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「事故がなくならない理由(わけ)安全対策の落とし穴」芳賀繁

2020/11/05公開 更新
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【私の評価】★★★★☆(85点)


要約と感想レビュー

 安全の専門家が,安全対策が逆効果になった事例を示しながら,安全は人の心理で大きく変わると指摘する一冊です。人は感覚の動物であり、リスクを冷静に合理的に判断できないのです。


 具体的には,防潮堤で安心してしまい,津波への避難が遅れてしまった事例。凍結路スキッド訓練を義務化したら凍結路での事故が増えてしまった事例。安全対策があるから、リスクを甘く見てしまったり,緊張感をなくなってしまうのが人間なのでしょう。


・1993年にノルウェーの一部地域で,トラックドライバーがスキッド訓練を受けることが法的義務となった・・・この法改正によって事故が減らなかったどころか,かえって事故リスクが増大してしまった(p43)


 やはり、人間はリスクを正確に把握できない動物のようなのです。なぜ,レントゲンやラドン温泉で普通に被爆しているのに,放射線量を管理している福島の海産物や農産物を避ける人が多いのか。健康食品を食べながら、発がんの原因となると証明されているタバコが吸われ続けるのでしょうか。


 それは人が感じるリスクと実際のリスクとの間に、ズレがあるからです。大きいリスクは小さく感じ,小さいリスクは大きく感じる傾向にあるのです。こうした合理的な判断ができないから、人間とは感情の動物であると言われるのでしょう。


・ほんのわずかでも放射能が検出された食品を食べようとしない人が,それよりはるかに発癌リスクの高いたばこをやめようとしないのはなぜだろう(p4)


 よく考えれば,自動車事故で毎年4000人もの日本人が亡くなっていても運転は自粛しないのに、新型コロナウイルス対策で経済活動は自粛するのです。もちろん新型コロナ対策は医師・病床不足で医療崩壊しないためとはいえ経済が崩壊した場合、医療が崩壊した場合、それぞれを天秤にかけて判断しなくてはならないのでしょう。


 何事も数字で測定して現実を把握しながら判断していくことが大事だと感じました。ただ合理的な判断を、万人が受け入れるのかどうかは別問題なのでしょう。芳賀さん、良い本をありがとうございました。


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この本で私が共感した名言

・イギリスには免許前に受けた訓練の違いによって,免許取得後に起こす事故率の差を比較した研究がある。訓練とは,①プロのインストラクターからの教習だけ,②友人や親戚などの素人から教わっただけ,③両者の組み合わせの三種類である。結果は②のグループにおいて,走行キロあたりの事故率がもっとも低かった(p41)


・「安心は人間の最大の敵である(As you all know, security is mortals' chiefest enemy)」とはシェークスピアの『マクベス』で使われた台詞である。(p28)


・大半の事故は,普通のドライバーの意図しないうっかりミスによって発生している・・・エラーを人より五割多くおかす可能性のある10%の人を見つけて排除するよりも,全員のエラー可能性を10%低減するほうが,システム全体の安全性は確実に向上する(p174)


・リスク・アセスメントの結果として「許容しうるリスク(対策不要)」という判定がありうる・・・「リスクはゼロにはできない」という前提を受け入れつつ,リスクに目をつぶるのでなく,リスク情報を積極的に集めて,優先度の高い対策から順次実施する(p182)


・「この製品には保存料を一切使用していません。お早目にお召し上がりください」などと表示してあるものが増えたが,購入する人は保存料による発癌リスクを避ける代わりに,食中毒にかかるリスクを受け入れていることを認識しているだろうか(p147)


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▼引用は、この本からです

芳賀繁、PHP研究所


【私の評価】★★★★☆(85点)


目次

第1章 安全装置が裏目に出るとき
第2章 失敗は訓練で防げない
第3章 リスク・ホメオスタシス理論
第4章 なぜ人はリスクを求めるのか
第5章 なぜ事故が起きるのか
第6章 リスク認知とリスク判断
第7章 リスク・コミュニケーション
第8章 リスク行動の個人差
第9章 リスクと共存する



著者経歴

 芳賀繁(はがしげる)・・・1953年生まれ。京都大学大学院修士課程修了。国鉄鉄道労働科学研究所研究員、JR鉄道総合技術研究所主任研究員、東和大学工学部助教授、立教大学文学部助教授などを経て、立教大学現代心理学部教授。博士(文学)。運輸安全委員会業務改善有識者会議委員、JR西日本「安全研究推進委員会」委員、日本航空「安全アドバイザリーグループ」メンバー、京王電鉄安全アドバイザーなどを兼任。専門は産業心理学、交通心理学、人間工学


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