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【書評】「キッシンジャー超交渉術」ジェームズ・K・セベニウス他

2019/03/18公開 更新
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キッシンジャー超交渉術


【私の評価】★★★★☆(85点)


要約と感想レビュー


両者の顔を立てる

キッシンジャーといえばアメリカのニクソン、フォード時代に大統領補佐官、国務長官を務めました。国家安全保障会議(NSC)の外交主導体制をつくり上げ、ベトナム戦争においては中国とソ連との関係改善を改善し、北ベトナムへの支援を減らすことに成功しています。


中東においても中東戦争後、エジプトとイスラエルの兵力引き離し協定を締結させ、ソ連による中東への関与を妨害することに成功しています。


キッシンジャーはそれを解決するために、両者の顔を立てることのできる優雅で曖昧な表現を案出した。・・・「台湾海峡のどちらの側の中国人も、中国はただ一つだと主張していることをアメリカは認識した。アメリカ政府は、この立場に異議を唱えない」(p267)

南部アフリカの白人支配を終わらせる

この本で驚いたのは、キッシンジャーが南部アフリカの白人支配を終わらせたことです。もちろん白人がアパルトヘイトの特権を簡単に手放すはずがありません。


しかし、キッシンジャーは南部アフリカ地域においてソ連、キューバに支援された暴動が頻発し、このままではソ連の支配地域になってしまうという可能性を懸念しました。そこで、米国、英国、南アフリカ諸国の関係者の利害を調整し、黒人多数支配への道筋をつけたのです。


合意をためらう相手に対しては、「あなたがこの選択肢を好まないことは知っていますが、果たして代替策はあるのでしょうか?」と問いかけ、不合意がもたらす悲惨な結果を鮮明に描いてみせた(p227)

戦略目標をはっきりさせる

キッシンジャーには賛否あるようですが、状況把握を徹底していること、戦略目標をはっきりさせること、事前に打てるだけの手を打つこと、など印象的でした。日本では歴史を見れば、状況把握さえできていないことが多いので、大きな差があると思いました。


この差を認識するところからはじまるのでしょう。良い本をありがとうございました。


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この本で私が共感した名言


・スタッフに対して私は常にこう言っている。『自分がどこにいて、どこへ行きたいか、この国がどこへ向かうべきかを分析し、その答えから具体的な解決策を導きなさい』(p109)


・キッシンジャーは常に、交渉が成立した場合としなかった場合の双方への影響を事前に見積もり、それを操作しようとした(p123)


・実際は、交渉の前に、自分にとって有利になるように状況を固めておくことのほうがよっぽど重要である。合意、不合意に応じてアメとムチを用意しておくこともできるだろうし、注意深く援軍を集める一方、妨害しそうな敵を未然に無力化することも可能だ(p6)


・キッシンジャーのことを「カメレオン」と呼ぶ人もいた・・・同じ地形について、ある人には丘のことばかり語り、別の人には、谷のことばかり語るといった具合だ・・・このような変貌自在なアプローチはリスクを伴う。たとえば、交渉相手がキッシンジャーの覚書を読み比べて、矛盾を見つけたら、キッシンジャーのことを二枚舌だと思うだろう(p258)


・戦術として極端な要求から始めるのではなく、初めから自らの目標と関心を正直に相手に伝えることを、キッシンジャーは勧める。そうしなければ、交渉は効率的に進まないと彼は断言する(p263)


・一般に交渉における一国の立場は、提案の論理だけでなく、相手が拒んだ時に、いかなるペナルティを課すかによって決まる・・・外交と軍事行動の結果は分けられないということだ。行動に伴う報酬や代償なしに、大学院のセミナーのように外交ができるという考えは、幻想にすぎない(p141)


・「勝つための同盟」を構築できるかどうか、そして「妨害するための同盟」を防いだり破ったりできるかどうかは、アプローチの順番にかかっているとも言ってもいい(p218)


・キッシンジャーの言う「入念な準備」には、その問題に精通することだけでなく、自らの関心、相手方の心理、目的、懸念、認識、関係、政治的文脈、文化をより明確にすることも含まれた(p226)


・メッセージの内容は無情かもしれないが、それを柔らかく伝えることは可能だ・・・共感を態度で示しながら、率直に主張することは可能だ(p82)


・ソ連の戦術は、モスクワの当面の関心事を選び、交渉相手を説得するためではなく、疲れて降参させるために、延々と同じ主張を繰り返すというものだ。ソ連の交渉者が頑として、政府の決定事項をひたすら主張し続けるさまは・・・高次の政治問題を不毛な値引き交渉のようにしてしまった(p234)


・周は不意に、きわめて攻撃的になることがあります。ヘイグ大将と私はどちらも彼からすさまじい口撃を受けました・・あなたは、それを我慢するべきではなく、毅然と、しかし穏やかに対処するべきです。もしあなたが引き下がったら、周は攻撃的であり続けるでしょう(p239)


・圧力に屈しての譲歩は、新たな圧力を招きやすい。すぐ折れる、という評判が立てば、相手は交渉を長引かせようとするだろう。けれども、自発的に譲歩すれば、相手もその見返りとして何らかの譲歩を見せる(p256)


