「結果を出すリーダーはみな非情である: 30代から鍛える意思決定力」冨山 和彦
2022/09/22公開 更新

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【私の評価】★★★★★(90点)
要約と感想レビュー
JAL再生タスクフォースのメンバーだった著者がこの本で伝えたいのは、右肩下がりの日本の失われた30年の原因は、現場力への過剰な依存にあり、今こそトップの本当のリーダーシップが必要と主張する一冊です。本当のリーダーシップとは、メリットが大きいが、デメリットも大きい。「やるのか、やらないのか」という決断をトップダウンで決められるのか、ということです。
経済成長期の右肩上がりの時代は年功型で、問題の先送りでなんとかなってきました。さらに日本では一度失敗すると、出世コースから外れてしまうこともあるので、自分の在席期間は大過なく過ごすことを目標にする人が多いのです。しかしそうした環境で生き抜いてきたリーダーがトップになったとき、会社がいつ潰れるのかという時に、非情な決断ができるのかということです。
・非情になれない経営者、「あれも、これも」ですり合わせに行く経営者が、結局、多くの生身の人間にとって非情な結果をもたらす(p4)
面白いのは、現場で企業再生に取り組んできた著者ならではだと思いますが、現場のリアルがわかることでしょう。まず、現状維持を主張する守旧派は、数も多いし、利害が一致しやすいので団結力が強いのです。その一方で改革派は変わり者が多く、数が少なく、理想を持って自説を主張するので、ちょっとしたことで内部分裂してしまうことが多いというのです。
現場では団結した多数はの守旧派と、少数の分裂しがちな改革派が戦っているのです。そうしたときに大事なのは、空気を少しずつ変えていく根気強さ、しつこさだという。交渉は個々の実利と情緒、合理と情理が混じり合い、あるところで空気が一変し、改革が加速することがあるというのです。理屈で相手を追い詰めてはいけないということなのです。
・守旧派は、・・現状維持で・・利害が一致する。利害の一致に、恥をかかされた恨みが結合すると、大変な団結力になっていく。他方、改革派は内部分裂を起こしやすい(p154)
最後は「情」かよ!と突っ込みたくなりますが、実際の現場で苦労してきた著者の気持ちが伝わってきました。多くの場合は、各メンバーの意見を聞き、現状維持の問題先送りで問題ないのです。しかし、それでは右肩下がりの時代に会社そのものの危機に対応できないという危機感があるのでしょう。
著者は日本の会社の特長として、失敗に対して不寛容で、新規事業で失敗したりすると、二度と立ち上がれなくなったり、仮に成功しても、片道切符で転籍させられて、本流の出世コースから外れてしまうという残念なことを指摘しています。若い時から非情な決断を訓練しなくてはならないのに、挑戦して失敗すれば出世コースから外れてしまうという矛盾があるのだと思いました。
それはわかったうえで、著者はこの本を書いているのだと思います。冨山さん、良い本をありがとうございました。
この本で私が共感した名言
・本気で権力を握ることを考えたら、発言は自ずと慎重になる・・・できもしないことは言えないし、下手に言質を取られたら後々苦労する(p33)
・組合が強くなりすぎて、経営に口出しするようになった会社は、だいたいつぶれる。かつての国鉄がそうだったし、一時期の日産もそれで危なくなった(p40)
・コミュニケーションは情に訴え、根負けを誘う(p139)
・「会社が変わらないなら、僕は辞めますよ」と見得を切っているやつは一見かっこよく見えるけれど、最初から逃げ腰なだけのことも多い(p205)
▼引用は、この本からです
冨山 和彦、日経BP/日本経済新聞出版
【私の評価】★★★★★(90点)
目次
第1章 なぜ若いうちからリーダーシップが必要なのか
第2章 現実を直視する:日本と日本企業と「ニッポンの課長」の命運
第3章 リーダーシップの条件1 論理的な思考力、合理的な判断力が不可欠である
第4章 リーダーシップの条件2 コミュニケーションは情に訴え根負けを誘う
第5章 リーダーシップの条件3 実戦で役立つ戦略・組織論を押さえる
第6章 リーダーシップの条件4 評価し、評価されることの本質を知る
著者経歴
冨山和彦(とやま かずひこ)・・・経営共創基盤(IGPI)代表取締役CEO。東京大学法学部卒、スタンフォード大学経営学修士(MBA)。ボストンコンサルティンググループ、コーポレイトディレクション代表取締役社長、産業再生機構COOを経て、IGPIを設立。数多くの企業変革や業界再編に携わり、現在に至る
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