「アンティキテラ 古代ギリシアのコンピュータ」ジョー マーチャント
2019/04/23公開 更新本のソムリエ [PR]
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【私の評価】★★★☆☆(79点)
要約と感想レビュー
1901年ギリシアの沖合からアンティキテラの機械と呼ばれる青銅の機械が発見されました。機械には4本のスポークを持った歯車とさらに小さな歯車が見られ、小さな文字が刻まれた板もあり時計のようなものと考えられました。しかし、時計ではありえないのです。この船では紀元前の硬貨も発見されており、2000年も前に沈んだものと考えられたからです。では、この機械は何なのでしょうか。
・ブロンズの硬貨も数枚まじっていた・・・エフェソスの硬貨だった・・銀貨よりやや時代が下がり、紀元前70年から60年のあいだに発行されていた(p87)
この機械が何なのかよくわからないまま、この機械は放置されていました。アンティキテラの機械発見から半世紀後にイギリスの若い学者プライスがこの機械に注目します。X線写真撮影機でアンティキテラの機械を撮影し、その構造を読み解いたのです。1976年、プライスはこの機械が差動歯車を持った月と太陽の動きを計算するものと発表しました。
・差動歯車・・この仕組みが最初に利用されたのはヨーロッパで、ルネサンス期の天文時計の天体を動かすために使われたが、その後このアイディアが紡績に採用された(p103)
さらにその後、ブロムリーとライトがアンティキテラの機械を、X線断層撮影してさらに精密に解析しました。21世紀に入るとフロイトがCT撮影と最新のコンピュータグラフィックを用いた解析が行われ、2006年に機械の構造はほぼ解明されたのです。
研究者の間には、発見者としての名誉をかけた研究の主導権争いがあることがよくわかりました。マーチャントさん、良い本をありがとうございました。
この本で私が共感した名言
・銅が海中に沈むと・・・塩化銅が作り出される・・・そして錫も酸素イオンに反応して、酸化錫を作り出す・・この新たな化合物が海中に沈むとブロンズの表面に錫層を形成し、その層がそれ以上の腐食を防いでくれるのだ(p42)
・道具に歯車を使った最初のギリシア人は、紀元前三世紀の最も有名な二人の発明者、クテシビオスとアルキメデスである・・・ヴィトルヴィウスは、クテシビオスが水時計を作ったと書いている。水に浮かんだ浮きが、水位が上がるとともに上昇し、「台と歯車」の働きで、一時間ごとに針を動かす装置である(p47)
・紀元1000年頃に・・アル・ビルニが"月の箱"と名づけた歯車つきの暦のことが書かれていた。その箱はアストロラーベの裏側にとりつけるもので、中に8個の歯車があり、天球上の太陽と月の位置、および月の位相が計算できた(p145)
・機械が歯車を使ってたんなる天体の円運動だけでなく楕円運動も、さらには軌道面の変化までも模倣していた証拠を手に入れたのだ(p237)
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【私の評価】★★★☆☆(79点)
目次
1 海底より現れしもの
2 ありえない
3 「戦利品」
4 科学史は塗りかえられた
5 大胆な推理
6 十九世紀のコンピュータがふたりを結びつけた
7 すべては解読の名誉のために
8 最強の布陣
9 みごとな設計
10 アルキメデスの影
著者経歴
ジョー・マーチャント(Jo Marchant)・・・科学ジャーナリスト。生物学を学び、医療微生物学で博士号取得。「ネイチャー」「ニュー・サイエンティスト」などの一流科学誌で記者、編集者をつとめたのち、独立。「ガーディアン」や「エコノミスト」にも寄稿を行っている。著書『アンティキテラ 古代ギリシアのコンピュータ』がイギリス王立協会賞の2009年度ショートリスト(最終候補)作品になった