「戦争はいかに終結したか-二度の大戦からベトナム、イラクまで」千々和 泰明
2022/11/07公開 更新本のソムリエ [PR]
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【私の評価】★★★☆☆(76点)
要約と感想レビュー
ウクライナ戦争はどう終わるのか、考えてみるために、この本を手にしました。この本では、過去の大戦、朝鮮戦争、ベトナム戦争、湾岸戦争などを振り返り、戦争がどのように終わるのか考察しています。結論から言えば、相手の「将来の危険性」と自分の「現在の犠牲」のバランスによって戦争の終末が変わるのです。
つまり、相手の「将来の危険性」が大きく、自分の「現在の犠牲」が小さいならば、徹底的に相手を叩き潰すまで戦争は続きます。反対に相手の「将来の危険性」が小さく、自分の「現在の犠牲」が大きい場合には、妥協的和平に落ち着く可能性が高まるのです。
ウクライナの例で見れば、プーチンがどれだけウクライナを支配することを重要視しているのか、ロシア人の損害をどの程度気にしているのかということです。プーチンがロシア人が10万人死のうが、100万人死のうが、ウクライナを勢力圏内にすることを重要視するならば、戦争は終わらないのです。
・「将来の危険」が小さく「現在の犠牲」が大きい場合、戦争終結の形態は「妥協的和平」の極に傾くことが分かる(p261)
興味深いのは、朝鮮戦争では、アメリカが核の使用を示唆して中国を脅していました。しかし、中国はその脅しには屈しませんでした。反対にアメリカは核兵器を使用すれば、ソ連の介入の口実となり、米ソ直接対決によりアメリカ自身の犠牲が大きくなることを恐れていました。結局、朝鮮戦争では核兵器の使用を主張するマッカーサーの解任や、スターリンの死という状況の変化から休戦会談がまとまることになったのです。
また、ベトナム戦争ではアメリカは南ベトナムを守るために戦いましたが、北ベトナムを打倒するつもりはありませんでした。なぜなら、北ベトナムが敗戦しそうになれば、中国、ソ連が介入し米ソの直接対決となり、大きな損害を出す可能性があったからです。
・帝国主義者が戦争をしかけたら3億人以上の人民が失われるだろう。それがどうしたというのだ。戦争は戦争だ。年月が経ち、前よりも多くの赤ん坊が生まれるだろう(毛沢東)(p177)
現在、ウクライナをアメリカやNATOが支援していますが、ロシアとの直接対決を恐れて、ロシアを圧倒できる兵器を持ちながら、小出しにしているように見えます。ベトナム戦争のアメリカの再現です。一方、ロシアは自国の損害を気にせずにウクライナを占領するまで戦争を継続するかのようにも見えます。これは当事者の頭の中のことなので不確実なものです。
こうして見てくると、関係者すべてが「将来の危険」より「現在の犠牲」のほうが大きいと思わないと「妥協的和平」は得られないのです。たった一人が「将来の危険」に固執すれば戦争は終わらないということであり、プーチンがどれだけウクライナに固執しているのかということだとわかります。
結局、戦争を短期間に終わらせるために私たちがコントロールできることは、相手の犠牲を大きくすること、つまり強力な自衛力を持つことだとわかりました。スイスのような国民皆兵が参考になるかもしれません。千々和さん、良い本をありがとうございました。
この本で私が共感した名言
・戦闘で敵部隊が降伏する時の犠牲者数から逆算すれば、その敵国の全人口のうちどのくらいの数の人間を殺せば降伏させられるかがわかるという奇説もあった(p6)
・アメリカは、サイゴンの恒久的存続の確保のためにハノイの打倒までをめざすつもりはなかった(p226)
・戦争終結形態が「将来の危険」と「現在の犠牲」のバランスに大いに影響される(p257)
・連合国は、自分たちの「現在の犠牲」よりも、ドイツによる「将来の危険」を重視し、特にナチズムの危険に対しては最終的に相手の無条件降伏を勝ち取るまで戦い続けた(p260)
【私の評価】★★★☆☆(76点)
目次
序章 戦争終結への視角―「紛争原因の根本的解決」と「妥協的和平」のジレンマ
第1章 第一次世界大戦―「勝利なき平和」か、懲罰的和平か
第2章 第二次世界大戦"ヨーロッパ"―無条件降伏政策の貫徹
第3章 第二次世界大戦"アジア太平洋"―「幻想の外交」の悲劇
第4章 朝鮮戦争―「勝利にかわるもの」を求めて
第5章 ベトナム戦争―終幕をひかえた離脱
第6章 湾岸戦争・アフガニスタン戦争・イラク戦争―共存から打倒へ
終章 教訓と出口戦略―日本の安全保障への示唆
著者経歴
千々和泰明(ちぢわ やすあき)・・・1978年生まれ。福岡県出身。2001年、広島大学法学部卒業。2007年、大阪大学大学院国際公共政策研究科博士課程修了。博士(国際公共政策)。ジョージ・ワシントン大学アジア研究センター留学、京都大学大学院法学研究科COE研究員、日本学術振興会特別研究員(PD)、防衛省防衛研究所教官、内閣官房副長官補(安全保障・危機管理担当)付主査などを経て、2013年より防衛省防衛研究所主任研究官。この間、コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。
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