「旅の効用: 人はなぜ移動するのか」ペール・アンデション
2022/09/27公開 更新本のソムリエ [PR]
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【私の評価】★★★☆☆(78点)
要約と感想レビュー
「1万3千年前まで、私たちは遊牧民だった」ではじまるこの本の著者は、30年にわたってインドを中心に世界を旅してきました。スウェーデンでの効率化された生活よりも、自由に何が起きるのかわからない旅が著者は好きなのです。
旅からスウェーデンに帰ってくると、著者には聞こえるモノ、読むモノがすべて無意味に思えてくるという。800万人という小さなコミュニティの狭く、閉鎖的な思考に、息が詰まりそうになるというのです。特にスウェーデンではお店はセルフレジ、支払いはATM、チェックインもネットで完結してしまうので、人と触れ合う機会がほとんどないのです。
著者の異常なまでの旅好きは、こうした高度化されたスウェーデンの生活に飽きたからなのか、それともそれとも遊牧民であったときの人類の遺伝子レベルの名残りなのか、興味深いですね。
・スウェーデン・・・スーパーマーケットでは商品を自分でスキャンしていたし、支払いはATMで済ました・・機械を相手にしていただけだ(p332)
何十年も旅をしていると、ある時点で旅の体験をコレクションしようと思わなくなるという。つまり絶えず新しい場所を訪れようとしなくなるのです。これはいろいろなレストランやクラブに行っているうちに、馴染みの店ができるのと似ているのでしょう。いかに多くの店を制覇したということより、その店の人と仲良くなるほうが楽だし、楽しいのです。
私も旅好きなので、ある程度世界を回ったら気に入った場所に何度も通うようになるのかもしれません。そのためには相当、世界を旅しないと旅のコレクションを無意味と感じないのではないでしょうか。
・私はしばしば、再訪したいところはどこかと訊かれる。私はこう答える。ギリシャのナクソス島と、インドの都市ムンバイ(p136)
旅の効用は、世界を知ることができるということです。世界を知るということは、自分の考え方が必ずしも正しくないということを教えてくれます。例えば、スウェーデンでは人のプライバシーに踏み込むことはほどんどありませんが、インドではどのカーストに属していて、どこの国籍を持っていて、収入がどれくらいなのかというとが重要だという。これはどちらが正しいか、ということではなくその国の文化なのです。
また、大学の研究でも旅をした人たちは人付き合いが良くなり、好奇心が増し、感情が豊かになったという。18~19世紀の貴族が、息子を世界旅行に送り出していたのにも理由があったということなのでしょう。旅が人を変えるのです。確かに旅には効用があるようです。新型コロナも収まりそうですので、皆さん、一緒に旅を楽しみましょう。アンデションさん、い本をありがとうございました。
この本で私が共感した名言
・私たちは定住するようになって以降、移動を続ける少数部族を怪しい人たちと見なすようになった(p33)
・カルフォルニアの住宅地では、歩行者は社会的な出来損ないと見なされ、犯罪者の可能性が高いとされる(p43)
・飛行機で旅をすれば、・・・草原と湖の脇をウシがたどる道、さらには森を抜けてアルプスの峠を越える道を忘れてしまうことになる(p111)
・ここ何十年間のグローバリゼーションの波は、多くの文化的特徴を排斥してしまった・・・世界はどこへ行っても、たいがいにどんどん似かよってきた(p196)
・旅の遺伝子・・・この遺伝子は、大きなリスクを冒したり、新たな環境を探したりするらしい。遺伝子の名称はDRD4-7R(p266)
【私の評価】★★★☆☆(78点)
目次
閉じられていた戸が開く
「ここではない、どこか」という憧れ
「明日は分からない」旅へ
列車よ、私を遠くに連れてってくれ
遠く、放浪へ
さまよう惑星の上を行ったり来たり
カメのように、カタツムリのように
何度も戻る。何度も続ける
いったいなぜ、私たちは旅をするのか
ヒッチハイクの愉悦と憂鬱
遠い過去へと戻る旅立ち
国境を越えて、自由に動き続ける
自由な旅人、無鉄砲な旅人
世界の旅行記を旅する
人は旅で本当に変わるのか
旅と病の間
世界の不安と旅不足
旅の終わりという始まり
著者経歴
ペール アンデション (Per J. Andersson)・・・スウェーデンのジャーナリスト・作家。1962年、同国南部のハルスタハンマル生まれ。同国で最も著名な旅行誌『ヴァガボンド』の共同創業者。過去30年にわたってインドを中心に世界各地をバックパッカー、ヒッチハイカーとして、あるいはバスや列車を利用して旅する。現在ストックホルム在住。2015年刊行の前著(インドからスウェーデンまで自転車旅をし、スウェーデン人女性と結婚したインド人についての伝記)がベストセラーになり、一躍人気作家となる。
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