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「スッキリ中国論 スジの日本、量の中国」田中 信彦

2019/01/15公開 更新
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スッキリ中国論 スジの日本、量の中国


【私の評価】★★★★☆(88点)


要約と感想レビュー

 リクルート、ユニクロの中国事業にコンサルタントとしてかかわり、アドバイザーとして活躍する田中さんの一冊。日本人と中国人の違いをスジの日本、量の中国と説明しています。スジとは「こうあるべき」と考える人。量とは「利益が多いか、少ないか」「強いか、弱いか」で考える人です。


 例えば、賄賂を要求されると日本人は私の良心がそうしたことは許さないと断りますが、絶対にバレないなら賄賂を払えばいいじゃないかと中国人は考えるのです。商品を買うときも日本人は今買うべき理由を考える。中国人は、自分が買いたくてカネがあれば買うのです。中国でも人をなだめるために、「謝罪」という方法もあるのですが、主眼は損得の方にあるので、中国の「暴動」や抗議活動は、だいたいはおカネで(表面的には)収まってしまうという。


 また同じように、道路を100m造るごとに、ある役人の懐に1万元のお金が入る仕組みがあれば、役人たちは競うように道路を造ろうとします。そこには役人の面子や出世競争、大国としての虚栄心などに加えて「汚職によるインセンティブ」が機能しているわけです。


・中国人は、その場の状況を的確に認識し、どういう行動を取るのが最も合理的かを瞬時に判断して、臨機応変な行動をするべきだと思っている・・・・原則にこだわる日本人を、頑迷固陋で頭の回転が遅い「出来が悪い」人間だと思いやすい(p17)


 面白いところは、「面子」でしょう。中国は人治の国といわれますので、それぞれの人に「面子」があるのです。「面子」とは、その人の持つお金であり、地位であり、権力なのです。その「面子」が立たなければ、周囲の人から見くびられてしまう。


 例えば、中国では、お金持ちがバスに乗ることはまずありません。逆に言えば「バスに乗っている」ことは、イコール「お金があまりない」ことを意味してしまうのです。「量」を基準に考える社会で「持っているお金が少ない」のは恥ずかしいことで、面子がないのです。これは日本人には理解しにくい価値観なのかものかもしれません。


 したがって、中国のお金持ちは確かにお金は持っていますが、支出も多いのです。儲けたお金相応の消費しないと周囲が許さないのです。中国社会で「ケチ」と言われたら、途端に人もお金も遠のいていくから、使わざるを得ないという。


・中国人にとっての「面子」は、自分という人間が人格を肯定されるか否定されるか、くらいの意味を持つ・・皆が「相手に見くびられたら商売にならない」と思っていて・・(p210)


 中国人は自尊心が高いので、日本人から笑顔でアプローチすると良い結果になることが多いそうです。まず、こちらから中国人の自尊心を満たしてあげる。だからこそ、これだけの中国人が来日しているのでしょう。そして自尊心が高いというのは、中国の「現場」で働いている人は、「これしかやることがないから仕方ない」という心の持ちようになってしまうのです。その仕事に誇りとか愛着を持つという心情になりにくいという。


 だから、中国人が日本のスーパーのレジ係の効率の高さ、礼儀正しさに驚き、どうしてこんな「つまらない仕事」にひたむきになれるのか、理解できないという。中国人の心理の根底に「自分を低く見られたくない」という意識があり、他人に対して愛想がよくない理由だというのです。レベルの高い中国人と日本人の分析でした。田中さん、良い本をありがとうございました。


この本で私が共感した名言

・中国社会では、事の当否は別として、お金持ちか否か、権力・権限を持つ人かどうか、社会的な影響力を持つ(自分の意見を通せる)人物かどうか、どういった、その人物の「大きさ」「力の強さ」を重視する傾向が強い(p209)


・中国人のこういう自尊心の強さは・・相手から先に自分に対する好意が示された途端、一瞬にして満足される・・・自分の存在が相手から認められた、相手から自分が尊重された・・こうなると嬉しくて仕方がない。そして突然、満面の笑顔になって、自分を尊重してくれたその相手に、自分も最大限の好意をもって向き合おうとするのである(p146)


・自分の前に誰かが割り込んだらどうするか。その瞬間、中国人の頭に自動的に湧き上がってくるのは、「この人物が割り込むことで、自分が切符を買う時間がどれだけ遅れるか」ということである。力点はここでも「自分への影響の大小」にある。「割り込みはよくない」という世界一律の規範になるのではない(p41)


・中国の人たちは「他人の言うことは正確でない(あてにならない)」ことを最初から前提にしている・・・だから他者の発信する情報が不正確で、時に自分が不利益を被ることがあっても、それは最終的には自分が判断したことで、もちろん愉快ではないが、世の中そういうものであると粛々と受け入れる(p55)


スッキリ中国論 スジの日本、量の中国
スッキリ中国論 スジの日本、量の中国
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田中 信彦
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【私の評価】★★★★☆(88点)


目次

第1章 「スジ」に沿う日本、「量」で考える中国
第2章 「スジ」と「量」の特性はこう表れる
第3章 「量」の中国人が会社で考えていること
第4章 「量」の世界は毎日が闘い
第5章 「スジ」の民、日本人の生きる道
第6章 「量」の社会にスマホがもたらした"革命"


著者経歴

 田中 信彦(たなか のぶひこ)・・・BHCC(Brighton Human Capital Consulting Co, Ltd.Beijing)パートナー。亜細亜大学大学院アジア・国際経営戦略研究科(MBA)講師(非常勤)、前リクルート ワークス研究所客員研究員。1983年早稲田大学政治経済学部卒。1990年代初頭から中国での人事マネジメント領域で執筆、コンサルティング活動に従事。リクルート中国プロジェクト、ユニクロ(ファーストリテイリング)中国事業などに参画。上海と東京を拠点に大手企業等のコンサルタント、アドバイザーとして活躍している。


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