本のソムリエおすすめ本を紹介する書評サイトです
本ナビ > 書評一覧 >

「ロヒンギャ危機―「民族浄化」の真相」中西 嘉宏

本のソムリエ 2021/06/02メルマガ登録
このエントリーをはてなブックマークに追加

「ロヒンギャ危機―「民族浄化」の真相」中西 嘉宏


【私の評価】★★★★☆(83点)


要約と感想レビュー

 ミャンマーのクーデターからデモへの発砲や、ロヒンギャといわれるイスラム系の住民が着の身着のままバングラディッシュ側に逃げ込んでいる映像を見て、手にした一冊です。報道ではミャンマー国軍がロヒンギャに対し、民族浄化、大量殺戮、ジェノサイドを行ったのではないかとされています


 では「民族浄化」の真相はどうなのか。


 ロヒンギャとは、ミャンマーに住むイスラム教徒(ムスリム)で、多くは国籍を持たない人達であり、人口の九割が仏教徒であるミャンマーの中では少数民族といえます。ミャンマーではロヒンギャをバングラディッシュからの不法移民と見ており、一方のバングラディッシュからはミャンマーの国民と見られており、ロヒンギャは国籍を持っていないのです。


 国籍を持たないロヒンギャと土着の仏教徒の対立が続くなかで、2017年にアラカン・ロヒンギャ救世軍(ARSA)がミャンマー国軍と警察の施設31箇所を襲撃したため、ミャンマーはARSAをテロ集団に指定。ARSAとミャンマー軍の衝突により、100万人ものロヒンギャがバングラディッシュに難民として流出したのです。


・ロヒンギャ難民危機・・・4ヶ月足らずで68万人である。たとえば、現在およそ350万人のシリア難民がトルコにいる・・・そのトルコのシリア難民が68万人に到達するのには、2011年の内戦勃発から2年3ヶ月を要した(p19)


 こうしたロヒンギャ難民の背景には、1960年代からロヒンギャの武装勢力がバングラディッシュに拠点を置いて、活動してきた歴史があります。国軍は、国籍を持たないロヒンギャが武力闘争によってミャンマー内にイスラムの州を設立し、最終的にはミャンマーをイスラムの国にしようとしているのではないか、と恐れてきたのです。


 実際2017年4月に行政官が拉致・殺害され、5月に爆弾で5人死亡。7月に国境警察が武装集団に襲撃されています。ARSAとみられる武装集団によって59人死亡、33名行方不明になったという。こうした背景からミャンマー国軍がロヒンギャを武装勢力だけでなく民間人含めてミャンマーから追い出したということなのでしょう。


・ロヒンギャの多くは、国籍取得が認められてこなかった。ミャンマー政府が彼らをバングラディッシュからの不法移民だと認識してきたからである。一方、バングラディッシュ政府は、彼らがミャンマー国民だと主張する(p14)


 さらに複雑なことに、紛争のあったラカイン州はミャンマーの中で最も貧しい地域のひとつであり、元々独立運動が盛んでビルマ人が支配するミャンマー連邦政府への反発から武装闘争も存在しているのです。つまり今回の難民の背景には、ビルマ人が支配する国軍と、ラカイン州の武装勢力、ロヒンギャの武力勢力の対立構造があるのです。


 テロ活動に対しては徹底した取締りが必要ですが、武器を持たない民間人への攻撃は許されることではないのでしょう。日本でも共産化を狙ったテロ活動を計画している勢力もいると思いますので、注意したいものです。中西さん、良い本をありがとうございました。


この記事が参考になったと思った方は、
クリックをお願いいたします。
↓ ↓ ↓ 


人気ブログランキングへ


この本で私が共感した名言

・ロヒンギャの武装勢力・・・1960年代以降は、ほぼすべての武装組織が、拠点を国境のバングラディッシュ側(東パキスタン)に置き、脆弱な国境管理の合間をぬって活動していた(p87)


・ミャンマーのナショナリズムにとって、他者とは、そして敵とは誰か。第一に、それは植民地宗主国であるイギリスである・・・インド系の人々、中国系の人々も同胞の外に位置づけられた・・・多くは植民地期になって英領インドの他地域からやってきた移民である(p44)


・ラカインはミャンマーで最も貧しい地域のひとつだ・・・ラカイン民族主義にとって、連邦政府に並ぶ敵がロヒンギャである・・・ラカイン州北部の紛争・・・ロヒンギャ、ラカイン人、ビルマ人(ミャンマー政府)、少なくともこれら三者の対立として理解する必要がある(p96)


・国軍には、そもそもビルマ人が多い・・・8割を超える将校が仏教徒のビルマ人だった。これは人口全体のビルマ人の割合(約6割)よりずっと高い(p72)


・2008年に成立した新憲法では、国軍の独立性や強い権限が保障されていた。憲法改正にも国軍の実質的な拒否権があるため、仮に選挙で国軍が望む政党が政権をとれなくても、憲法上の国軍の独立性や権限を維持することができる(p106)


にほんブログ村 本ブログ 書評・レビューへ
にほんブログ村へ


▼引用は、この本からです
「ロヒンギャ危機―「民族浄化」の真相」中西 嘉宏
中西 嘉宏、中央公論新社


【私の評価】★★★★☆(83点)



目次

序章 難民危機の発生
第1章 国民の他者―ラカインのムスリムはなぜ無国籍になったのか
第2章 国家による排除―軍事政権下の弾圧と難民流出
第3章 民主化の罠―自由がもたらした宗教対立
第4章 襲撃と掃討作戦―いったい何が起きたのか
第5章 ジェノサイド疑惑の国際政治―ミャンマー包囲網の形成とその限界
終章 危機の行方、日本の役割


著者紹介

 中西嘉宏(なかにし よしひろ)・・・1977年、兵庫県生まれ。京都大学より博士(地域研究)を取得。日本貿易振興機構・アジア経済研究所等での勤務を経て、2013年より京都大学東南アジア研究所・准教授、2017年から東南アジア地域研究研究所・准教授。ジョンズ・ホプキンス大学高等国際研究大学院・客員研究員、ヤンゴン大学国際関係学科・客員教授などを歴任。


メルマガ[1分間書評!『一日一冊:人生の智恵』]
3万人が読んでいる定番書評メルマガです。
>>バックナンバー
登録無料
 

<< 前の記事 | 次の記事 >>

この記事が気に入ったらいいね!

この記事が気に入ったらシェアをお願いします

この著者の本 :


コメントする


同じカテゴリーの書籍: