【書評】「21世紀の戦争と平和: 徴兵制はなぜ再び必要とされているのか」三浦 瑠麗
2019/05/22公開 更新

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【私の評価】★★★☆☆(79点)
要約と感想レビュー
徴兵制の必要性
よくテレビの討論番組で見る国際政治学者の三浦 瑠麗さんが、徴兵制の必要性を説明する一冊です。論文調のため歴史を遡ったり、他国の事例を紹介しているため読むのがたいへんでした。徴兵制のない先進国で民意に支えられた戦争が起きているという事実を取り上げ、徴兵制の廃止が必ずしも平和に資するものではないとの仮説を立てています。
結論としては、徴兵制によって国民が戦争を自分事として考えることで戦争回避の可能性が高まるとして、徴兵制を提案しています。
逆に、自分が徴兵されないと思えば、戦争の可能性が高まるということです。例えば太平洋戦争では、一般国民が本当に平等に徴兵されたといえるのは、最後の二年間ほどであったという。つまり徴兵制が不平等であったがゆえに、国民の多くが「自分は戦争に駆り出されることはない」と思い込んでいたことが、冒険主義や軍部の独走を許す一因になったという。
つまり民主国家が戦争を行ってしまうのは、無知から異質なものへ敵意を持ち、指導者が政治的利益に基づき決断し、国民が自分事として考える想像力が不足し、正義を武力で実現することのコストが低下したからだというのです。過去の戦争は、自分は戦争に行かないだろうと思い込んでいる政治家、国民、マスコミによって推進されてきたのです。
むしろ成熟した民主国家においては、シビリアンこそが攻撃的になり、武力行使に反対する軍人に戦争を強要する事例が多数みられる(p76)
戦争をしないために徴兵制が必要
そもそも武器が高度化された現代の軍隊において、徴兵制は意味はないと断言しています。つまり、武器や装備の操作について専門の教育を受けた軍人でなければ作戦を実施できない。そこらの素人が何人集まっても戦力にはならないし、足手まといになるというのです。
そうした中で徴兵制の意味があるとすれば、国民が「自分も徴兵されるかもしれない」という危機感を持つことです。誰もが徴兵される可能性があれば、誰も戦争を求めないだろうということです。
ロシアのウクライナ侵攻によって、世界の平和の理論が崩れているように感じます。国際政治の中では、国家中心の世界観として、国家生存のためには常備軍を持つことは避けられないが、国際法を整備し、政府間の相互不信を取り除けば、軍拡競争を抑えることができると考える人がいました。
また、人民中心の世界観として、人民の利益を中心にすれば平和が実現できるという考え方もありました。そのために、国家が設けている移動の自由の制限や、商業取引の規制は、取り除くべきと考え、世界政府の樹立を目指す人たちです。日本も戦争をしないために徴兵制が必要なのでしょうか。三浦さん、良い本をありがとうございました。
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この本で私が共感した名言
・2017年5月7日、徴兵制復活を公約とするエマニュエル・マクロンがフランス大統領選に勝利・・・2018年1月1日、スウェーデンが2010年に廃止されていた平時における徴兵制を復活させた(p24)
・エラスムスは、君主は開戦の是非について、戦争を楽しいものと思いがちな若者に諮問すべきではなく、慎重で確固とした祖国愛を抱いている年取った人びとを呼んで意見を聞くべきだと助言している。けれども、それは老人たちの世代が大戦争を経験している場合にのみ言えることなのかもしれない(p143)
・ヘーゲルは、1821年に出版した「法の哲学」のなかで、カントが言うような国家連合に自らの主権を制限してまで協力する国家の意思を担保することはできず、実現したとしても偶然に頼らざるをえないではないか、と疑問を呈し、さらに国家の連合体は必然的に他のところにその敵を作り出すとして批判した(p66)
・ローマ帝国の崩壊・・・戦闘部隊は傭兵隊の寄せ集めとなり、豊かな人びとは軍に敬意を払うことを忘れ、彼らを養うことで市民生活の土台が提供されていること自体を忘れていた。負担共有の前提が崩れ、国の一体性が失われれば、結局は力の強い者が力による統治をすることになる(p83)
▼引用は下記の書籍からです。
新潮社
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【私の評価】★★★☆☆(79点)
目次
第1部 共和国による平和
第2部 負担共有の光と影
著者経歴
三浦瑠麗(みうら るり)・・・国際政治学者。1980年、神奈川県生まれ。東京大学農学部卒業、同大学院法学政治学研究科修了。博士(法学)。東京大学政策ビジョン研究センター講師
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