・日本の高官には、命令を下す権限もなければ、法によって支配する権限もない。基本的に、高官という地位に伴うのは、同僚を説得する際に主導権を握れるという特権だけだ。また、日本の首相は、国民の総意の管理人にすぎず、自ら総意を形成するわけではない(p246)


・ビスマルクは「他の列強が、他のどの国とよりプロシアと近い関係になるよう、外交を操作しようとした。そうやって他国をそれぞれ孤立させておけば、他国がプロシアの協力を求めた時に、最高額を入札する国に協力を売ることができるからだ」(p204)


▼引用は下記の書籍からです。
キッシンジャー超交渉術
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ジェームズ・K・セベニウス、R・ニコラス・バーンズ、ロバート・H・ムヌーキン
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【私の評価】★★★★☆(85点)


目次

パート1 キッシンジャーはどのように交渉したか
第1章 交渉戦略を練る
第2章 戦略から実行へ
第3章 南部アフリカ作戦の成果と巧みな交渉に学ぶ

パート2 ズームアウト
第4章 戦略 ―― 広い視野からの交渉
第5章 現実主義 ―― 合意・不合意のバランスを調べる
第6章 ゲームを変える ―― 合意・不合意のバランスを形成する
第7章 多国間交渉の難しさ ―― 複雑な交渉を組み合わせる

パート3 ズームイン
第8章 キッシンジャーの対人アプローチと戦術
第9章 交渉相手の心を読む
第10章 親密さとつながり
第11章 提案、譲歩、建設的曖昧さ
第12章 粘り強さ、勢い、シャトル外交
第13章 秘密主義、集中管理、個人プレー
最終章 ヘンリー・キッシンジャーの交渉術の核心

まとめ 交渉者キッシンジャーからの重要な教訓
解説 キッシンジャーの交渉術から日本人が学ぶべきこと



著者経歴

ジェームズ・K・セベニウス・・・ハーバード・ビジネススクール教授(ゴードン・ドナルドソン・プロフェッサー)。同校のMBA(経営学修士)コースに交渉学をいち早く導入し、学生や上級管理者に高度な交渉について教えている。また、ハーバード・ロースクールのハーバード交渉学プロジェクトのディレクターと、実践にフォーカスした教育機関であるハーバード大学交渉術研究所の副所長も務めている。ハーバード・ケネディスクールの教授時代、ハーバード大学・マサチューセッツ工科大学・タフツ大学の連携による「偉大な交渉者賞」の座長を務めた。交渉戦略を専門とするラックス・セベニウスLLCを共同創業し、世界各国の政府やトップ企業を顧客に、困難な交渉について助言している。さらに、ブラックストーン・グループや米国商務省にも助言する。ヴァンダービルト大学を卒業後、スタンフォード大学エンジニアリングスクールで修士号、ハーバード大学でビジネス経済学の博士号を取得。


R・ニコラス・バーンズ・・・ハーバード・ケネディスクール教授(ロイ・アンド・バーバラ・グッドマン・ファミリー・プロフェッサー)。外交術と国際関係を専門とする。
外交の未来プロジェクトのディレクターであり、中東・インド・南アジアプログラムの責任者を務める。政府への貢献により国務長官功労賞を受賞した。アスペン・ストラテジー・グループの取締役、コーエン・グループの上級相談役、インテグリス社の取締役会のメンバーでもある。ジョン・ケリー元国務長官の外交政策委員会のメンバーであり、外交評議会やスペシャル・オリンピックス・インターナショナルなど数多くの非営利団体のために働いた。アメリカ芸術科学アカデミー、セント・ジョン勲章、レッド・ソックス・ネーションのメンバーでもある。ボストン大学の学士号とジョンズ・ホプキンズ大学スクール・オブ・アドバンスト・インターナショナル・スタディーズの修士号のほか、12の名誉学位を授与された。


ロバート・H・ムヌーキン・・・ハーバード・ロースクール教授および、ハーバード大学交渉学研究所の所長であり、ハーバード交渉学研究プロジェクトのディレクター。紛争解決の分野における指導的学者で、自らの学際的な手法を、商業上の紛争や政治紛争における交渉と解決に幅広く活かしてきた。これまでに10冊の本を執筆または編集した。最近の著書 Bargaining with the Devil:When to Negotiate, When to Fight では、きわめて重要な意思決定について掘り下げている。ムヌーキンは、ハーバード大学とハーバード・ロースクールを卒業後、最高裁判所のジョン・M・ハラン判事の法律顧問を務め、サンフランシスコで弁護士を開業した。ハーバード・ロースクールの教授になる前は、長年にわたってスタンフォード大学とカリフォルニア大学バークレー校で教鞭をとり、スタンフォード紛争・交渉センターを創設し、そのディレクターを務めた。同センターは、交渉の障壁を克服することに焦点を当てた学際的なグループである。


ヘンリー・キッシンジャー・・・アメリカの外交官であり、政治学者である。リチャード・ニクソン大統領とジェラルド・フォード大統領の政権で、国家安全保障問題担当大統領補佐官と国務長官を兼任した。交渉によってベトナム戦争の停戦を導いた功績により、1973年にノーベル平和賞を受賞した。公職を退いた後も、一流企業の重役や米国大統領を含む世界のリーダーが、キッシンジャーに助言を求めている。


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