「日本史の謎は「地形」で解ける」竹村 公太郎
2016/08/10公開 更新本のソムリエ [PR]
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【私の評価】★★★★☆(86点)
要約と感想レビュー
土木屋さんが、「地形」から歴史の謎を読み解くという本です。いきなり「モンゴルの元寇は、なぜ失敗したのか」への答えにびっくりしました。それは、日本にはモンゴル軍が牛車と騎馬を使うことのできる「平らな大地」がなかったからというのです。 確かに日本は、泥の平地と山間部しかありません。
・牛車群と騎馬軍団が活躍できるのは、縦横無尽に走り回る大地があっての話だ。・・牛車群のモンゴル軍が進撃する乾いた大地など日本にはなかった。日本にはむかるんだ「泥」の土地が広がっているだけだった(p89)
関東の治水の歴史もおもしろいものです。徳川家は関東に広がる湿地帯を活用するため、堤防を作ります。そして、その堤防周辺に人を集めるために吉原を移転し、桜を植えたというのです。人が集まれば、堤防を踏み固め、維持管理が容易になるわけです。
また、なぜ徳川家康が江戸に幕府を設置したのかといえば、著者の推測は、利根川流域の手つかずの森林があったことです。江戸は木材というエネルギー供給が可能という利点があったのです。
・幕府にはどうしても吉原遊郭を日本堤へ移転させたい理由があった・・江戸市民が知らず知らずのうちに河川管理者になり、日本堤を強化し、監視していたのだ・・・対岸の墨田堤でも人々が振わうための仕掛けがなされた。8代将軍・吉宗は墨田堤の両脇に桜を植えさせた(p238)
驚きの連続でした。地形だけでこれだけ歴史を読み解くことができるとは!学問とはこうした面白さが、人を引き付けるのでしょう。竹村さん、良い本をありがとうございました。
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この本で私が共感した名言
・忠臣蔵は不思議な謎に包まれた劇なのだ・・この劇の第一幕の動機がわかっていない・・この物語の最終幕も謎に包まれている・・最終幕の演目は「吉良家の滅亡」なのだ(p143)
・欧米列強が植民地支配する手法は、常に「Divide and Rule(分割統治)」であった。その土地の人々の分裂を広げ、人々の一体感を裂くことである・・英国は、薩長の倒幕を支援し、フランスは幕府の武力抗戦を支援した(p276)
・世界史の中でも、奈良は奇跡の都市である。1000年以上前の飛鳥時代の壁画が鮮やかに残されており、世界最古の木造建築群の法隆寺や大仏が建っている。さらに、校倉造りの木造倉庫・正倉院も・・シルクロードの宝物が収納されている(p298)
PHP研究所 (2013-10-03)
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【私の評価】★★★★☆(86点)
目次
第1章 関ヶ原勝利後、なぜ家康はすぐ江戸に戻ったか
第2章 なぜ信長は比叡山延暦寺を焼き討ちしたか
第3章 なぜ頼朝は鎌倉に幕府を開いたか
第4章 元寇が失敗に終わった本当の理由とは何か
第5章 半蔵門は本当に裏門だったのか
第6章 赤穂浪士の討ち入りはなぜ成功したか
第7章 なぜ徳川幕府は吉良家を抹殺したか
第8章 四十七士はなぜ泉岳寺に埋葬されたか
第9章 なぜ家康は江戸入り直後に小名木川を造ったか
第10章 江戸100万人の飲み水をなぜ確保できたか
第11章 なぜ吉原遊郭は移転したのか
第12章 実質的な最後の「征夷大将軍」は誰か
第13章 なぜ江戸無血開戦が実現したか
第14章 なぜ京都が都になったか
第15章 日本文明を生んだ奈良は、なぜ衰退したか
第16章 なぜ大阪には緑の空間が少ないか
第17章 脆弱な土地・福岡はなぜ巨大都市となったか
第18章 「二つの遷都」はなぜ行われたか
著者経歴
竹村公太郎(たけむら こうたろう)・・・1945年生まれ。横浜市出身。1970年、東北大学工学部土木工学科修士課程修了。同年、建設省入省。以来、主にダム・河川事業を担当し、近畿地方建設局長、河川局長などを歴任。2002年、国土交通省退官。現在、リバーフロント研究所代表理事及び日本水フォーラム事務局長。社会資本整備の論客として活躍する一方、地形・気象・下部構造(インフラ)の視点から日本と世界の文明を論じ、注目を集める
読んでいただきありがとうございました!
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