
第7章 記憶、危機、外交
第8章 記憶、教科書、そして中国と日本の和解 
第9章 記憶、愛国主義、そして中国の台頭



著者経歴

汪 錚(ワン ジョン)(Wang Zheng) ・・・シートンホール大学ジョン・C・ホワイトヘッド外交国際関係大学院准教授。中国雲南省昆明出身。アメリカのシートンホール大学ジョン・C・ホワイトヘッド外交国際関係大学院准教授。北京大学大学院修了後、アメリカのジョージ・メイソン大学にて博士号を取得。大学で教鞭をとると同時に、全米米中関係委員会委員などとして米中関係、東アジアの国際関係などを幅広く研究し、論じている。1990年代には中国の政府系シンクタンクで国際関係論、平和論、安全保障問題などを研究したこともある。


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