「世界は細菌にあふれ、人は細菌によって生かされる」エド・ヨン
2023/02/17公開 更新本のソムリエ [PR]
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【私の評価】★★★★☆(82点)
要約と感想レビュー
清潔が病気の原因になることがある
この本では科学ジャーナリストから、私たちの周りの微生物との共生の現状について教えてもらいましょう。私たちの生活は、マスク、うがい手洗いで菌やウイルスを排除することで、「清潔」な環境を作ろうとしています。さらに最近では除菌、抗菌、殺菌といった製品が多数販売されており、私たちの生活環境は菌やウイルスのいない砂漠のような状況になりつつあるという。
また、抗生物質の使用によって体内の微生物はほとんど死滅してしまいます。そうした微生物は時間とともに回復しますが、完全に元に戻らないことで病気を発生させることもあるのです。私たちは清潔によって健康を維持できるという固定観念を持っていますが、あまりに進みすぎた清潔は、逆に病気を発生させる可能性もあるのです。
無害な菌がいれば病原菌の成長を妨げるのに、そうした細菌を除去したことで、おそらく、もっと危険な生態系を意図せず構築してしまっている(p377)
アレルギーの原因は清潔な環境
現代社会でアレルギー体質の人が増えているのは、過剰にまで清潔な環境にあるという「衛生仮説」が注目されています。つまり、子どものころに非衛生的な環境で感染症にかかることで、アレルギー性疾患が予防できるのではないか、ということです。
例えば、母乳を飲んでいる乳児の糞便のほうが、ビフィズス菌が多く含まれるとわかっています。また、帝王切開で生まれた赤ちゃんにアレルギーや喘息を発症する可能性が高い理由として母親の膣の微生物を赤ちゃんが取り込めなかったことを理由と考えている人もいるのです。
面白いところでは、「便器生物移植」といってどのような薬や抗生物質でも下痢が止まらない患者が、夫が便サンプルを腸内に注入することで、その日のうちに治ってしまうことがあるという。このように微生物をすべて殺してしまうのではなく、多くの微生物のバランスの中で、できるだけ良いバランスを目指すという考え方が必要なのでしょう。
ピロリ菌は、胃潰瘍や胃癌の原因んあるが、食道がんから胃を守る働きもある(p120)
腸内微生物が肥満を決める
面白いのは、肥満の人は痩せた人とは腸内微生物が異なるということでしょう。腸内微生物が人の脂肪の蓄積に影響を与える可能性があるのです。また、腸内微生物がその人の性格にまで影響を与えていると考えている学者もいるのです。近年、遺伝子レベルでの分析によって微生物の研究が加速しており、将来、移植用の痩せる人のサンプル便が販売されるようになるかもしれません。
野生生物がいかに微生物を活用して生活しているかの情報もいっぱいで読み切るのに苦労しました。極端なきれい好きの人には、ぜひこの本を読んでいただき微生物の多い自然の中に飛び出していただきたいものです。ヨンさん、良い本をありがとうございました。
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この本で私が共感した名言
・フグは、細菌を使ってテトロドトキシンを作る。これは非常に毒性の高い致死的物質(p21)
・1977年にウーズは・・メタン菌をアーキア細菌として分類・・のちにアーキア(すなわち、古細菌)という簡単な名前に変えた(p63)
・ウシやゾウ、パンダ、ゴリラ、ネズミ、ウサギ、イヌ、イグアナ、モンシデムシ、ゴキブリ、ハエなど、多くの身近な動物たちは、仲間の糞便をいつも食べ合っている(p223)
【私の評価】★★★★☆(82点)
目次
まえがき 動物園への旅
第1章 生きている島々
第2章 見たいと思った人々
第3章 体を造るものたち
第4章 諸条件が適用される
第5章 病めるときも健やかなるときも
第6章 長いワルツ
第7章 お互いの成功を保証しあう
第8章 大きな進化は速いテンポで
第9章 微生物アラカルト
第10章 微生物研究の未来
著者経歴
エド・ヨン(Ed Yong)・・・サイエンスライター。アトランティック誌のスタッフライター。ブログの「Not Exactly Rocket Science」は、ナショナル・ジオグラフィックが運営している。ニューヨーカー、ワイアード、ニューヨークタイムズ、ネイチャー、BBC、ニューサイエンティスト、サイエンティフィック・アメリカン、ガーディアン、タイムズなどにも寄稿している。ロンドンとワシントンDCに在住
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