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「酔っぱらいが変えた世界史:アレクサンドロス大王からエリツィンまで」ブノワ・フランクバルム

2023/02/03公開 更新
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「酔っぱらいが変えた世界史:アレクサンドロス大王からエリツィンまで」ブノワ・フランクバルム


【私の評価】★★★☆☆(74点)


要約と感想レビュー

 ロシアのウクライナへ侵攻でもロシア兵は酔っ払って、強奪や暴行を行っているようですが、これは昔からのようです。日露戦争のとき、ロシアの旅順要塞ではシベリア鉄道で運ばれたウォッカの樽が大量に積み上げられていたという。最近ではロシアのチェチェン侵攻でも、ロシア軍の兵士の中には武器や弾薬を酒と交換する輩もいたようです。


 ロシアでは参加者全員の健康を祈ってウォッカで乾杯します。日ソ中立条約締結時も、松岡外相はスターリンにウォッカを飲まされ悪酔いし、帰りの列車までかついで運ばれたという。スターリンは敵も同士もひっくるめて酔っ払わせ、本音を引き出すのが得意だったというのです。ウォッカは相手の本音を引き出す、自白剤のようなものなのでしょう。


・ソ連外相モロトフが両国外交団全員の健康を祈ってをすることを提案した・・ひそかにスターリンのボトルの中身を試飲してみたのだ。それはただの水だった(p163)


 特に欧米人はアルコールに対する耐性が強いためか、日本人よりも飲酒のエピソードが多いように感じました。特にアメリカは18世紀の頃から、酔っぱらいだらけの土地といわれていたのです。


 独立のきっかけとなったボストン茶会事件も、よっぱらった先住民に変装した植民地人が、酔いにまかせてお茶を海に捨ててしまったことで大問題となるのです。リンカーン大統領が暗殺されたとき、警護官は酒場に飲みに出かけていました。リンカーン大統領がシークレットサービスを創設したのですから、警護官に問題があることに気づいていたのです。


・リチャード・ニクソン・・1972年、大統領は酩酊状態でヘンリー・キッシンジャーと北ベトナム情勢について話しあっている。「彼らに核爆弾をおみまいするべきだと思う」「うーん、それはやりすぎではありませんか、大統領」(p191)


 アメリカでは禁酒法という時代もありましたが、飲酒の悪い面に目を向けて禁止するよりも、飲酒をコントロールしていくことが現実的な対応なのでしょう。人は酒を飲みながら生きてきましたので、酒の良い面も、悪い面とも付き合っていかなくてはならないのだと思いました。


 ただ、実際には酒の飲み過ぎで記憶をなくす人や人が変わってしまう人がいるので、そうした人が責任ある地位に立つと問題は大きいのです。フランクバルムさん、良い本をありがとうございました。


この本で私が共感した名言

・ガリア人はワインに夢中となり・・カエサルによる征服後は、ローマ市民権をもつ者だけがガリアでブドウを栽培する権利を享受した・・ガリア人はほぼフランス人となり、マッサリアはマルセイユとよばれるようになる(p38)


・チャールズ二世(在位1660-1685)・・死からわずか三年後に、今日まで続く立憲君主制を採用した・・この新体制の誕生を許したのは、酒が大好きだったチャールズ二世の放任と寛容であった(p72)


・カール・マルクス・・・夜遅くまで煙草と酒を片手に本を読みあさり研究する・・エンゲルスがマルクスと酒臭い息をはきながらユニークな親交を深めなかったとしたら、勤労者福祉の進歩は・・つまずいたことだろう(p117)


▼引用は、この本からです
「酔っぱらいが変えた世界史:アレクサンドロス大王からエリツィンまで」ブノワ・フランクバルム
ブノワ・フランクバルム、原書房


【私の評価】★★★☆☆(74点)


目次

第1章 アフリカ 1000万年前──ホモ・ノンベエラスに遺伝子変異が起きた
第2章 中近東 前8000年──「パンじゃなく、とりあえずビール」
第3章 エジプト 前2600-1300年──神泡の立つピラミッド
第4章 バビロニア(メソポタミア) 前323年──アレクサンドロス大王、32歳で深酒により落命
第5章 マルセイユ 前6-前1世紀──ワインがマルセイユに繁栄をもたらす
第6章 バルフルール灘(ドーヴァー海峡) 1120年11月25日──酩酊した船長がイングランド王位継承戦争をひき起こす
第7章 シゼの森(ポワトゥー地方) 1373年3月21日──美味しいソミュール産ワインが百年戦争に転機をもたらす
第8章 パリ(フランス) 1393年1月28日──王弟オルレアン公、「燃える人の舞踏会」を燃やす
第9章 イスタンブール(オスマン帝国) 1574年12月12日──酔漢セリム二世に浴室が死をもたらす
第10章 イングランド 1660-1685年──チャールズ二世、グラスを片手に、立憲君主制の礎を築く
第11章 ボストン(北アメリカ) 1773年12月16日から17日にかけての夜──アメリカ独立戦争はラム酒のおかげ
第12章 パリ(フランス) 1789年7月10-13日──フランス革命はワインによってひき起こされた
第13章 パリ(フランス) 1844年8月28日──マルクス主義は、10日間続いた酒盛りの結実だった!
第14章 ワシントン、フォード劇場(アメリカ) 1865年4月14日──リンカンが暗殺されるというときに、大統領のボディガードは酒場で深酒をしていた
第15章 フランクフルト(ドイツ) 1871年5月9日──コニャックですっかりできあがってしまったビスマルク、フランス占領からの撤退を承諾
第16章 旅順(満州) 1905年1月5日──1万ケースのウォッカのおかげで、日本がロシアに苦杯をなめさせる
第17章 フランス北東部の塹壕 1914-1918年──フランスのワイン対ドイツのシュナップス=1: 0
第18章 ソヴィエト連邦 1922-1953年──ウォッカはスターリン外交のバロメーター
第19章 テキサス州フォートワース 1963年11月22日──午前3時、JFK警護官が二日酔い
第20章 ワシントンDC(アメリカ) 1973年10月24日-25日夜──核危機渦中で泥酔するニクソン
第21章 モズドク(ロシア) 1994年12月31日──グロズヌイ攻撃は、ウォッカで大晦日を祝う宴席で決定された



著者経歴

 ブノワ・フランクバルム(Benoit Franquebalme)・・・ジャーナリスト。1997年に「ラ・プロヴァンス」紙でデビュー。2000年、パリ実践ジャーナリズム学院で学位を取得。2004年からはさまざまな雑誌を活躍の舞台としている。


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