「水力発電が日本を救うー今あるダムで年間2兆円超の電力を増やせる 」竹村 公太郎
2018/07/25公開 更新本のソムリエ [PR]
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【私の評価】★★★★★(90点)
要約と感想レビュー
不安定電源である太陽光や風力が固定価格買取制度という法律により強制的に導入され、電気は不安定となり料金が高くなっています。電力系統を安定させるために、不安定電源である再エネと同量のバックアップ電源が待機していますが、それでも電気が余ったり、電気が足りなくなる危険性が高まっているのです。
この本では、未来の電力供給を救えるのは不安定な太陽光や風力ではなく、水力であると断言しています。なぜなら水力は安価な再生可能エネルギーで、ダムさえ造れば100年以上使えるうえに、発電量を調整できるからです。
100年以上使えるダムは、最初に多額の費用がかかりますが、それ以降は支払う必要がないのです。多くの人が間違うのは、法定の減価償却期間で水力を経済計算することです。法定の減価償却期間は、実際に耐用年数よりも短いので、見かけ上コストが高いように見えるのです。減価償却後は水力は圧倒的に安価になるので、実際の耐用年数で計算すれば、水力は圧倒的に安価になるのです。
・日本のダムは半永久的に使える。たとえ100年経っても、ダムは水を貯めている。ダム湖の水を電気に変換できる(p6)
多くの土地を水没させるダムを新しく造ることはハードルが高いものの、現状のままで水力発電容量を高める方法が3つあります。その方法は、次の3つです。
1 ダムの嵩上げ
2 多目的ダムの治水容量を撤廃して事前放流を拡大すること
3 発電していないダムで発電すること
ダムの嵩上げでは、たった10%の嵩上げで 発電量は約70%も増えます。つまり新設のダムを作るよりも、既設のダムの裾上げをしたほうが、短期間に発電量を増やすことができるのです。
また、現在の多くのダム湖の水位は半分くらいしか貯めていないという。これは雨量が多い時期には、ダムから放水して、大雨の備えとしてダムの空の容量を維持しているのです。現在は天気予報の精度が高くなったので、大雨の予報に基づき予備放流すればよいのに、法律で決まっているからできないのです。
このように「特定多目的ダム法」を改正するだけで、水力の発電量を増やすことは可能なのに、著者が国土交通省役人に提言しても、取り合ってくれないという。
・わざわざダムのスペースを空けておくのは、大雨のときにはそこに水を貯めて、川の氾濫を防ぐという目的があるからだ・・・多目的ダムは、利水と治水の両方を目的として造られている。矛盾した二つの目的があるため、両者の折衷案として、ある程度の水は貯めるものの、ある程度は空にしておくしかない(p24)
固定価格買取制度(FIT)では、発電量を調整できない太陽光や風力に水力よりも高い値段をつけているのは本当に残念なことだと思います。なぜなら、水力こそが100年以上使える安定した電源であり、国の財産だからです。
大量につくられた太陽光、風力が100年後にどうなっているのか法律を作った人にはイメージできなかったのでしょう。竹村さん、良い本をありがとうございました。
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この本で私が共感した名言
・石油などは100年後、200年後に本当にあるだろうか。今と同じように安価で手に入るだろうか・・そんな時代になったら、必ず、水力発電が必要になる(p5)
・ダムが壊れない理由
1 コンクリートに鉄筋がない・・
2 基礎が岩盤と一体化している・・
3 壁の厚さは100m・・(p70)
・逆調整池ダム・・・既存の水力発電ダムがあるとする。その下流に小さなダムを造っておき、電力需要のピークの2時間程度、上流の水力発電ダムから大きく放流してピークの電力需要に応えるのだ(p79)
・国と県の河川管理者は、自らが水力発電を開発する立場にない。誰かが水力を開発したいと申し出るのをただ待っていて、許可を与える、または不許可にする行政行為を行うだけだ(p39)
・小水力発電の収支・・・500kW規模の水力発電を行うとする・・工事費は・・平均的なところでおよそ7億円と仮定する・・年間の売電収入が大体7300万円・・6000万円を返済に回すと、1300万円が残る。そこから発電施設の維持費として人件費等で年に600万円ほど引くと、残りは700万円になる。15年から18年で償却できる・・・債務がなくなった後は、6000万円の返済は必要なくなる。発電所は、機械の維持修繕や機械の更新を行っていけば100年はもつ(p170)
東洋経済新報社
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【私の評価】★★★★★(90点)
目次
序 100年後の日本のために
第1章 なぜ、ダムを増やさずに水力発電を二倍にできるのか
第2章 なぜ、日本をエネルギー資源大国と呼べるのか
第3章 なぜ、日本のダムは二〇〇兆円の遺産なのか
第4章 なぜ、地形を見ればエネルギーの将来が分かるのか
第5章 なぜ、水源地域が水力発電事業のオーナーになるべきなのか
第6章 どうすれば、水源地域主体の水力発電は成功できるのか
終章 未来のエネルギーと水力発電
著者経歴
竹村公太郎(たけむら こうたろう)・・・1945年生まれ。横浜市出身。1970年、東北大学工学部土木工学科修士課程修了。同年、建設省入省。以来、主にダム・河川事業を担当し、近畿地方建設局長、河川局長などを歴任。2002年、国土交通省退官。現在、リバーフロント研究所代表理事及び日本水フォーラム事務局長。社会資本整備の論客として活躍する一方、地形・気象・下部構造(インフラ)の視点から日本と世界の文明を論じ、注目を集める
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