「実践!交渉学 いかに合意形成を図るか」松浦 正浩
2023/02/15公開 更新本のソムリエ [PR]
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【私の評価】★★★☆☆(77点)
要約と感想レビュー
交渉は自分のBATNA(不調時代替案)から
マサチューセッツ工科大学で交渉学を学んだ著者に、交渉学を教えてもらいましょう。交渉学とは、ビジネスや国家における交渉のフレームワークで分析しようとするものです。まず交渉前に準備するべきものは、自分のBATNA(不調時代替案)です。BATNAバトナとは、交渉が決裂したときの対処策として最も良いものです。Bプランのようなものでしょうか。
例えば、パソコンを買うために、近所の電気屋さんでパソコンについて説明を受けているとしましょう。もし、BATNAがなければ、その場で買うのか、買わないのか判断するとしても基準がなく迷ってしまうでしょう。もし、事前にネットでパソコンの相場を調べて同じような性能のパソコンが10万円で買えることを知っていれば、10万円を目標に価格交渉すればよいことになり、比較的余裕を持って交渉できるのです。
交渉を始める前に、自分のBATNA(不調時代替案)を知る(p52)
他の条件や相手の利害を知る
交渉においては、お互いのBATNA(不調時代替案)を探り合うことになります。ところが、お互いのBATNAが価格のような定量的なものの場合、重なる部分がないと交渉が成立する可能性は最初からゼロとなってしまいます。
そこで考えるべきは、相手のBATNAだけでなく、他の条件や相手の利害を知ることです。実はパソコンがほしいのではなく、パソコンでネット動画を見たいのかもしれない。そうであれば、ネット光回線とセットにすれば割引するという提案ができるかもしれないのです。
このようにパソコンを買う・買わないの交渉では、お互いがパソコンを買う目的を理解できれば、二人とも満足できる解決策を見つけることができるかもしれないのです。つまり交渉においては、複数の条件を組み込んだ「パッケージ」で話し合うことが有効です。パソコンを安くしろ、値下げできないという立場に基づく対立から、パソコンで何が得られるのかといった利害に着目した合意を目指すのです。
「もし・・だったら、どうですか?」という聞き方で、相手の利害を満足しそうな条件を提示してみる(p77)
相手も幸せにするのが交渉
交渉とは、自分が幸せになるだけでなく、交渉相手も幸せにならなくてはならない。片方が不幸になる交渉は失敗である、と著者は言っています。
しかし、現実社会ではロシアのウクライナ侵攻のように、「相手に負けたくない!」という執念が、結局、自分も相手も敗者にしてしまうケースが普通に存在するのです。戦争を止めることが相互にとってWIN-WINとわかっていても止められないのが戦争なのです。著者は交渉学の限界も語っており、そうした限界を知りつつ、WIN-WINを目指して交渉するしかないのでしょう。
松浦さん、良い本をありがとうございました。
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この本で私が共感した名言
・複数の物件を見て品定めして、比較しながら物件を決める・・無意識に行ってきた「BATNA探し」(p58)
・情報量の非対称性・・・情報量の多いほうが得をしたり、騙したりする可能性(p23)
・人間は、自分に都合のよいことだけ「正しい」と思い込みがち(p24)
【私の評価】★★★☆☆(77点)
目次
第1章 交渉とは何か
第2章 交渉のための実践的方法論
第3章 社会的責任のある交渉の進め方―Win/Win関係の落とし穴
第4章 一対一から多者間交渉へ―ステークホルダー論
第5章 社会的な合意形成とは
第6章 交渉による社会的合意形成の課題―マスコミと科学技術
第7章 交渉学についてのQ&A
著者経歴
松浦正浩(まつうら まさひろ)・・・1974年生まれ。東京大学工学部土木学科卒。マサチューセッツ工科大学都市計画学科修士課程修了(1998年)、三菱総合研究所研究員(1998‐2002年)、マサチューセッツ工科大学都市計画学科博士課程修了(2006年)を経て、東京大学公共政策大学院特任准教授。
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