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「忘れられたルーツ―電力産業120年の浮沈とこれからの100年」ジャック・カサッザ

(2019年5月 1日)|本のソムリエ
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忘れられたルーツ―電力産業120年の浮沈とこれからの100年


【私の評価】★★★☆☆(78点)


■私の米国の電力自由化のイメージは、
 1992年にIPP(独立発電事業者)が認められ、
 1996年の発電・送電の機能分離、
 送電線の第三者への解放が義務付けられた。


 日本では2016年電力小売全面自由化となり
 来年2020年に発送電の法的分離となる。
 米国から20年くらい遅れているのでしょう。


 米国では2001年のエンロンの破綻と
 大停電もあり電力自由化が
 スローダウンしました。


 この本はそうした背景もあり、
 2007年に電力の自由化への警鐘を
 鳴らしたものとなっています。


・電力自由化がもたらした混乱と荒廃・・・電力会社の取締役会は市場原理主義者たちによってますます支配されるようになった・・ある電力会社では全スタッフは倍以上に増えたが、技術系のポジションは一つも増えなかった(p51)


■著者が言いたいのは、
 そもそも電力自由化は英国などにおいて
 国有企業の民営化が目的だったのであって、
 米国の電力会社は民営だったということ。


 そのため、電力自由化の目的が、
 発送電分離や市場解放になってしまい、
 貯蔵ができず発電所建設に時間がかかる
 という電力の特性を理解しないまま、
 電力市場化という実験が行われてしまった。


 その結果、電力の安定供給を考えてきた
 電力技術者よりも、電力取引を考える
 事務系社員が増殖した。


 電力系統は不安定となり、
 価格も上がってしまったという
 電力技術者としての憤りなのです。


・電力設備投資は、資本投下が巨大であること、建設期間はしばしば長期にわたること、環境への影響は広範であり、一方建設が遅延して生じる電力不足は極めて大きい経済的・政治的影響をもたらすので、短期的な解決を求める市場にゆだねることは不適切であるからである(p65)


■読んでみるとカサッザさんの書籍の翻訳が
 三分の一で、三分の一が日本の電力の歴史、
 三分の一が日本電力業界への提言となっており、
 カサッザさんの書籍の完訳ではありませんでした。


 それでもカサッザさんの
 電力の市場取引による悪影響と
 そうした失敗を繰り返してほしくない
 という思いは伝わってきました。


 次は日本から、カサッザさんの助言を
 活用できなかったことへの謝罪と、
 将来の電力技術者への警鐘を
 発信する番なのかもしれません。


 カサッザさん、
 良い本をありがとうございました。


■この本で私が共感したところは次のとおりです。


・世界的には電力自由化の重要な柱の一つは国営・公営の電力企業を民営化で効率化することであったが、米国では電力産業の主たるプレーヤーはすでに民間資本の電力会社であったので、米国の電力自由化は新しい競争方式の導入と既存電力会社の分割・合併、新規事業者の参入に重きが置かれた(p46)


・発電の自由化市場・・・従来であれば、発電所の調子が悪い時には、現場では復旧させるように最善を尽くして、できるだけ早く立ち上げるが、今や停止してゆっくりと修理する方が利益を期待できるのである(p60)


・原子力施設からでる放射性物質の排出規制は・・・基準内であるか否かよりも、検出されたことが大きなニュースとなり、地元の不安を鎮めるために運転を停止して原因究明が行われることがくりかえされた・・・米国の公報には排出基準をオーバーして排出したため、罰金を取られる事例が淡々と報告されているのを見かけたものであるが、これなども日本では考えられない。これらの例は日本人特有の潔癖感による社会的反応によるものであるが・・・なぜそこまでする必要があるのかを外国に説明するのが難しい(p242)


・1895年、東京電燈ではドイツAEG製50ヘルツ交流発電機を浅草発電所に採用した。また、1897年大阪電燈はGE製60ヘルツ機を幸町発電所に採用した。これが本州中央部を境に西が60ヘルツ、東が50ヘルツと日本が周波数で二分される遠因となった(p96)


・サハリン-沿海州-朝鮮半島-日本列島-サハリン-沿海州というループ構造を持った電力システムを建設することによって、東アジア関係諸国の関係改善と経済発展を図ることは、考え始めてもよいのではないだろうか(p327)


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【私の評価】★★★☆☆(78点)


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■目次


第一部 電力の「光と影」を見たあるアメリカ人技術者とその怒り
 第一章 米国電力産業史 エジソンからエンロンまでの120年
 第二章 民主主義制度のもとで正しい電力政策は実行可能か
 第三章 電力技術者はいかに行動すべきか
第二部 日本の電力の足跡をたどる
 第一章 草創期、輝かしい先人達の足跡(1887~1939年)
 第二章 戦時統制、敗戦、そして戦後復興(1939~51年))
 第三章 経済成長と電力再編後の躍進(1951~65年)
 第四章 高度成長と経済大国・資源小国の葛藤(1965~94年)
 第五章 日本型電力自由化の軌跡(1994年~)
第三部 2050年を見据えるわが国電力の今日的課題
 第一章 電気事業の地球環境問題への取り組み
 第二章 エネルギー安全保障と原子力の位置付け
 第三章 電機メーカー、「モノづくり」と「サービス」の新世紀
 第四章 プロフェッションとしての電力技術者の育成
終章 広がる「電力人」の世界



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