「海の地政学 覇権をめぐる400年史」竹田 いさみ
2020/01/30公開 更新本のソムリエ [PR]
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【私の評価】★★★☆☆(79点)
要約と感想レビュー
「領海」と「接続水域」
中国の南シナ人工島や、尖閣諸島周辺での中国公船の接続水域・領海航行を見ながら、国連海洋法を学びたくなり手にした一冊。ニュースでは「領海」12カイリとその外側12カイリの「接続水域」という用語がよく使われています。
この用語は国連海洋法に基づくものであり、イギリス、アメリカという覇権国家の思惑の影響を受けながら、長い時間をかけて国際的に調整されてきた内容なのです。
無害通航権の概念を声高に主張してきたのが、アメリカやイギリスであった。それは海が誰にとっても"自由"という考えで生まれたものではなく、やはりイギリスやアメリカの軍艦を含む船舶が世界の海を"自由"に航行し、軍事行動や通商貿易を"自由"に行うために、「無害通航」の権利が必要であった(p165)
「既成事実化する戦略」
この国連海洋法に挑戦しているのが、中国共産党です。具体的には、人工島の建設し、周辺の島々の領有を一方的に宣言、無害通航を禁止し、問題解決に人民解放軍を動員することを立法化しているのです。
こうした国内法を作りつつ、徐々に既成事実化する戦略は、大国化途上のイギリスの海外進出のやり方と似ているという。
中国は領海法の以下の3つの点で、国際的な海洋ルールに抗し、また国際ルールを受け入れていない。第一は中国が周辺海域の島々をすべて領有しているち一方的に宣言している点、第二に外国の「軍用船舶」に対して「無害通航」を禁止・・第三は領海と接続海域を一体化して捉えることを可能とし、海洋問題の解決には人民解放軍を動員することを明記した点である(p195)
「既成事実化する戦略」
中国もイギリスやアメリカが大国化する過程を学び、それを真似しているのだと思いました。そこには理念があるのではなく、軍事力による強制性によりイギリス、アメリカは権益を広げてきたという歴史があるのです。
中国の軍事力による覇権を阻むのは、軍事力だけなのでしょう。竹田さん、良い本をありがとうございました。
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この本で私が共感した名言
・21世紀になると、中国が南シナ海への海洋進出を加速化させ、人工島の建設などに着手し、この「海の憲法」に挑戦する姿勢を示した。中国は、国連海洋法条約が作り上げた海洋秩序に挑戦した初めての国家となる(p4)
・アメリカは国連海洋法条約へ参加しないことを決めた際に、独自の海洋政策を1983年3月10日に発表している・・200カイリの水域で、「領海に接続する水域」を、排他的経済水域(EEZ)にすると宣言した(p177)
・中国は・・1996年に国連海洋法条約を批准したが、批准する4年前に国内法としての「領海法」を制定している。中国の領海法は国連海洋法条約を尊重しつつも、国連海洋法条約に縛られないことを明文化したものだ(p193)
・中国は近年、「海洋国土」という新たな概念を打ち出している。領海、接続水域、排他的経済水域(EEZ)の三つを統合して、「海洋国土」として理解するもの・・・国連海洋法条約を無視して、中国に都合のよい海洋ルールを構築する危険性がある(p215)
・天安門事件・・欧米諸国は相次いで経済制裁を発動した・・救いの神は日本であった・・江沢民総書記による訪日(1992年4月)と、それに続く天皇・皇后の訪中・・・銭其しん外相が回顧録で、欧米による対中経済制裁を突破する手段として、天皇・皇后の訪中を計画したと明かしている(p210)
・1493年に採択された教皇子午線・・・ローマ教皇は、大西洋上のヴェルデ諸島の西方100レグア(約500km)を走る子午線を境界にして、西方海域をスペイン側とし、東方海域をポルトガル側と定めた(p3)
・イギリス(当時はイングランド王国・・)が東インド会社を設立したのは1600年だが、会社設立の提案、帆船の提供、船長と乗務員の手配、資金の提供などすべてを取り仕切ったのはエリザベス一世女王に仕える海賊たちであった(p5)
・イギリスとの貿易に従事する船舶はイギリス船に限定するという法律を、イギリスは1651年に制定した(p10)
・現在のアメリカは捕鯨反対の立場を取り日本の捕鯨をいたく批判しているが、歴史を振り返るとアメリカこそが捕鯨の先駆者であり、クジラを乱獲して頭数を激減させたいわば当事者なのであった(p56)
・米西戦争の結果、戦勝国アメリカは・・・敵国スペインからカリブ海で二つの島(キューバ、プエルトリコ)を、太平洋でも二つの島(グアム、フィリピン)を割譲させた。また1893年から懸案となっていたハワイ領有化の是非に結論を出し、ハワイを一気呵成に併合した(p73)
・ローズヴェルト大統領・・・コロンビア共和国の反政府勢力を支援し、武装蜂起させ、アメリカ軍の駐留を通じてパナマ海峡一帯を直轄地として支配する・・アメリカが反政府勢力を上手に利用して分離独立させる手法はパナマだけではなく、すでにハワイ併合でも見られた(p94)
・アメリカが大戦中に運用・建設していた空母の数は、なんと約140隻にのぼる・・・他方、日本海軍は大小合わせても約25隻の空母に留まり、日米の差は歴然であった(p123)
・陸海軍人の死亡率が約21%といわれるなか、船員の死亡率はその倍に当たる約43%を記録する。船舶の損害率は80%を超え、遠洋航路が可能な船舶はほぼ壊滅状態・・日本には「輸送にあたる商船を護衛するという、いわゆるコンボイ(護送船団)の思想はなかったから、戦時中の船舶の戦争被害や事故はきわめて多かった(p129)
【私の評価】★★★☆☆(79点)
目次
第1章 海を制した大英帝国
第2章 クジラが変えた海の覇権
第3章 海洋覇権の掌握へ向かうアメリカ
第4章 海洋ルールの形成
第5章 国際ルールに挑戦する中国
第6章 海洋秩序を守る日本
著者経歴
竹田いさみ(たけだ いさみ)・・・獨協大学外国語学部教授.1952年東京都生れ.上智大学大学院国際関係論専攻修了.シドニー大学・ロンドン大学留学.Ph.D.(国際政治史)取得.専攻は海洋安全保障,東南アジア・インド太平洋の国際関係,海洋と海賊の世界史.海上保安庁政策アドバイザー,防衛省新防衛政策懇談会メンバー.
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