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航空会社での一年に一回の路線審査をドラマ化した「査察機長」内田幹樹

2020/09/22公開 更新
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【私の評価】★★★★☆(85点)


要約と感想レビュー

私は大学で理工学部を卒業しましたが、同窓2人がパイロットとなっているので、興味を持って手にした一冊です。二人とも機長となったと聞いていますが、新型コロナウィルスの影響でたいへんな時期だと思います。さて、この本では、34歳という若さで747-400の機長である主人公が、成田からニューヨーク便で初めて査察を受ける設定になっています。査察(チェック)に落ちると飛行停止になってしまうので、緊張感が伝わってきます。


驚くのは、民間パイロットが年数回の厳密な査察(チェック)を受けているということでしょう。著者に言わせれば、同じ命を預かる医師やバスの運転手も、同じくらいチェックを受けてもいいのではないか。そういう愚痴が出るくらい民間パイロットは緊張のチェックを年数回受け、一部の人は運転停止となり、勉強しなおしているのです。いかに航空業界がパイロットの技量に注意を払っているのか、ということです。


・なぜパイロットはこんなにたくさんのチェックを受けなければならないのだ・・・定期航空の事故による年間の死亡者数は、全世界合計で毎年平均600人ぐらいに抑えられている・・・ひどいのは医療事故だ。確かなデータベースすらなく、国内での推定で年間3万人前後、日本全体の死亡者の4%・・・・という説を聞いたことがある。それなのに医師免許を取ったら、もう定期的なチェックがないというのだから信じられない(p146)


操縦教官であった著者らしく、オートパイロットの使い方、コーパイ(副操縦士)との関係性に哲学があると感じました。つまり、なぜ機長がコーパイ(副操縦士)に設定の指示をするのか。それは、機長が自分でモードを設定すると、その判断の良し悪しをコーパイ(副操縦士)がチェックにするということなのです。常にダブルチェックで、決して失敗しないのがパイロットの仕事なのです。


パイロットも年上コーパイに指示は出しにくいらしく、パイロットでも会社員でも使いにくい部下の問題は、同じなのだと感じました。同じように、査察(チェック)をするチェッカーがコーパイ席に座ったときも、チェッカーはコーパイなので機長として指示を出さなくてはならないのです。


チェッカーに指示を出すのは心苦しい、ここは自分でやってしまおうなんて思っていると間違えたり大きな失敗につながったりするという。チェッカーに過剰に気を遣う機長は、年上コーパイにも同じことをしているとすれば、人を使い切れない機長と見られてしまうのです。部下が使いにくいとしても自分の役割を自覚し、決められた仕事を普段通りに行うことが大事なのでしょう。内田さん、良い本をありがとうございました。


この本で私が共感した名言

・1994年、台北発名古屋行き中華航空140便・・・解除したつもりの自動機能が一部に残っていて・・・オートパイロットのモードを頻繁に変えると、現在の設定がわかりにくくなる・・・なるべくモードは変えない方がいい(p181)


・ホテルでの宿泊が一年間に100日以上にもなると、日本時間を守って生活したほうが身体が楽なのだ・・・勤務が過密になってから、そういうパイロットは珍しくなくなった(p125)


・34年間、1万7000時間というフライト・・・その量ほどに自分が成長しているとはとても思えない。その間に何を成せたというのだ。フライトスケジュールを消化するのに追われた34年間ではなかったのか(p75)


▼引用は、この本からです

内田 幹樹 、新潮社


【私の評価】★★★★☆(85点)


著者経歴

内田 幹樹 (うちだ もとき)・・・東京都生れ。1965年、全日本空輸株式会社(ANA)に入社。YS‐11、ボーイング737、ボーイング767、ボーイング747‐400などの機長として国内線、国際線に乗務。その間20年以上にわたり、操縦教官としてライン・パイロットの教育にあたった。1997年、処女長編小説『パイロット・イン・コマンド』でサントリーミステリー大賞優秀作品賞受賞。


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