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「失敗ゼロからの脱却 レジリエンスエンジニアリングのすすめ」芳賀 繁

2020/10/30公開 更新
本のソムリエ
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【私の評価】★★★★☆(84点)


要約と感想レビュー

 安全の専門家が教えるレジリエンス・エンジニアリングという考え方です。レジリエンスとは"しなやかな強さ"のこと。レジリエンスエンジニアリングでは,決められたこと以外はやらないというガチガチの安全管理ではなく,現場で臨機応変に対応することで安全を確保する考え方だという。


 例えば,東日本大震災の直撃を受けたJR仙石線野蒜(のびる)駅では、上り列車の乗客は近くの小学校に避難して津波に乗客が流されてしまいました。一方、下り列車では車外に誘導しようとした乗務員に男性乗客が「ここは高台なので留まった方が安全だ」と助言し,高台に留まって全員無事だったのです。


・従来の安全マネジメントでは,本音の作業はあってはならないものであり,建前のとおりに行うよう教育,訓練,見回り,指導が行われる。レジリエンスエンジニアリングでは,本音の作業を悪いこととはみなさない(p98)


 つまり,決められたマニュアルどおりやるだけではなく、現場の人が臨機応変で対応することを認めるということです。マニュアルどおりやらなかったら処罰するのではなく,臨機応変に対応することも認め、禁止しないということです。これは現場では本音と建て前があり,現場の実情に合わない安全対策は現場を疲弊させ,ただ決められたとおりやるだけになってしまうことの反省だという。


 例えば60キロの道路で事故が起きたので制限速度を40キロにしたとしましょう。こんな広々した道路で40キロを盲目に守る人もいれば、アホらしくて守らない人もいる。そうした実情に合わない形だけのルールが増えているのです。これまでの考え方では、アホらしいルールでも守らなくてはならず、一部の人がルールを守らないことで、また事故が起こるということが繰り返されるのです。


・鉄道会社から保線作業を請け負っている会社の人に聞いた話だが,終電後に線路に入って作業を開始する前に,あちこちに13回も電話をかけなければならず,なかなか作業に入れないという。鉄道会社が安全対策を強化するたびに,作業前の手続きが増える・・・対策をいくら積み重ねても相変わらず事故がなくならない(p11)


 とはいえ,マニュアルどおりの作業を否定するものではなく,あまりに増えすぎたマニュアルや手続きへの反動のように感じました。また,単純ミスやルールを守らないことを処罰することで,逆に安全よりも自己保身に走ってしまう弊害が出てきているというのも事実でしょう。ヒューマンエラーやヒヤリハットを報告してもらうためにも、意図しない単純ミスは処罰しないといった環境整備が必須ということです。


 学者らしくない現場に沿った安全の考え方ということで、★4つとしました。芳賀さん、良い本をありがとうございました。


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この本で私が共感した名言

・セーフティマネジメントシステム(SMS)・・・SMS活動を支える安全スタッフは大変である。会議が多くなり,用意したり保管したりする書類が増え,現場に行くより事務所でパソコンに向かっている時間が長くなった・・・作業手順が細かく規定され,皆が同じやり方で同じように作業することが強制されるようになった・・・決められたこと以外はやらないように命じられる・・・これでは仕事に誇りが持てるわけがない(p39)


・大きな荷物で両手がふさがっている場合,手すりを持つことができない。そういうときには台車に乗せてエレベータを使うこと,というのが建前(WAI)だ。しかし,エレベータは遠くにあるし,一基しかないのに多くの人が使うから呼んでもなかなか来ない。荷物は軽いし一つ下の階に行くだけだし,忙しいから会談を使おうと考えるのが本音(WAD)だ(p97)


・管制官の言い間違い・・・「切迫した状況下で」,「平時にもまして冷静沈着に,誤りなき指示を出す」ことができる人などいるのだろうか。刑事裁判での有罪判決の結果,国家公務員法の規定によって,二人は失職した(p176)


・医師や看護婦が医療事故の責任を問われ,あるいは管制官が航空機事故の責任を問われて,取り調べを受け,起訴され,処罰されるのは日本だけではない。デッカーはそのような司法の介入が,実務者たちの報告意欲を削ぎ,実務者と組織,組織と規制当局の間の信頼を壊し,実務者も組織も安全性向上より自己防衛に力を入れるようになると警告する(p177)


・2016年4月からJR西日本は社員のヒューマンエラーを懲戒処分の対処から外すと宣言した・・・福知山線事故の一つの要因として,エラーに対する厳しすぎる処罰があった・・・T運転士は車掌時代に一回,運転士になってから一回,「日勤教育」と呼ばれる懲罰的な再教育を受けていて,二度目の時には「今度ミスをしたら運転士の免許を返上します」というような内容の反省文を書いていたと報道されている(p179)


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▼引用は、この本からです

芳賀 繁、KADOKAWA


【私の評価】★★★★☆(84点)



目次

第1章 ヒューマンエラーをマネジメントする
第2章 「安全」を再定義する
第3章 事故は創発する
第4章 レジリエンスを創り込む
第5章 事故は不可避か防げるか
第6章 仕事の誇りとジャストカルチャー
第7章 「しなやかな現場力」を創るには


著者経歴

 芳賀 繁(はが しげる)・・・1953年生まれ。1977年、京都大学大学院修士課程(心理学専攻)を修了。立教大学名誉教授、株式会社社会安全研究所技術顧問。専門は産業心理学、交通心理学、人間工学。産業・組織心理学、交通心理学、人間工学に関する研究・学会活動のほか、鉄道会社、航空会社の安全アドバイザーなどを兼任。


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