「不揃いの木を組む」小川 三夫、塩野 米松
2015/09/11公開 更新本のソムリエ [PR]
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【私の評価】★★★★★(91点)
要約と感想レビュー
お天道様が見ている
法隆寺、薬師寺の再建で副棟梁をつとめ、寺社建築会社「鵤(いかるが)工舎」棟梁の小川さんの一冊です。鵤工舎では徒弟制度で人を育て、共同生活10年間の修行で匠となります。10年間という時間をかけてじっくりと人を育てるのです。
お寺の建築をするときは「仏さんが見てるぞ」というように、お天道様が見ていると昔の人はいっていたという。だから見えないところをちゃんとするという。二百年か三百年後に、解体した大工さんが、「ああ、こういう丁寧な仕事をしていたんだな」と自分たちの顔を思い浮かべてくれる、そのときになったらわかってくれるだろう、と仕事をしているというのです。
十年の年月は隠し事やいいふりをすることが無駄なことを教えてくれます。・・苦しく辛い時間だから一刻一秒が体にしみこみ、百年千年という時間の意味がわかってくるのではないかと思っています(p5)
すぐに教えてはいけない
印象的だったのは、すぐに教えてはいけないということです。現場でやらせてみて、悩まし、困らせる。その上で、ヒントを与え、自分で考えさせるのです。そうして得た知識こそが、本当に身に付いた知恵となり現場で生きるのです。
だから、はじめ、掃除ばかりさせるという。掃除をしていれば、人が削っているところを見たら、自分でも削りたい、削りたいと思って「削れる!」と思ったときに、鉋をパッと渡してやったら、もう嬉しくてしようがない。それでいざやろうとすると、なかなかできないところから仕事がはじまるというのです。
棟梁であったとしても、絶対に弟子に対してストレートに答えをいわないというのです。何となく、こうではないかぐらいで止めるのが、匠の世界なのです。実は現場では、一人で考えたってろくな解決策は出ないのです。
答えがわからなくて、ほかの人を見ていると見えてくることもあるというのです。答えは外にあるんだ。ほかの人が見せてくれているんだというのが、小林さん流なのです。
困ったときに本を読むか、人に聞くかということでいいんだ。だからはじめのうちは、困っているからって聞かれても、簡単に教えたらあかんのや・・・だから、まずは大変だけれども、現場に思いきって放りこむ(p163)
死ぬまでに完成するかどうか
宮大工の仕事とは、少なくとも百年後にどうなっているのかを考える仕事だという。それ以上に自分たちの仕事が形として残っていくわけで、非常に恐ろしいことだというのです。いま結合することができて、それでOKではないのです。一つ一つの部材の精密さより、それを組み合わせた全体が調和し、100年後も破綻しないことが大切だというのです。
100年後を考えた仕事し、仕事を通じて、人を育て、継承していく「鵤工舎」には、昔の日本があるように感じました。何になりたいのか、いま何をしなけれびけないのか、仕事以外の時間の使い方でその人の人生が左右されるのが職人の世界なのです。
だから短く要領よくやっていくと、ずるの積み重ねだから、物にならないのだという。手抜きをせず、ゆっくり一所懸命にやって、死ぬまでに完成するかどうかというのが工人の世界のです。小川さん、良い本をありがとうございました。
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この本で私が共感した名言
・何でも先を読むことが大切だ。それが段取りだな。・・こういうふうにしていこう、こういう納めにしていこうって、一つひとつを読み取れるようになることだ。そのためにはやはり、どっぷり仕事に浸ることだよ。浸らなかったら先が読めない(p50)
・きれいな鉋屑が出るまでに十年かかるって俺はいっているけど、実際はそんなのはもっと早くできるんだよ。できるんだけれども、まだまだきれいに削れるだろうと思って一所懸命やる姿勢が大切なんだ。これでいいと思ったら終わりやからな。そういうことなんだよ(p60)
・怒るときは、なぜ怒るかとか、怒るとどうなるかとか、そういう冷静さを持ったらあかんのや。腹が立ったら、その場で怒るのがいい。怒るのを我慢するっていうことは、もう相手にしないということになっちゃうんだな。(p118)
・手道具をうまく使える人が機械を使えば、機械を120%使いこなせるよ。機械だけしか使えないやつだったら、80%ぐらいしかその能力を引き出せないんんじゃないかな(p187)
文藝春秋 (2012-03-09)
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【私の評価】★★★★★(91点)
目次
鵤工舎の四つのクラス
不揃いの弟子の複式学級
棟梁に必要な四つの力
よけいな知恵を捨てて、まっさらな心に
個室、個食がいかん
不揃いのものを組み上げる
三十歳前にどっぷりと仕事に浸れ
大工に適した体をつくる
職人にカリキュラムはない
ゆっくり時間をかけることの弊害
著者経歴
小川三夫(おがわ みつお)・・・1947年、栃木県生まれ。高校のとき修学旅行で法隆寺を見て感激し、宮大工を志す。21歳の時に法隆寺宮大工の西岡常一棟梁に入門。唯一の内弟子となる。法輪寺三重塔、薬師寺西塔、金堂の再建では副棟梁を務める。1977年、独自の従弟制度による寺社建築会社「鵤工舎」を設立。数々の寺社建築の棟梁を務める。2003年「現代の名工」に選出。2007年棟梁の地位を後進に譲る
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