すでに情報戦争ははじまっている「ゼロデイ米中露サイバー戦争が世界を破壊する」
2020/08/27公開 更新本のソムリエ [PR]
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【私の評価】★★★☆☆(77点)
要約と感想レビュー
兵器としてのサイバー攻撃
ゼロデイ脆弱性とは、ソフトウェアの欠陥で一般に知られていないもので、闇の世界で高額で取引されているという。各国のサイバー軍が、兵器としてゼロデイ脆弱性を民間から購入しているのです。もちろん敵国からの攻撃を防ぐための研究にも使われていますが、指示があればいつでも攻撃できるよう準備しているのです。特にサイバー戦争は物理的な戦争よりも見えにくいため、実行される敷居が低いのです。
スノーデンが暴露したアメリカの諜報機関NSAは2013年の予算でゼロデイ脆弱性を2510万ドル購入しています。またNSAは優秀なハッカーを多く抱え独自でゼロデイ脆弱性を蓄積しているという。また、マイクロソフトは自社製品の脆弱性に警告やパッチを出す前に、その脆弱性をNSAと共有していたり、通信機器大手のシスコは、米政府が監視できるように自社製品にバックドア(裏口)を作っているという。
・NSAは(フランスの)プーペンが提供する年間定期登録プランを購入していたことが判明している・・・さらにプーペンは、NATOに加盟しているドイツのような先進国や、ASEAN諸国、ニュージーランドやオーストラリアにも、ゼロデイ脆弱性を販売している・・・サイバー武器商が、サイバー軍拡競争を煽っているという構図だ(p202)
イランの核施設を破壊
2010年にはイランの核施設でウランを濃縮する遠心分離機が暴走し、破損したことが、明らかになりました。これはスタックスネットと呼ばれるデジタル兵器によって、シーメンス製の制御装置がハッキングされ、遠心分離機が外から制御されたのです。
ゼロデイ脆弱性も活用し、イラン側がわからないうちに核施設が乗っ取られていたのです。スタックスネットを仕掛けたのはイスラエルとアメリカというのが、定説となっています。
また2013年には韓国の主要放送局2社や金融機関などがマルウェアを使ったサイバー攻撃され、ネットが使えなくなり、放送局や金融機関のパソコンからデータが消去されたという。この攻撃は、北朝鮮が行ったものとされています。
・スタックスネットの存在が知れ渡った後、2010年11月にイランでは核技術の専門家二人が、相次いで暗殺事件に巻き込まれた。一人は車に仕掛けられた爆弾で死亡、もう一人は、何者かが車に仕掛けた爆弾から辛くも逃れて一命を取り留めた(p71)
中国の情報通信機器を排除
アメリカは、情報漏洩のリスクがあるとして中国の情報通信製品製造会社ファーウェイなどを取引停止にしており、他国に対しても中国の情報通信機器を排除させようとしています。これは中国への情報漏洩というよりも、中国の情報通信機器が大きいシェアを占めるとアメリカが現在行っている情報収集が難しくなるからなのでしょう。
アメリカのNSAとイギリスでシギントを専門に諜報活動を行うGCHQ(政府通信本部)は、ベルギー最大の通信会社ベルガコムをハッキングして監視していたという。ベルギーの首都ブリュッセルにはEU(欧州連合)の本部が置かれているからです。また、NSAは郵送中の機器にマルウェアを埋め込む手法も行っています。この「サプライチェーン妨害」と呼ばれる手法は、外部からマルウェアを設置した相手のデバイスへ不正アクセスを可能にするものなのです。
このように、すでにサイバー報戦争は始まっているのです。山田さん、良い本をありがとうございました。
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この本で私が共感した名言
・ある元米国防総省高官は私の取材に、「国防総省だけでも少なくとも20テラバイトの需要データを中国に盗まれている」と語る(p28)
・原子炉が他者によっても操作しうるデジタルコントロールで動いていることを考えれば、原子炉内の圧力を変えたり、はたまた電源の供給に不具合を起こし、原子炉に多様なダメージを与えることができる(p74)
・「キャンディグラム」というツールは、ターゲットが特定の電波塔を使った際にショートメールで監視者に通知する、いわゆる現場のスパイのために作られたと思われるツールである(p184)
【私の評価】★★★☆☆(77点)
目次
プロローグ 二〇××年末、東京
第一章 ナタンズの姿なき攻撃者
第二章 スタックスネットを見破った男
第三章 二一世紀のマンハッタン計画
第四章 「デジタル・パールハーバー」が起こる日
第五章 「ムーンライト・メイズ」と「タイタン・レイン」
第六章 アメリカが誇る世界最強のサイバー軍団
第七章 インフラを狙え!
第八章 暗躍するNSAと「サイバー兵器」
第九章 「ゼロデイ」が生んだ、新しい死の商人
第十章 小さなサイバー大国イスラエル
第一一章 サイバー空間の新世界秩序
第一二章 ロシアがトランプ大統領を誕生させた
エピローグ 二〇一七年、そのとき日本は......
著者経歴
山田 敏弘(やまだ としひろ)・・・国際ジャーナリスト、ノンフィクション作家。講談社、ロイター通信社、ニューズウィーク日本版などに勤務後、米マサチューセッツ工科大学(MIT)でフルブライト研究員として国際情勢の研究・取材活動に従事。国際情勢やサイバー安全保障を中心に多くのメディアで執筆を行っている
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