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「チョコレートの真実」キャロル・オフ

2021/12/17公開 更新
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「チョコレートの真実」キャロル・オフ


【私の評価】★★★☆☆(78点)


要約と感想レビュー

 2007年と古い本ですが、友人にお勧めされたので手にした一冊です。


 チョコレートの原料は、「神々の食物」と呼ばれる直径20センチほどのカカオの実です。中米の熱帯雨林に育成していたカカオは、スペインによるアステカ帝国への侵攻とともに欧米に知られることになりました。欧米に持ち込まれたチョコレートは健康によい飲み物でしたが、18世紀にチョコレート製造会社が設立されます。粉末ココアが蒸気機関で大量生産され、その後、19世紀には食べられる板チョコが開発され、一般に普及しはじめます。


 著者が指摘するのは、安い価格でチョコレートを気軽に食べている先進諸国に対し、原料であるカカオの生産地では子どもが学校にも行けず、生活のために働かなくてはならないという不条理といえる状況です。20世紀の中頃まではチョコレートやコーヒーなどの嗜好品は、奴隷の血と汗によって作り出されたものだったのですが、現代社会でも労働という形で奴隷の役割を貧しい人と子どもがになっているのです。


・1918年まで、クーリー(苦力)という名でも知られる「年季契約の労働者」がアジアからカリブ海地域の島々へ移送されていた・・アジア人は「契約」を示される。奴隷制廃止法の抜け道だ・・・小屋に入れられ、焼印を押され、鎖でつながれて、船に押し込まれる(p104)


 この本では2000年代のアフリカ中部の小国コートジボアールの歴史を通じて、カカオ生産の現実を教えてくれます。1980年代のコートジボワールでは対外債務が返済できなくなり、経済の自由化を強制され、カカオも自由化市場で取引されることになりました。結局、数社の外国企業がコートジボワールのカカオ生産を支配するようになりました。2002年には内戦が勃発し、イスラム勢力の支配する北部とキリスト教徒の多い南部に分断されますが、なぜかカカオの生産は続き、カカオの輸出は比較的安定して続けられたのです。


 実はコートジボワールにはカカオ栽培の利益を政治家や有力者が税金の形で搾取して、個人的に武器を購入したり、自分の収入にしてしまう仕組みが存在します。そうした怪しい資金の流れを報道した記者が暗殺されたり、会計監査の弁護士が襲われたりするなど、ココアに関わる金の流れに手を出した人は、国家マフィアから命を狙われる可能性があるのです。そうした中で、ココア農家は安い価格に苦しみ、そうした中で子どもを農園に紹介するブローカーから安い労働者を提案されると、子どもを買ってしまうケースが多いのだというのです。


・FDPCC。コーヒー・カカオ基金(BCC)。規制管理基金(FRC)・・・資金のほとんどは個人の手か、政界上層部のさまざまな事業に向かう・・・カカオ栽培から上るはずの利益のうち三分の二までが「特別税」の形で消える(p305)


 私達が普通に口にしているチョコレートも原料となるカカオを作っている人が、存在しているという現実を理解しました。カカオとはグローバル化された商品であり、国際競争の中で乱高下する市場価格で取引されています。そのリスクを取れるのは巨大企業だけであり、その先には貧困の農民の存在があるわけです。資本主義とは効率的な仕組みだとは思いますが、こうした歪みが存在することも事実であり、少しでも改善していかないと、経済や社会自体が崩壊する可能性があると感じました。


 オフさん、良い本をありがとうございました。


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この本で私が共感した名言

・法定貨幣としてのカカオ豆の使用は、マヤにさかのぼる・・・粘土や石に彩色した偽造カカオの製造が後を絶たないほどだった(p33)


・経済自由化・・・カカオ価格は市場任せのジェットコースター状態・・・商品取引所が、遠く離れたコートジボアールのカカオ生産者の生命線を握るようになった(p147)


・本当に悪いのは農園ではなく、子供たちを農園に送り込む犯罪ネットワークだ(p164)


・2001年・・・チョコレートに「奴隷不使用(スレイブフリー)」という表示ができる(p177)


・戦闘がどれほど激しくなろうとも、カカオを運ぶトラックは、サンペドロ港へ必ず積荷を届けている・・・戦争でさえ、先進諸国のお気に入りの楽しみを妨げはしない(p224)


・誰も学校へ行っていない。学校がないからだと彼は言う。この地域の住民はほとんどが移民層で、コートジボワール政府は公共サービスを提供しない(p245)


・「コーヒー・カカオ生産者活動発展促進基金(FDPCC)」は重要な準公営機関の一つで、カカオとコーヒーの生産者から金を徴収する権利を持っている。しかし支出を説明する責任はない(p303)


・フェアトレードの認証ラベル運動は1988年オランダで・・・はじまった・・・フェアトレード認証にかかる金はTCGAのような小規模事業にとっては目が飛び出るほど高い。・・・収入の20~25%も払っている(p361)


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▼引用は、この本からです

キャロル・オフ 、英治出版


【私の評価】★★★☆☆(78点)


目次

序章 善と悪が交錯する場所
第1章 流血の歴史を経て
第2章 黄金の液体
第3章 チョコレート会社の法廷闘争
第4章 ハーシーの栄光と挫折
第5章 甘くない世界
第6章 使い捨て
第7章 汚れたチョコレート
第8章 チョコレートの兵隊
第9章 カカオ集団訴訟
第10章 知りすぎた男
第11章 盗まれた果実
第12章 ほろ苦い勝利



著者経歴

 キャロル・オフ(Carol Off)・・・ジャーナリスト。ユーゴスラビアの崩壊からアフガニスタンでのアメリカ主導の「対テロ戦争」まで、世界で数多くの紛争を取材、報道している。アフリカ、アジア、ヨーロッパについてのCBCテレビ・ドキュメンタリーで数多くの賞を受賞。


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