「室町は今日もハードボイルド 日本中世のアナーキーな世界」清水 克行
2023/01/31公開 更新本のソムリエ [PR]
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【私の評価】★★★★☆(85点)
要約と感想レビュー
僧侶や農民が刀を持ち歩いていた
この本では日本の中世、特に武士が活躍した室町時代の常識が、現代社会とどれだけ違うのか説明してくれます。当時は武士だけでなく僧侶や農民が、刀を持ち歩いていました。そして、いざグループ間に対立があれば、寺院や村をあげて集団で戦ったのです。
また武士の家には、100人くらいの下人がおり、下人が家事や田畑の耕作に従事していました。当時下人は、奴隷のように財産として売買されていたのです。旅に出れば、海賊や山賊がいて、彼らのナワバリを通過するときには通行料を支払う必要があったという。
鎌倉後期・・武士が、財産を子供たちに相続させるために作成した財産目録・・彼の所有していた下人は、なんと95人にものぼる(p108)
盗みはたとえ100円でも死刑
私が最もワイルドだなぁと思ったのは、後妻打ち(うわなりうち)です。夫が妻を捨てて、新しい女性に走ったとき、前妻は友達を大勢呼び集めて、夫を奪った憎い女の家を襲撃して徹底的に破壊、ときには相手の女の命を奪ったというのです。このうわなり打ちは江戸時代にも残っており、事前に使者を立てて襲撃を通告し、武器は木刀や竹刀や棒に限られ、形式的なものとなっていたという。現代社会でいえば、慰謝料請求のようなものでしょうか。
また、盗みについては厳罰となっており、「一銭切」といって、盗みはたとえ銭一枚(現在の100円ていど)でも死刑であったという。実際に、飢饉のときにワラビを盗んだ犯人は、本人のみならず家族全員死刑となった事例もあったというのです。イスラム教の盗みは手を切り落とすよりも恐ろしい刑罰だったのです。
江戸時代・・うわなり打ち・・事前に使者を立てて襲撃を通告する決まりになっており、武器も刃物は使わず、手にする木刀や竹刀や棒に限られていた(p142)
自分を追い込んだ人も自死
興味深かったのは、誰かに恨みを残して自害した者が、その理由を言い残していた場合には、その主人が死んだ当人にかわって、その仇に処罰を加える風潮があったというのです。江戸時代にも「指し腹」といって、恨みを残して切腹した者が使った刀を、その遺族が仇の家に届けた場合、届けられた仇の側はその刀を使って切腹しなければならなかったという。
現代社会でも遺書に恨みを書いて自殺する人がいますが、自分を追い込んだ人も自死しなければならないとすれば、イジメも相当覚悟が必要となるのでしょう。
知らないことばかりで、びっくりの一冊でした。こうした歴史なら楽しく読め、歴史が楽しくなるのではないでしょうか。清水さん、良い本をありがとうございました。
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この本で私が共感した名言
・はひふへほ・・・戦国時代以前の日本語では「ふぁ・ふぃ・ふ・ふぇ・ふぉ」と読んでいたらしい(p15)
・御百姓意識・・・主人に仕える侍たちを徹底的に軽蔑し、それに比べて主人を持たない百姓は誰にも諂う必要がない自由な立場にあること(p54)
・年貢を納めるときに使う枡は・・・領主と百姓との合意の象徴であった。そのため相互の不信が極点に達したとき、百姓たちはまず枡を粉砕するという行為に出る(p82)
・人質が殺されるのは、殺した者ではなく、裏切った者が悪い・・盟約を踏みにじる行為は、なにより踏みにじった側に社会的な非難が集中することになった(p158)
【私の評価】★★★★☆(85点)
目次
第1部 僧侶も農民も! 荒ぶる中世人
第1話 悪口のはなし
第2話 山賊・海賊のはなし
第3話 職業意識のはなし
第4話 ムラのはなし
第2部 細かくて大らかな中世人
第5話 枡のはなし
第6話 年号のはなし
第7話 人身売買のはなし
第8話 国家のはなし
第3部 中世人、その愛のかたち
第9話 婚姻のはなし
第10話 人質のはなし
第11話 切腹のはなし
第12話 落書きのはなし
第4部 過激に信じる中世人
第13話 呪いのはなし
第14話 所有のはなし
第15話 荘園のはなし
第16話 合理主義のはなし
著者経歴
清水克行(しみず かつゆき)・・・1971年生まれ。明治大学商学部教授。歴史番組の解説や時代考証なども務める。
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