「多田駿伝:「日中和平」を模索し続けた陸軍大将の無念」岩井 秀一郎
2017/06/01公開 更新本のソムリエ [PR]
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【私の評価】★★★☆☆(71点)
■日中戦争の中で参謀本部次長、
支那駐留軍司令官などを歴任した
多田駿という男がいました。
多田は参謀次長として、
中国との戦争回避に努めましたが、
大臣らは中国との戦争拡大を主張し、
日中戦争は拡大していきました。
東北の人らしく
自分の意見を落ち通す力と喧嘩が
弱かったのかもしれません。
・近衛は・・自分の出した「対手とせず」声明を
明らかに失敗だったと認めている・・
参謀本部の一部に残っていた
「不拡大派(和平派)」はその後、
河辺作戦課長の更迭や
多田の転出を機に勢力を失い、
武藤章や東條英機ら「拡大派(強硬派)」が
陸軍中枢を独占するようになる(p33)
■中国での経験が長く、
中国人の友人も多かったようです。
中国人というものを理解し、
表面的な親日家は排除し、
本当の意味での親日家を
育てることを主張してます。
また、
謀略では中国人にはかなわない、
と発言するなど、
現実を直視して方針を考える人だと
思いました。
・(多田は)軍閥の実力者に頼ることを批判し、
中国人の中でも「職業的親日家」と呼ばれる
ような人物たちに注意を促している。
日本に迎合し、日中の親善提携と言いながら、
結局自分たちの利害で動く中国人は、
排除したほうがいいというのである(p81)
■多田駿は、
太平洋戦争前に退役しています。
見識が高くても、
権力を持たなければ
組織は動かせません。
石原さんは性格が悪くて
権力を持てなかった、
多田さんは性格が良すぎて
権力を持てなかった
ように感じました。
岩井さん、
良い本をありがとうございました。
───────────────
■この本で私が共感したところは次のとおりです。
・多田参謀次長の「[中国側の対応は]脈なしと断定せず、
脈あるように図るべきである」という提唱は、
日中の和平を願い、国運を憂える至誠の声であったが、
時の大勢はこれを圧殺した・・
軍部両大臣からさえ反撃され、
参謀本部首脳も政府との決定的衝突を好まない以上、
次長としては孤立無援、すでに勝敗あり、
無念だったであろう(松浦義教)(p153)
・参謀本部の和平意見を紹介したが、
これに対して近衛は反対して、
「今さら和平をやっていかぬ。
そんなことでは政治は出来ないし、
自分の政治生命はなくなる」
といった(p160)
・日中戦争には様々な要因があるが、
多田はその一つとして、
日本人の振る舞いに対する
中国人の反発を挙げている(p62)
・この非常時に欠かせない人物であるはずの石原について
「欠陥もあるが、他人の及ばぬ長所がある人[石原]を
[陸軍が]許容できない」ので「悲喜こもごも」
としか言えず、戦地からの手紙では
批判的なことを言うのは慎む・・(多田)(p247)
・米内光正海相の日記にも「同日の連絡会議において、
陸軍大臣[杉山元]と参謀次長[多田駿]との大衝突が
あった」とその様子が記されている。まるで第三者
のような書き方だが、すでに見てきたように、
米内自身が多田に対してい「交渉打ち切りか、
さもなくば内閣総辞職か」と迫っていたのである(p155)
・容疑蟄居中、父(多田駿)は縁のあったシナの要人達が
次々といわゆる漢奸として処刑されていく報道を聞き、
もしそれらの人々が政府主脳として日本軍に対処する
ことがなければ、一般民衆はどうなっていたか、
許されるならば、行って弁護して上げたいと
述懐していた(p280)
・可哀相なのは支那の民衆だ。支那軍と来たら
後方部隊というものがないから、行った先々で
糧食はおろか寒くなれば衣類まで徴発する。
それがまるで強奪だ。人民たちは餓死しやせんかと
同情に耐えんのだよ(多田)(p111)
・満州国軍は、昨年満洲建国と共に
中央に統一さられ、国家の軍隊と
なりしものなるも、その大部分は
もともと東北四省における各軍閥の
頭に属せる私兵なり。
支那は昔より文を尚(とうと)び、
武を軽んぜる国柄なるため、
雇われて兵となるものは、
素質不良の者多く・・(p55)
・軍人らしからぬと評されていた陸軍大臣は、
自宅のほかには資産らしい資産を何も残さずに
死んでいった。ただ、家の中には多量の蔵書や
資料などが残された(p288)
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【私の評価】★★★☆☆(71点)
■目次
プロローグ "終の住処"を訪ねて
序章 参謀次長の涙―「日中和平」ならず
第1章 「弱い者いじめ」が大嫌い―仙台から満洲・天津へ
第2章 不拡大派"最後の砦"―「中国通」参謀次長の本懐
第3章 失われた良識―熾烈な権力抗争の中で
第4章 幻の陸軍大臣―東條英機の対極として
第5章 房総での閑日月―自責の念を抱えた将軍
終章 相馬御風への手紙―良寛を介して溢れる心情
エピローグ 友とともに
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